第64話 エルフの集落への護衛依頼 8

 ホーンドサーペントは軽くなった角で攻撃を加えながら脇からジョグを巻き取ろうとする動きを見せるが、ジョグは上手くいなしながら攻撃を捌いている。ザンギたちは、チマチマとジョグの後ろに隠れながら攻撃の引くタイミングを狙って動いている。やるじゃねえかCランク。


「チクショー! 硬えぞこいつ!」

「もっと魔力を込めろ!」

「さっきから最大でやってるわい!」


 巨体のくせに器用に身体をくねらせ攻撃の芯を外してくるホーンドサーペントになかなか致命的な攻撃を与えられない。


 焦れたのだろうか。突然蛇が勢いよく後ろを向く。


 !!!


 巨体をねじりながらバックブローの様にしっぽを打ち付けてくる。ぶっとい尻尾がムチのようにしなるり、唸りを上げる。これだけの巨体だ。向かっていた俺の方まで尻尾は届く。なんちゅうでたらめな範囲攻撃だ。俺に向かって尻尾の先が襲いかかる。懸命に魔力を込めながら。尻尾に斬撃を加える。


 ザクッ! ドゴォン!!!


 尻尾の先が真っ二つに切れる。おし!と思ったのも束の間。切れた尻尾が勢いそのままに顔面にぶつかってきた。ぶごっ! 



 爆音が鳴り響く。大惨事は後ろで起こっていた。立ち上がり振り向くと。尻尾の元の方を叩きつけられたロンド達がみな吹っ飛んでいる。石積みの壁も少し崩れていた。


「みつ子!!!」


 尻尾を切ったおかげか、みつ子までは攻撃が届かなかったようだ。みつ子の頭上に特大の火球が作り上げられている。


「やっちまえ!」


 ギャアアア!!


 尻尾を斬られた痛みにのたうち回るホーンドサーペントに向かって火球が放たれる。


「やったか!」

「えっ! それは言っちゃ駄目なやつ!」


 があ! そうだった! いやしかし、流石にこれは……げ!?



 火球が当たる直前に、気がついたホーンドサーペントが巨大な水球を作り上げ火球にぶつける。そして爆発。


 ドガン!


 それでもある程度ダメージがあったようでフラフラとした感じで起き上がる。所々に表皮が傷つき出血している。


 くそったれ。俺のせいみたいじゃねえか。慌ててホーンドサーペントに向かう。蛇って音は解るのか? 視力はどんなだったか……そう言えばみつ子の魔法は見てなかったのに……なぜ気が付いた? 


 そうか……ピット器官かっ! 熱を感知するんだ! 同じ蛇ならこいつにも……。


「みつ子! 蛇は熱に反応したかもしれない。周りにいっぱい火の玉作れるか?」

「解った。やってみる!」


 横目にロンドが起き上がって戦線に戻ってくるのが見えた。


「ロンドさん。ホーンドサーペントを惑わせます。合図したら最大威力で攻撃してください」

「わかった!」


 みつ子が手を挙げるとホーンドサーペントの周りにどんどん火の玉が浮かび上がっていく。フラフラの蛇が戸惑うのが解る。ダメ押しに<ノイズ>を掛ける。聴覚もあるよな。最大パワーだ。


 ギャアアア!!


「ロンドさん!」


 ホーンドサーペントがノイズを嫌がり首を振る。そこへロンドが槍を突き立てる。もうここしか無いタイミングだ。<剛力>を発動させ再び跳躍する。魔力は十分。憤怒の顔で振りかぶる。


「死にさらせ!」


 行ける。振り下ろしながらホーンドサーペントと目があった気がした。あばよとっちゃん。


 ザッシュ!!


 その一振りで蛇の頭が吹き飛んでいく。


 その後レベルアップ酔いに襲われ、ホーンドサーペントが死んだことを確認してからようやく一息つく。なんとかなったぜ。




 無事にホーンドサーペントを倒し、レベルアップ酔いに浸っていると、ロンドたちがお互いの無事を確認している。


「こんな音立てて、他の魔物がやって来たりしませんかね?」

「恐らくそれは大丈夫だろう。これだけの魔物が居ると大抵の魔物は捕食されるからな、魔物たちは遠くに逃げていると思う」

「おおう、それは助かりますね、もう動きたくないっすよ」

「ははは、何にしろお前とみつ子ちゃんが居てくれて助かったよ」


 サントスは、商人が持っていたポーションでなんとか回復することが出来た。道中のポーションは経費の内だからと無償提供だ。太っ腹じゃねえか。薬草は一応は役に立っていたらしい、治癒効果もあるため出血を止めるのに役に立っていたようで、失血死を免れたのはそれのお陰だとサントスに感謝された。



「省吾君。最後の一撃の時……」


 そう言いながら、みつ子が手に持ったコップを差し出してくる。お湯を沸かして淹れたお茶を皆に配り歩いていたようだ。良くそんなコップいっぱい持ってたな。


「ん? どうした?」

「なんであんな変な顔してたの? プププッ」


 げ……例の変顔で魔力を込めてたか……治ってなかったのか。ん? なんだこのお茶あまり旨くねえな。苦い。


 罰ゲームで青汁でも飲んだような顔でみつ子を見る。


「ちゃんと飲んでね。薬草使ったハーブティーだから傷の治りが早くなるのよ。アルストロメリアで教わったの。ポーションなんて高級品、サントスさんみたいな瀕死の人にしか出せないんだから」

「あ、ああ。ありがとう。それにしてもみっちゃん戦い慣れてるなあ」

「そりゃもう、色んな所に連れて行かれたからね。でも省吾君もちゃんとやれたじゃない」

「おう、今回は死にぞこない三点セットも使わないで行けたから楽だったわ」

「死にぞこない?」


 裕也のスパルタのせいで芽生えた<極限集中><根性><逆境>の話をすると大爆笑している。きっとそれ苦労するフラグよ。と、何時だかの不安を確定事項のように語る。辞めて欲しいんだが。



 ホーンドサーペントの死体は金になるらしい。結構レアな魔物らしく、特に角がなかなか良い値で売れるとか。皮も素材としては高級品の部類に入るという。だいぶ傷は付けてしまったが巨体であるためにかなりの量が取れる。それと睾丸も精力剤などに使われるそうで丁寧に採取していた。それらはブライト商会がきっちりとお買い上げしてくれるとうことで捌いたあとで荷車に乗せていた。警護団も含めて冒険者達全員に均等して配分してくれるらしい。依頼料より高くなるぞと言われ、ザンギが雄叫びを上げていた。


 肉も旨いらしいが旅の途中だし量も量だ。とりあえず持てる量を皆が好き好きに切り取り道中の食料にするようだ。氷室に成っている荷車にも結構詰め込んでいたが、だいぶ捨てることになり勿体ない。しょうがないんだが。


 なかなか興奮してしまって皆眠れなそうだったが、ある程度処理が一段落するとひとりひとり眠りについていった。


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