第61話 エルフの集落への護衛依頼 5

「じゃあみっちゃんは、一年前にこっちに来たのか」

「なによ、みっちゃんって」

「いや、名前言うと怒るんだもん」

「だって……名前言うたびにちょっとニヤッとしてるじゃない」

「してないけどなあ……」


 みつ子は、1年程前にこの世界に転生してきたという。近くの村でギルドに登録し、半年ほど冒険者をしてE級試験の為に王都のギルドに行き、そこで今のパーティーのメンバーと知り合って王都で暮していたとの事だった。


 少し前にゲネブの方に裕也という有名な刀鍛冶が居るという話を聞き、名前から転生者だろうと裕也に合うためにゲネブに向かってくる途中だったという。


「ああ、裕也は20年前にこっちに転生してきた日本人だよ」

「え? 知ってるの? じゃあ紹介してよ」

「いやあ、今護衛任務でエルフの集落に行く途中なのよ、会い方教えるから」


 そういえば、何も書くものを持ってない。みつ子に聞くと藁半紙のような質の悪い紙とペンを渡される。ウーノ村のチソットの家の場所がわかる簡単な地図を書きここに、裕也の息子が勉強に来ていると教えた。あとは一応裕也の家の場所を教えたが、あまり目印が無いので上手く伝わったか微妙だ。



「そういえばみっちゃんは、黒目黒髪じゃないのな」

「レイヤーのイベントの帰りに、ストーカーに刺されたから」

「うわっ……ご愁傷様すぎるな」

「で、女神様にその色で転生してくれるって言われて。目立ちそうで断ろうとしたんだけどね、皆いろんな色の髪の人が居る世界だよって言うからそうしてもらったの」

「いや、それは正解だろ。黒目黒髪は結構しんどいぞ。第一印象が悪いからな」

「そうみたいね、まあ女性の冒険者も殆ど居ないから、女性ってだけでも苦労はするわ」

「そういや女性冒険者は殆ど見ないな」


 そう、この世界にはあまり女性冒険者が居ない。荒事も多いのもあるし、男性パーティーに女性が混じることでのトラブルなども原因となる。有名な女性の冒険者は大抵が女性だけのパーティーで成功していたり、カップルなどのペアだったり、男がちょっかい出せないくらい本気で強いかなど限定されてきてしまうんじゃないかな。


 まあ一応スラム上がりのモナなどは子供だから何ともいえないが、今後は何処まで続けられるか分からないのだろう。みつ子も王都の比較的女性の多い都会に行ったからこそパーティーを組めた感じらしい。



 みつ子も死んだのは2020年の同じ年。これで3人揃ったわけだが、このタイムラグのいい加減さはなんだろう。てっきり裕也の転生から俺の転生までの20年から予想して、10年ほど前か20年後かの転生になると予想していたのだが。



「省吾君は幾つで亡くなったの?」

「43。オッサンなのにこの形はなかなか慣れないよ、みっちゃんは?」

「22よ、まあよく言うじゃない、身を改めれば心従って転ずるなり、だっけ? 段々心が若い体になじんで行くものよ」

「なんとなくだけど、それ着る物とかで気持ちが変わるって話じゃないか?」

「似たようなものよ」



 それにしてもカラコンの目の色もそのまま定着させちゃっているのか、見れば見るほど不思議な色に感じるな。ちょっと青みのあるグレーというのか。


「なーに? 私に見とれちゃって」

「いやさ、目の色が不思議だなあって」

「おいおい素直か? そこは素直に見とれてたって言っちゃいなよ」

「まあ充分美人で通ると思うよ」

「なにその恋愛が終了した枯れたオヤジ的発言。省吾君も今は充分若いんだからドキドキしなさいよ」

「ははは」



 お互い同郷の懐かしさのせいか、話がだいぶ盛り上がる。拳で語り合った友情ポイントもあったのかもしれないが。明日にはエルフの集落に向けてまた出発してしまうと言うと、みつ子も今日はこのまま村に泊まって明日にでもゲネブ方面に行く事になった。今日は1日付き合ってあげるよとずいぶん上から目線で宣言される。




 泊まる宿を教えてよと言うので、連れて行く。どうやら今日昼を食べたら出発する予定だったらしく本日の宿は決まっていなかったらしい。無事に部屋も空いていたので一部屋確保した。


 夕食はどうする? と聞かれたので今日は警護団の人たちと食事の約束もしてあるからもう席を予約しちゃってると答える。本当の話なんだ。


「ふうん、じゃあ私もご一緒させてもらおうかな?」


 みつ子はあまり人見知りしないのだろうか、平然と知らない宴席にも顔を出そうという。しょうがないのでもう1人食事追加をお願いしてまた街に繰り出した。俺もまだまだ街を色々見てみたかったからな。





「おおう、ショーゴ! いきなりナンパとはやるじゃねえか」

「何言ってるんすか、ナンパなんてしてませんよ」


 そりゃそうなるか。ロンドさんがニヤニヤしながら突っ込んでくる。


「そうなんです。省吾君なんか積極的でぇ」

「やめえい!」


 初めて会う警護団の面々にも物怖じしない。とんだ太い女である。一応、同郷の幼馴染的な感じで話は通したが。


「王都の冒険者って言うと、《アルストロメリア》か?」

「そーです。ママに拾ってもらってユニオンの一員にしてもらいましたよ」

「おお! ママってもしかしてパンテールか!? ビッグネームじゃねえか」


 王都には女性冒険者のユニオンがあるという。不遇になりがちな女性冒険者たちの組合のようなもので、ユニオン員の女性たちでパーティーを組むアシストをしていたりすることで女性が冒険者としてやっていきやすい環境づくりをしている。そして、その長がビッグママと言われるパンテールという冒険者で、女性冒険者たちのカリスマ的な存在だという。カリスマと言われるだけあり、ランクもなんとAランクだ。


 みつ子は祝福持ちの転生者だけあって実力もなかなかのもので、最近はパンテールにも気に入られて、パーティーへの誘いも受けているらしい。


 ロンドさん達も宴席に女性が居るのが嬉しいのかテンションアゲアゲだ。だがみつ子も負けてない。


「すげえじゃねえか。こんなGランク冒険者の若造より、俺たちの方が収入安定してるぜ!」

「きっと省吾君はこれから伸びるんですよ。大器晩成型なんです♪」


 ……もう好きにしてくれ。



 今日は明日の仕事のことを考えてあまり飲まないぞと言っていたくせに、だいぶ盛り上がりやがって。女の子が1人居るだけで……まあ男ってそういうもんだな。

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