第63話 エルフの集落への護衛依頼 7

 

 ザンギが随分と張り切って、見てろ! って感じだったんだが。なんていうかヤバイ。


 小学生のサッカーのようだと言えば解るだろうか。ボールに皆集まってしまい戦術的な動きが無いあれだ。ザンギ達は魔物が出てくると三人でそこに向かって突っ込んでいく。いや、それなりに強いのは解った。流石はCランクと言ったところだ。だが他からも魔物がやってくるかも知れないという考えが皆無だ。隊商の防御に穴が開きまくるから弓を構えて必死に警戒することになる。


「ザンギさん! 魔石は後にしましょう! 先に殲滅してからでっ!」

「そう言うがよ! 魔石は早く取らないと小さくなっちまうぞっ!」

「一杯狩って数を稼いだほうが、小さくなる分より稼ぎは大きいですって!」


 こいつ等、本当に護衛任務経験者なのか? みつ子は始めは大爆笑して見ていたが段々やばさに気が付き始めたのかザンギたちの空けた穴を埋めるように動き始めていた。




 ヌタの村から龍脈が途絶えると、龍脈の恩恵というのを痛いほど感じる。

 道も整備されていない獣道のような道のため進みも遅くなる。1日目はまだ魔物の種類もフォレストウルフなどあまり問題になるものは居なかったが、2日目、3日目と森の奥に進むほどモンスターの強さも上ってきていた。


 街道沿いの野営と違って、かなり密集して野営をする。テントはいざという時の撤収に手間取りそうだとロンドに言われ、みつ子のタープの下を間借りして寝ていた。


 野営地は毎回決まっているらしく、そのたびに少しづつ周りの石を積み上げているという話で野営地はたこ壺のように開口部を1つにしてぐるっと石壁が出来ている。今回も野営の準備をしながら商人の人達までが石を拾い集めて積み上げをしていた。こんなものでも、野営をするとなると少し安心感を出してくれるものだ。




 夜番になり、起こされ焚き火の場所に行くとクレーが居る。クレーは1/4ほどエルフの血が混じっているという話だが。


「クレーさんはエルフの集落に縁があったりするんですか?」

「聞いた話だと、ばあちゃんは別の集落出身らしい。エルフって割りと閉鎖的だからあまり関係は無かったと聞いているが。実はばあちゃんにも会った事は無いんだよな、俺」

「エルフってかなり長命なんですよね? もしかしたらまだご存命で?」

「ハーフのかあちゃんもまだまだ元気だしな、もしかしたらな……ん?」


 ザッ。ザッ。という足音とともに後ろからみつ子がやって来た。


「あれ? みっちゃんどうした? 寝れないのか?」

「うん、なんかちょっと嫌な気がして、私<直感>あるから」

「え? 俺も<直感>持ってるけど何も感じないぞ?」

「おいおい、2人とも<直感>持ちかよ、すげーじゃね……ん……俺の<魔力感知>にもなんか引っかかった。……デカイぞ。みつ子ちゃん、皆起こしてきてくれないか?」


 そこに来てようやく俺の<直感>も何か嫌な気配を嗅ぎだす。なんかヤベえ気がする。矢筒から一本抜き、何時でも撃てるようにする。



 ズルッ。ズルッ。ズルッ。


 ……静寂の中で何かを擦る様な音が聞こえる。蛇の魔物か? 奥の方からロンド達がやって来た。


「いるな。結構大きそうだ」

「音からすると蛇か? レッドアナコンダ? いや、もっと大きいな」

「毒持ちかもしれない、サントス、ダンク、盾を出しておけ」


 ん? 音が消えてる?



 ギャアアア!!!


 その時咆哮の様な悲鳴のような鳴き声を上げながら、頭に2本の角を生やした巨大な蛇が突っ込んできた。胴回りが1mくらいあるんじゃないか。とっさに盾を前に出したサントスとダンクだが、一瞬で盾を弾かれ、サントスの脇のあたりに角が突き刺さる。


「ぐあああ!」

「サントス!!!」


 蛇はそのまま角にサントスを引っ掛けたまま鎌首をもたげ、俺達を見下ろしている。暗闇の中で煌々と目が光る。何だこいつ、デカすぎる。


 ギャアアア!!!


「最悪だ! ホーンドサーペントだ」


 クレーの絶望に満ちた声が溢れる。角に貫かれたサントスがうめきを上げながら必死に角を握りしめている。あれは痛い。ロンドもあっけにとられて固まる。



 ゴオゥン!


 その時、後ろからファイヤーボールが飛んできて蛇に着弾した。みつ子だ。


「何やってるの! 止まらないで! 省吾君! 弓を」


 そうだ、戦闘中に止まれば先には死しかない。すぐに弓を構え蛇に撃つ。しかし矢は当たるも刺さらない。5射して、1本のみ胴の中心部に当たったのが浅く刺さったのみだ。魔力斬でないと効かないか。弓を後ろに放り投げると剣を抜く。ロンドとダンクもホーンドサーペントに向かっていく。


 その間にもクレーさんとみつ子が魔法で攻撃を続ける。あまり効いていないかもしれない。


「ジョグさん! 前に出てタンクお願いします!」

「補助魔法をかけます!」


 そう声をかけると慌ててジョグがタワーシールドを構えながら前に出てきた。更にみつ子がジョグ達に順々に補助魔法をかけていく。なんだろう。そう思っていると俺にもかかった。体中にみつ子の魔力が浸透してくるのが解る。筋肉モリモリか???



「おおおおおお!」


 ジョグが前で盾を構えながら雄叫びを上げる。挑発系のスキルだろうか。蛇がジョグの方を向いたのを見る。よし行けるかも! 注意がタンクに向いたと解釈し俺は横から突っ込んでいく。<剛力>で脚力を上げて一気に蛇の首を目掛け飛び上がる……と、<直感>。


 げ、ヤバイ。


 突如ホーンドサーペントが首を大きく振り、角に引っかかっていたサントスをこちらに投げつけてきた。


 うおおお!


 俺は空中でサントスを受け止める形で吹っ飛んでいく。高所から受け身を取れないまま地面に叩きつけられる。痛え!!! だけどこんなの、もう慣れた。すぐに自分の体が動くのを確認する。


「省吾君!」


 みつ子が声を上げる。


「こっちは大丈夫だ! くっそ、この蛇野郎が!」


 サントスの傷を確認したが脇腹に大きく穴が空いている。体のことは解らないが腹の横の方なので重要臓器が傷ついていないと良いのだが。とりあえず薬草と布を鞄から出し、薬草を傷穴に置いてその上から布で縛り付けて出血を抑える。死ぬなよ。



 はじめのショックから立ち直ったロンド達も果敢に蛇に攻撃を加える。流石にジョグとの連携はザンギ達が上手いが、あまり有効な攻撃を与えられていない。それでもロンドの槍は浅くだが傷を負わせている様に見える。



 鞄からミスリル混じりの剣を取り出し、抜く。きっと普通の剣じゃ厳しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る