第65話 エルフの集落への護衛依頼 9
ロンドの話によると、ホーンドサーペントの戦った地点がこの旅の一番の山で、ここからは少しづつ魔物の脅威も減っていくという事だった。エルフの住む集落には神樹と呼ばれるエルフが大事にしている巨大な木があり、それが龍脈と同じ様な効果を出しているらしい。集落に近づくに従って、龍脈の付近のように魔物のランクも下がるのだと。
確かにここ2日、魔物との戦闘も楽になってきた感じはある。もうじきだぞと言われれば気もウキウキしてくる。エルフの集落か!
「ねえ、見て見て! 凄い大きい木!」
みつ子が、前に見えてきた巨木を見て興奮している。
「おう、もうすぐだ、それがエルフの神樹の木だ」
なるほど、神樹と言われて納得できるデカさだ。アメリカのセコイア国立公園みたいな巨木がポツポツと見られる。奥に行くほど密集している。この木の枝をちょっと一本くらい折って持ち帰れば、裕也になんか作ってもらえるんじゃね? そんな事を考えているとロンドが教えてくれる。
「この木は枝とか絶対折っちゃいけねえぞ。エルフに殺されるからな」
「えっ!」
いや、これは俺の声じゃない。話を聞いていたザンギが驚いた顔でロンドを見ている。ホント下衆なことを考えていたんだな、ザンギのやつ……って俺もじゃねえかっ! なんとなくザンギと同類みたいだ! ここは猛省だ。猛省!
やがて先の方に集落が見えてくる。遠くから木の壁がそそりたつのが見えていたが、近づくにつれその詳細がハッキリしてくる。壁はびっちりと生えている木だった。隙間なく生えた木がいりくみ、密着して壁のようになっているのだ。その異様な光景に言葉を失う。
「見ようによっちゃ、グロテスクだよな」
「そうね。でも、壁に人の顔の形とか無いからファンタジーな感じで良いんじゃない?」
「人の顔が並んでたら完全にホラーだから……」
その木の生け垣? の中に1ヶ所だけアーチ状に穴が開いているところがある。そこが集落の入り口らしく脇に2人の人影があった。門番のようだ。
隊商が停止すると、ロンドが騎獣を駆って門に近付き、門番に何やら紙を見せている。しばらく話していると振り向き手を降ってきた。どうやら無事に集落に入る許可を貰えたようだ。
ゾロゾロと隊商が門を潜っていく、ちょっと門番がチラチラと俺の方をみているのだが、エルフにとっても黒目黒髪は珍しいのだろうか。しかしそんな視線にはもはや慣れっこなので華麗にスルーを決め込む。いよいよエルフの集落に到着したんだ。みつ子も目をキラキラさせて周りを見渡している。
「エルフの村ってイメージ的に皆ツリーハウスに住んでいると思ってたんだけど違うのね」
「あ、それ凄い解る。まあ、神樹の木が神聖なものならそこに住むのは禁忌なのかもね」
集落の中にも巨大な神樹は所々に生えていたが、建物はその周りにポツポツと建てられていて、木がなければ普通の村とあまり大差は無い感じだった。村の中央には一際大きい木がそびえ立ち、その脇には他よりもだいぶ立派な家屋が建てられていた。
集落の中に入ると何人かのエルフがやって来て、商人と話をしてる。そのエルフ達もチラチラと俺の方を見てるのが気になる。
商人たちとの話が終わるとエルフ達からこの後の説明を受ける。この村には宿などが無いため、護衛の俺たちは空いている家に滞在するように言われた。
「皆様護衛任務ご苦労様です。2泊ほどになるとは思いますが、その間此処に寝泊まりしていただきます。」
みつ子が期待に膨らんだ目で質問する。
「集落の中を歩いても良いの?」
「集落の真ん中にある大神樹には近付かないようにしていただければ、あとは自由にしていただいて構いません」
そこまで言うと、躊躇を見せながら少し気まずそうに話を続ける。
「ただ……そこの黒髪の方は族長からこの建物から出ないように言われてますので、申し訳ないですが……」
「なっ!!! 何でですか!?」
「はい……申し訳ありません、実は族長が以前に黒目黒髪の冒険者とトラブルがあって……」
ま、まじかあ。
あの勇者、ポイントポイントで俺の邪魔してくるなあ。ん? でも200年前だぜ? まあエルフは長命というが……
「その族長ってお幾つくらいの方なんですか?」
「確か、500歳を超えたくらいだったかと」
ああ……予想以上に長命だったわ。間違いないわ。200年前なら余裕で出会ってる。一応、族長が時間を取ってくれそうなら釈明くらいしたいから会いたがってる事を伝えてもらう。応じるかは難しいですねと言われたがそれでもワンチャン貰えればと。
ふう……エルフの集落散策したかったのに。
ちらちらと皆が気を使う視線を送ってくれながら、外にでかけていく。ザンギたちは全然気を使う感じはなかったが。
「省吾君、なんか美味しいものあったら買ってきてあげるから」
「うう……大丈夫、気にしないで楽しんできておくれよ」
みつ子も気を使う感じを出しながらも、ウキウキ感を全く隠せないままルンルンと宿舎からでかけていく。それを1人見送り、俺は獣の皮がひいてあるリビングにゴロンと横になる。ふて寝だ。ふて寝!
……寝転んだままぼんやりと天井を見ていると、エルフの技術の高さを感じる。木をびっちりとミリ単位で合わせて綺麗に組み上げている。ログハウスと言えばログハウスなのだが重機も無いこの世界でここまで緻密に作り上げるとは。しかも太い梁には細かな細工まで彫り込んであって素晴らしい。しかもこの建物かなり古いんじゃないか? 日本の宮大工的な高度な技術の集合感が堪らない。
すげー集落を見たく成るじゃねえか。
ちょっと堪らない気持ちになり、泣きそうになる。
コンコン……コンコン
ん? ドアをノックする音が聞こえて涙を拭いて向かう。泣いてなんていないやい。
ドアを開けるとブッ飛ぶくらいイケメンのエルフが立っていた。長命のエルフは年齢が皆不詳なのだが、雰囲気的には壮年と言った感じなのだろうか。
「休んでる所申し訳ない。ホーンドサーペントを仕留めた黒目黒髪の冒険者が居ると聞いて思わず来てしまったが、君の事か?」
「え? 確かにやっつけはしましたけど、護衛の皆で倒したんですよ?」
「とどめを刺したのは君だろ? そうか。すまなかった人違いだったようだ」
ん? 人違い? 何のことかさっぱり理解できない。イケメンエルフは少し残念そうな顔で笑うと申し訳無さそうに言ってきた。
「親父が悪かったね。昔、黒目黒髪の冒険者が妹を連れて集落から出てしまってね、未だに恨みを持っているようなんだ。妹も望んで出ていったのだから彼が悪いわけじゃないんだが……」
なんと。そういう事か。そりゃ過去の勇者も定番のごとくハーレムを形成したんだろうな。異世界でハーレムと成ればエルフが居ないわけも無いだろうし。しっかし……この女ったらしめ。後人の苦労をちっとは考えろっつんだ。
「お父さんに言っておいてください、僕はそんな女性をかどわかす様なタイプの人間じゃないんで、ただ純粋にエルフの文化を見てみたくて仕方ないんだと。街を歩く許可をくださいって」
「そうだな、俺からも言っておくよ。だからあまり無茶して勝手に歩き回ったりしないように頼む。見つかれば説得も何もなくなるからな、どうせもう1泊はするんだろ?」
「はい、そう聞いています。おとなしく待ってますんでよろしくお願いいたします」
そう言うとエルフは出ていった。あ、名前聞かなかったな。いい人っぽいから期待して今日はおとなしくしていよう。
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