第67話 エルフの集落への護衛依頼 11

 

 朝、皆で適当に朝食を取っているとノックの音がする。族長からの許可が下りるのかと急いでドアに向かう。


「おはようございます」

「おはようショーゴ君。とりあえず父は説得したよ」

「本当ですか!? ありがとうございます」


 その場で立ち話でもと、リビングに通す。

 昨日はだいぶ族長と揉めたらしい。また黒目黒髪の男が集落のエルフの女性に色目を使わないかと大分ごねていたらしいが、今日はエリックさん――このイケメンエルフの名前だ。が付き合ってくれることで何とか許可が下りたらしい。


「すいません、僕のわがままに付き合ってもらっちゃって」

「気にしないでくれ、こんな森の中に居ると外から来た刺激も楽しいからね、かえって嬉しいくらいさ」


 話しているとみつ子がやってきた。


「省吾君、外に出れるって?」

「うん、エリックさんと一緒になら出歩いてもいいって」

「ホント!? 良かったね。私も付いてっていいのかな?」


 みつ子がそういうとエリックさんがミントの香りでもしそうな爽やかな笑顔で、「もちろんどうぞ」と答える。改めてエリックさんを見たみつ子がちょっと驚いたような顔になる。


「お~。エルフの人たちは皆美形ですけど、エリックさんは飛びぬけてカッコいいですね~」

「ははは、やめてくださいよ、もう300近いおじさんですよ」


 マジか……ある程度分かってたけど改めて言われると、これで300歳とかまじやべえ。みつ子も心なしかルンルンしてる。そりゃそうだ。アイドルレベルのイケメンと街歩き出来るとか言われたら堪らないだろうしな。


 とりあえず何が見たい? と聞かれ、集落を囲む壁を見てみたいと答えた。




「やっぱすげーっすね。これどうなってるんだ?」


 壁は綺麗に、みっちりと生える木で構成されている。切った木を加工したものじゃないので生きているんだ。流石に上の高さまでは揃っていないが、木と木がこんな密着してて良く育つものだ。エリックさんに聞くとエルフの秘術で作りかた等は教えられないんだ、という事だが、木魔法の一種らしい。


 何か他に見たいものは? と聞かれるも後はただブラブラしようとしていたくらいなので食事の美味しいところや、お土産を買うお店などを聞いてみた。当然観光地ではないのでお土産屋などの気の利いた店は無いのだが、魔法を研究している学者さんへのお土産を考えているというと、魔道具などを置いている店ならとそこに向かうことになった。




 集落の中の家は基本的に平屋が多い。そして一軒一軒なんとも言えない可愛らしい造形でファンタジー感に思いっきり浸れる。ただ見ていると家の周りに花など綺麗に飾ってある家々の中に、飾りなども無く人の気配のない寂しい感じの家が散見された。空き家なのだろうか?


「そう言えば、何ていうか……空き家が多いんですか?」

「ああ、気がついたかい? 200年ほど前に魔王大戦があってね。その時にこの集落のエルフの戦士たちも参戦して、だいぶ犠牲になったんだよ」


 エルフの寿命はかなり長く、中には700歳を超えて生きた話もあるらしい。それだけに出生率が低く、世代交代も人の何倍も時間がかかるため200年の時間では人口もそこまで増えないらしい。俺達が泊まっている家もそんな事情で空いている空き家の1つだということだった。


「エルフにとっちゃ人間はねずみ算式に増えていくように見えるんだろうね」


 そんな話をしていると1軒の民家の前でエリックが足を止める。

 その家は珍しく2階建ての家で、なんというか、1階部分より2階部分の方が大きくなってるイビツで不可思議な建物だった。建物に入っていくとエリックが声をかける。


「ルードラさんいるかい?」


 しばらくすると2階から1人の年老いたエルフのお婆さんが降りてきた。


「なんじゃい、エリックか。どうした?」

「彼らが魔道具を見せて欲しいみたいなんだけど、いいかな?」

「魔道具かい? 作り貯めてたのはみんな人間の商人が買っていってしまったぞ?」


 げ、そうか。商人のノコギリ商いの狙い目だったか。やられたなあ。


「欲しいのはお前さんたちか? どんな魔道具が欲しかったんじゃ?」

「えっと。商人の人達みたいにお金があるわけじゃないので、とりあえず見せてもらいにと言う感じなんですが。知り合いにお土産をと思って、特に何がっていうのは考えてなかったんです。」

「ふむ。どんな相手に買っていく予定だったんじゃ?」

「魔法言語の学者をしてる人なんです。だからエルフの魔道具とか喜ぶかなって」

「なるほどなあ、しかし無いものは無いからのう……」


 まあしょうがないか。お礼を言って立ち去ろうとした時、エルフの婆さんが何かを思い出したように声をかけてきた。


「その学者さんってのは優秀か?」

「いや、それは良く分からないですが、でも教師としてもそれなりに有名みたいです」

「そうか、ちょっと待っておれ」


 そう言うと、2階に上がっていく。


 ……


「なんだろう?」

「さあ……僕にもよくわかりませんが」


 しばらくして、お婆さんが手に紙束を持って降りてきた。


「これはだいぶ前に書いたんじゃが、とあるアーティファクトが有ってな、アーティファクトと言うのは解るか?」

「良くはわからないですが過去の文明遺産のようなものですか?」

「そうじゃ。人間の世界に伝わってるかは分からんがな、はるか昔。巨人族が古い文明を壊す前。神々が人と共に居た時代が有ったとされるのじゃが、その頃は今のように魔法を人に与えられて居なかったと言われておる。その代わりに魔道具が文明として発達していたんじゃ。魔道具は神々が作ったのか、それとも神々の指導で人が作ったのかはわからないが、今の時代には殆ど残っていない技術が山のようにあってのう。その時代の遺物をアーティファクトと呼んでいるんじゃ」


 なんだなんだ。いきなり話が神話的になってきたじゃないか。巨人族??? なんか怖いんですが。今はもう居ないって事で良いんだよな?


「まあ、アーティファクトと言っても既に壊れててどうしようもない状態だったんじゃが、それをある程度解析して直そうとしたときのメモじゃ。理論としてはほぼ出来上がってたんじゃがな、魔王大戦やらなにやらで中途半端になってそのまま儂も年をとって製作も億劫になってな、放置しておったものじゃ」


 うおおお! ナニソレ、お土産なんてレベル超えてるんじゃね? いや。こういうアイデア程馬鹿高い値段がするんじゃないか?


「それを、譲ってくれるって事ですか?」


 お婆さんが意地悪そうにニヤリとする。


「ああ、じゃがこのメモだけだぞ? 学者ならそういうもんのが喜ぶんじゃないか?」

「はい、研究馬鹿みたいな所ある人なんで凄い喜ぶと思います! あ。だけど払える金額なら……なんですが」

「ひっひっひ。金は要らんよ、商人たちがたんまり置いてったからな。それに完成させて清書した物はちゃんと保管してある。ひっひっひっ。メモには最終的な答えは書いてないからな、頭を抱えて悩むと良いって伝えておけ」


 うわあ。こういう悪戯心がまたチャーミングだぜ。人間の寿命を遥かに超える数百年と言う年月を研究していたエルフからの挑戦状。なんか楽しいな! こういうの。


 お礼を言ってお店を出る。


 そろそろみつ子がお腹を減らしてるようなのでエリックさんにおすすめの食事処まで案内してもらった。


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