第62話 エルフの集落への護衛依頼 6

 朝の集合時間は基本的に2パターンある。日の出後といわれる、大体日の出のあと30分から1時間くらいの時間と、鐘がなる8~9時くらいの時間だ。恐らく日の出を教えてくれる目覚ましの魔道具と、教会の鐘の音が朝の時間の目安として使われるからだ。転生して3ヵ月程たって体内時計や太陽の傾きでわりと時間の感覚が分かるようになってきた感はあるが、朝の目覚めばかりは毎度緊張してしまう。


 ジリジリジリジリ……


 よし、ちゃんと起きれた。しかしこんな早朝だもんな。昨日の夜にみつ子とはまた会えたらと挨拶もしたし良いか。食堂で朝食を取ろうとするとすでに警護団の面々は食事をしていた。


「おはようございます」

「おう、起きれたな。みつ子ちゃんはどうした?」

「何言ってるんですか? 知りませんよ。別に同じ部屋に泊まった訳でもないですし。流石にまだ寝てるんじゃないですかね」


「ふぁああ。起きてますよぉ~」


 おおう。見事に寝癖バリバリのみつ子が食堂に入ってきた。


「お、おはよう。みっちゃんも今日は早く出るの?」

「うーん。私もエルフの集落見てみたいなって思って」

「へ? みつ子さん何言ってるんですか? 僕らは仕事で行くんですよ?」


 やり取りを見ていたロンドさんが、いきなりテンション上げてくる。


「おお、みつ子ちゃんも一緒に行こうよ、商人たちには言ってやるからさ」

「本当ですか!? もうロンドさん女の扱いが上手なんだから~」

「はっはっはっ。俺がちゃんと守ってやるさ」


 おいおいおいおい。




 みつ子の同行はあっさりと許可された。報酬を要らないと言うのも大きいだろうが、一応Dランク冒険者と言うのもここからの道中の安心を得るのに足りた。しかも商人含め全員男。反対するものは……居なかった。



 いやまあ、俺もおおっぴらに反対はしないよ? だけど男だけの隊商にみつ子が入り込むのはちょっと心配に成る部分があると言えばあるんだ。野宿だってするんだぜ? ザンギ達だって居るしさ。で、そのザンギたちは相変わらず遅れてきたが、それでもちょっと位なので許される範囲だろう。それよりもザンギ達も嫌らしい顔でみつ子に話しかけているのが気になる。下心丸見えだぜ。心配事を増やさないで欲しい。



 そして何気にみつ子は騎獣持ちだった。北門近くの騎獣舎にあずけてあったらしく取りに行ってきていた。騎獣はなんていうか。毛の長いロバの様な騎獣だった。シュナウザー犬みたいな爺さんっぽい毛のロバだ。


 実はこのロバの様な騎獣は割とよく見かける。リーグルと言われる魔物を家畜化したもので、小さめの荷車を引かせていたり、荷物を上に積み上げたり。要は、地球のロバと同じ様な扱いをしている騎獣だ。そこまで大きくはないが小柄な女性を乗せるには十分なのだろう。


「そのロバ……ブサ可愛いっていうのか? 女子的には」

「ふふふ。可愛いでしょ? 今回の旅行のために買ったのよ。もっと脚の速いのとか欲しかったけど、まだまだそこまで貯金もなくてね」


 まあ、転生して一年くらいか。そこまで大金を稼げるように成ってたら俺は凹みますよ。


 みつ子は昨日とは違ってこの世界の服装に身を包んでいる。短めのマントの下には革鎧っぽいのも見え、アラジンパンツの様なダボダボのズボンを履いている。いや、別にビキニ鎧みたいなのを期待していたわけじゃないぞ。ただ、露出度の少なさは女性冒険者の自衛手段なんだろうなと言う考察をだな……。




 シュワの街からヌタ村までは2日。そこまでは魔物の心配はあまり要らないので道中は気楽な感じで良い。俺は、周りから色々と声をかけられ、楽しそうに応対しているみつ子をぼんやりと見ながら社交力の差を思い知っていた。



 1日目の太陽も沈みはじめ、夜営時の準備をしていると、みつ子が俺のテントを羨ましそうに見ている。裕也に貰ったんだと言うと自分もお願いすると息巻いていた。当のみつ子は何処からか木の棒を拾ってきて簡単にタープをテント風に貼っている。ううむ。しょうがないか。


「あー。みっちゃん俺のテントで寝るか?」

「えー何? 夜のお誘い?」

「アホか、タープだと色々外から見られるだろ? 俺は夜番もあるしそのタープで寝るから」

「ホント!? 省吾君も優しい所あるじゃない。こういうのって、日本人ならではだよね。この世界の人には無い感覚だと思うの。嬉しいから甘えちゃおうかな」


 みつ子が嬉しそうに笑う。なんか自分がきざな事をしてるような気がしてちょっと恥ずかしくなる。


「ねっ、寝袋は自分の使ってくれよな」

「はーい」



 その後アヒージョを作って、ザンギの所に行く。やっぱこういうのはちゃんとしなくちゃって言うのが俺の流儀だからなあ。


「俺の連れが道中迷惑かけるかも知れないが、よろしくたのみます」


 アヒージョを差し出してそういうと、ザンギは嬉しそうに受け取る。


「おう、わりいな。こないだ貰ってすげ-旨かったからまた喰いたかったんだよ。お嬢ちゃんの事は大丈夫だ。このザンギと一緒に居れば怪我1つ負う事はねえよ。まかせとけ」

「テントはみつ子が寝るっていうから、俺は横のタープで寝るんで、夜番で起こすときは間違わないでくださいね。あと、夜番起きれなくなるからお酒は村まで我慢してくださいね」

「ああー。解ってるって、飲まねえよ。大丈夫だ」



 ザンギに挨拶をして戻ると、みつ子が小さい鍋で何か料理をしていた。よく見ると薪も無いのに火が燃えている。おおお! 魔法か? 飛ばないファイヤーボールみたいなやつか。しげしげと見る、俺の光源と雰囲気は似てるかもしれないな。熱いのかな? ちょっと手を近づけてみる。


「何やってるの?」

「え? いや。熱いかな? って」

「そりゃ熱いでしょ。ファイヤーボールよ?」

「やっぱりそうか……不思議だよな、魔法って」

「不思議なのは省吾君よ。普通女の子が料理作ってたら、そっちの方が気にならない? なんで火ばっかり見てるのよ」

「んぐ、おおう! ポトフかな? 俺の分もありそう?」

「……もう良いわよ」



 そうして次の日の夕方には無事にヌタの村に着く。魔物におびえなくて良いのはここまで。明日からは龍脈から外れた森の中を進むことになる。


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