第66話 エルフの集落への護衛依頼 10

 それから2時間ほどしてポツポツと皆が帰ってきた。警護団の面々は何度も来ているらしく行きつけのお店などで買い物をしてきたようだ。この隊商にかかる護衛の経費や時間などを考えれば当たり前だが、エルフの作る魔道具などをゲネブなどで購入するとものすごい値段がつくが、直接買えばかなり格安で手に入れられるとのことで年に一度この任務がある時には友人などからも買い物を頼まれたりするようだ。


 ザンギ達はエルフの集落の銘酒的な物を買ってきて自分たちの部屋に籠もりガヤガヤ飲み始める。なんだかんだ言ってジョグはザンギ達と楽しそうにはしてるよな。不思議だ。


 ちなみに建物にはリビングの他に部屋が何部屋かあり、ザンギ達で1部屋、警護団で1部屋、みつ子が1部屋の割当で、俺は警護団の人達の部屋に泊まることになった。



 腹が減ってきた。みつ子はまだか。


 街に繰り出せないイライラと、腹が減るイライラで、みつ子の到着が待ち遠しくてたまらない。楽しそうにしてる面々を羨ましそうな目で見てしまう。


 やがてみつ子が食事を持って帰ってきた。


「おお~ ありがとよ。何買ってきてくれたの?」


 そう言うと、みつ子は深めの木皿に山盛りのサラダと、サンドイッチを見せてくれる。お、おう。サラダか。野菜は大事だからな。でも若い盛りの俺にはもっと肉肉しいのを……なんてことは言えずお礼を言って受け取る。


 野菜をムシャムシャ食べていると、まるで不思議な物を見るようにサントスさんが眺めてる。


「ショーゴ、野菜ばっかだな。なんかの罰ゲームか?」

「ゴフッ。なっ、サントスさんなんてことを!」


 ちらっとみつ子の方を見ると少し気まずそうにこっちを見てる。いや、みつ子さんは悪くないですよ? と言いたいが、流石に野菜だけってのはねえ。女性の感覚なんだろうか。



「だって、リーグルの肉ばっかりなんだもの」


 なるほどだ。


 そう言えば、みつ子の騎獣はリーグルを家畜化したやつだったか。可愛がっているもんな、分かる、その気持ちは分かるぞ。あいつ可愛いもんな。


 実際、狩りで取れた他の魔物の肉もエルフたちは食べているのだが、ここら辺はリーグルが割と居るらしく、比率的には多くなってしまうらしい。まあ、たまたま今日はリーグルの肉ばかりだっただけだと思うが……ホーンドサーペント肉も恐らく卸しているんじゃないのかな? もしかしたら明日以降は市場に出回るんかもしれないな。


「みっちゃん、大丈夫よ。この野菜旨いし」

「ホント? よかった。省吾君も一緒に集落を歩ければよかったのにね」


 まあ、もとを正せばそこだからな。



 ただ……


 だんだん野菜に飽きてきて苦痛になってきたのは本当だ。しょうがないので備え付けの小さなキッチンでアヒージョ用に買ってあったプームオイルと言うほぼオリーブオイルを取り出し、細かく刻んだベーコンと一緒に加熱して野菜にかけたりして味変を試みる。お、なかなか正解だったかも。



 そこへ、シャワーを浴びてさっぱりしたロンドさんがリビングに入ってきた。


「なんだ? ショーゴ野菜ばっかだな。なにかの罰ゲームか?」

「ちょっ! ロンドさん、なんてことを!」


 ……みつ子さん真っ赤になって俯いてるじゃないか。やめてくれよ。


「お、このサンドイッチ、チーズが入ってて美味しいな!」

「うん……」


「このパンも旨いね。全粒粉ってやつかな?」

「うん……」


 フォローするの俺だぜ?




 食事の後に、みつ子とお茶を飲みながら雑談をしている。俺の巧みな話術のおかげで、みつ子はだいぶ復活してきた。


 族長の息子さんがやってきて、明日外を歩けるように族長に掛け合ってくれるみたい、と話をすると嬉しそうに許可貰ったら一緒に集落歩こうと誘われた。何となく女性から誘われるのが初め……久しぶりなのでテンションは上るな。


「それにしても男って何ですぐにハーレムとか求めちゃうのかな?」

「え? いやいや。別に男のすべてがハーレムを求めているわけじゃないでしょ?」

「そう? 省吾君も転生してさ、よしチートして無双してハーレムでウハウハじゃ~ってやってたんじゃないの?」

「ま……まさかあ! そんなわけ無いでしょ!?」

「本当ですか? 怪しいですね」

「本当ですよ! 生きていくだけで精一杯ですよ!」

「なんか声が大きいし」


 うんうん、夢見たことは……無かったわけじゃないかもしれないが。ノリですよ。ノリ。実際そんな状況になったら色々と苦労しそう……ですよね? うん、この話はまずい。


「そういえばみっちゃんは、次元鞄持ってないの? 1つ余ってるけどいる?」

「次元鞄? 持ってるよ」

「ああ、リュックの中に入れてるの? ウエストポーチはなんかかっこ悪い気がするもんね」

「違う違う。みてよ。リュックのポケット」


 そう言いながらリュックのポケット部分を見せてくる。言われて見ると、確かにリュックについているポケットが次元鞄だった。自然に馴染んでて違和感も無い。


「おお!? これ自分で?」

「そうよ、コスプレの衣装とかも自分で作ってたからね、裁縫は得意なのよ。みんなウエストポーチで使ってるけど、私もなんか抵抗があってね。リュックを加工してつけたの」

「へえ、いいじゃん。俺は初めの奴はショルダーバッグにして使ってたけど、2つになって仕方なしにそれは腰に付けてるけど」

「省吾君のショルダーバッグの形もいいよね」


 うんうん、みつ子さん分かってるじゃないか。


 その後もエルフの集落の話で盛り上がる。

 エルフ達は家で食事をする人が多いらしく食堂といっても数件で、選択肢は少ないようだが食べに行こうと盛り上がった。野菜以外のものを。と付け加えるとみつ子がいじけ顔になる。いかんな、ついこういうの言っちゃう癖は良くない。省吾反省!



 酒を飲んでいたロンドたちもそろそろ寝るというので、今日はお開きにして自分の部屋で寝ることにした。

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