第60話 エルフの集落への護衛依頼 4
シュワの町は、規模で言うとゲネブの半分にも満たないだろう。だがそれだけにゲネブでは見れないものもあったりする。その1つが屋台村だ。
街の中に屋台が立ち並ぶ広場があるのだ。恐らく屋台の場所も区画を切ってあるのだろう、日本で見たフリーマーケットのように綺麗に店が並んでいた。朝から活気がある屋台を廻れば、そこらじゅうから旨そうな匂いが漂ってくる。食べ物ばかりじゃなく、花や野菜、洋服などを売る店も多い。これは楽しい。
朝食は宿で取ったので腹は減っていないが、旅用の食材を少し買い集める。もともと往復10日と聞いていたので往復分は用意していなかったのでタイミングとしてはちょうどよいかもしれない。少し高かったがチーズも見かけたので買ったりした。
そうこうしていると小腹がすいてくる。というより匂いが良すぎて食べたくてたまらなくなるのだ。あのピザっぽいのも旨そうだったし。ポルトと肉や野菜を練って揚げたコロッケ的なのも喰ってみたい……この世界の焼きそばがどんな味なのかも確かめたい。駄目だ。胃袋がいくつ合っても足りなそうだ。
そんな中、牡蠣を殻ごと鉄板の上でガラガラと焼いている店を見つける。いや、牡蠣かは解らないが見た感じは牡蠣だな。他のお客を見ているとそこにオリーブオイルを垂らし食べてる。そんな姿を見て、悩みは消えた。よし。これは行かないと一生後悔する。
「おばちゃん。これって1つから買えるんですか?」
「いらっしゃい。1つからでも大丈夫だよ。でも3つは食べてほしいなぁ。1つは塩、もう一つはこのルカンを絞ったのを掛ける。そして最後の1つはプームオイルを掛けて、3種類の味を楽しむのがシュワの焼き牡蠣の食べ方よ!」
「おおお! それ良いですね! 行きます! 3つください」
そう頼むと、おばちゃんは嬉しそうに牡蠣を3つ選んで木のプレートに乗せてくれた。
店独自の名前なのかは不明だが、グラッツ焼きと言うらしい。
「あいよ! 殻は熱いから気をつけな。そこに調味料あるから自分の好きに掛けるんだよ。あと殻はそこのゴミ箱に捨ててちょうだい。」
ううう、これはたまらんちん。言われた通りに三種類の調味料を掛けて食べる。ちなみにルカンは、まあレモンの様な柑橘類だ。
「あつっ……おおおお! 旨え! まじヤベえ!」
「そうだろ? 親戚がルッカ村で養殖しててね、毎日届けてくれる新鮮な牡蠣なのよ」
これは堪らない。濃厚な牡蠣の味が口いっぱいに広がる。これは屋台への期待度も上がりまくる。日本酒は無いだろうけど、なんかこう、ちょっと一杯くらいなら……
……ん?
今、そこ通っていった子、女子高生っぽい格好してなかったか? ふと気になって目で追うが雑踏の中に紛れ込んでしまう。いや、でも髪は赤っぽかったな。日本人じゃないか。ううむ。気になるが……グラッツ焼きの方が今は……なんて言ってられないか。最後の一個をかき込んで殻をゴミ箱に捨て、トレーを返すと女子高生っぽい子の消えた方向へ向かっていく。
いないな。結構あの格好は目立つと思うんだけど。昼飯時だからなのか、食事系の屋台の前に人が集まってて邪魔すぎる。
くそう、見失ったか? なんとなく見たことある感じがしたんだがなあ。
また屋台村をぶらぶらしていれば会えるだろうと、次の食べ物を探す事にする。そう言えばさっき溶かしたチーズを大量にポルテに掛けていた店があったな。あのインパクトはやばかった。
記憶を頼りに店を探す。すると。その店の前に例の女の子が立って店主の親父にあれこれとトッピングの注文をつけていた。下げてるリュックも紐を長くして女子高生っぽい。
やはりこの制服は記憶にある。たしか、海洋高校を舞台にした人気のアニメで、ヨットでレースしたり恋愛したりするやつだった気がする。アニメ自体は見たことがないが、映画の番宣などを見て知ってはいた。
たしか制服が特徴的でエポレットと言う海兵さんの制服にあるような肩章が着いているセーラー服で、コスプレしている画像もチョクチョク見かけたことはある。ゲームセンターのUFOキャッチャーみたいなので、このキャラのフィギュアが景品に成ったのも見たことがある。
……まさにそのままのコスプレだよな。そうそう、こんなワインレッドのボブヘアーの子も居たかも。ていうかなんてアニメだったっけ……
……あ!
「兄ちゃんも食べてけよ、うめーぞー」
思い出したのと当時に店の親父が声をかけてきた。それにつれられて女の子がこっちを振り向く。内巻きのボブがすこしふわっとする。前髪はぱつんと揃えてあり、小顔の女の子の顔によく合っている。可愛らしいじゃないか。黒目黒髪の俺の顔をみて目を見開く。やはりわかるか。わかるよな。
「あ……」
「こちら向島海洋高校ヨット部?」
「……うん」
少し離れた花壇の枠に2人で腰掛けてチーズポルテを食べている。こうやって女の子と食事なんて何年ぶりだ? そんな事を考えると少し緊張してくる。
「えっと。横田省吾って言います」
「わたしは、みつ子……。」
「うん、名字は?」
「……コスプレーヤーみつこ」
「いや、名字は?」
「……言いたくない」
……言いたくないって……はっ! まさか!?
「だってにんげんだもの」
バキッ!!!
「痛え!!! なんでいきなり殴る!?」
「言いたくないって言ってるでしょ!! そういうの気を使えない男なの!? そうよ!会田みつ子よ! 会うに田んぼの田! 漢字だって違うでしょ!」
うわあ……まあ、子供の頃からからかわれてたんだろうな。しかし痛え。<頑丈>持ってるんだぜ俺。
「う、うん。ごめんよ。」
「そうよ、反省しなさい」
「しょうがないじゃないか、だってにんげん――」
バキッ!!!
「痛えよ!! ちょっと場を和まそうとしただけじゃねえかっ!」
「和むのはあんただけでしょっ!!」
うわあ、こええ。危険だな、これ以上地雷原に足を突っ込むのは止めよう。
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