第68話 エルフの集落への護衛依頼 12

 

「省吾君最低! 人でなし! 信じらんない!!」



 うう……


 超食べにくいんだけど。


 食堂でリーグルのステーキを頼んだら、みつ子が何やら切れてる。いや、ホーンドサーペントの肉も有ったんだがちょっとお高いのよ。Gランク冒険者には懐に優しいリーグルのステーキをチョイスするしか選択肢は無かったんだ。決してわざとじゃない。


 隣では、素知らぬ顔でエリックさんがホーンドサーペントのソテーをお上品に食べている。助けてくださいよと視線を送るも目を合わせない。エリックお前もか!


 もぐもぐ……しかしなかなか旨いじゃないか。ラムっぽいというか。ていうかみつ子こっち見るな。


「みっちゃん。こういうのは食べてあげるのも供養だぞ?」

「有り得ないです。うちの子も食べ物を見る目で見てるんですね」

「いや、そんな事は無いって」


 そう言いながらみつ子はホーンドサーペントのステーキにフォークをぶっ刺す。対ベジタリアンなら色々言えるけどなあ……これは難しい。しょうがない。ここは得意の話題ずらしで……。


「そう言えばエリックさん。200年前なら勇者も死んでいるし、そのうち帰って来たりするんじゃないんですかね?」

「200年前? 勇者? 何のことだ?」

「え? いや、妹さんのことですよ」

「ん? 妹が出てったのはたかだか20年くらい前だよ?」

「へ???」


 うーん?


 ……いや。ちょっと待て……20年前? 黒目黒髪の冒険者の話を聞いて俺に会いに来ての人違い??? まさか……


「あの……つかぬことをお伺いしますが、妹さんのお名前は?」

「エリシアだ」


 !!!


「裕也か!?」


 エリックさんが目を見開く。


「裕也を知ってるのか?」

「あ、はい、なんか凄い勘違いしていました……実は僕、裕也とは知り合いなんです。エリシアさんも知ってます」

「本当か?」

「はい、同郷の縁で。あ、でも友達とかじゃなくて、知り合いなだけですよ!」

「ああ。そんな警戒しなくてもいいよ。僕は裕也とは親友だと思ってる。むしろエリシアとの結婚は喜ぶ方の立場なんだ」

「え? あ、そうだったんですか。よかったです」


 そしてそのまま裕也達の話で盛り上がる。ハヤトと言う子供も居ると話すとエリックさんは嬉しそうに会いたいなと言う。ハーフエルフと言うのも日本でファンタジーを読んでのイメージと違ってそこまでエルフから差別の対象とされる物でも無いようだった。


 実際にここに来る隊商の中で、過去にはここに居るエルフと良い仲になって留まって子を成した者もいるようだ。裕也に戦闘の基礎を教えたのもエリックさんらしく、彼の成長はすざましかったよ、と。とても懐かしそうに語る姿が印象的だった。



 森の中に転生して、わけも分からず殺されそうになったのを助けたのもエリックさんだということで、異世界から転生してきた事も知っていた。裕也と同郷と話してしまった以上、俺のことも分かるんだろう。


「そうか、君もチキュウと言う所から来たんだな」

「はい、僕はたまたますぐに裕也に拾われたんで、戦闘のいろはを教えてもらいました」

「なるほどね、君も裕也の大事な友達のようだね」


「はい! はい! 私も同郷なんですよ!」


 みつ子も話に混じってくる。どうやらリーグルの怒りは少し収まってきたようだ。それにしてもみつ子も割りと簡単に素性ばらしてるけど良いのか?



 その後、のんびりと集落の中を歩きながらエルフの生活を見て回る。ぶら散歩は超楽しいのですよ。俺が日本で生きていた頃、割りとテレビでも街歩き系の番組が好きで、夜にウォーキングするときもよく知らない道を見つけると歩いてみたりしていたんだ。



 弓の練習場では、何人かのエルフの子供たちが練習をしている。エリックさんを見ると嬉しそうに集まってくるのだが、みつ子が子供たちの可愛らしさにだいぶやられていた。


「かわいい~。ねえねえ省吾君、思わずつれて帰りたくなるねっ」

「それやったら、どどめ色の髪の冒険者も出入り禁止になるぞ?」

「なによどどめ色って。なんかすごい響きが悪いんですけど。ワインレッドって言ってよ」

「はい、ワインレッドです。間違いないです」


 みつ子も弓を体験したいと言うのでエリックさんに手ほどきを受けながらやっていた。ふふ、きっと弓は俺のほうが上手いな。


 エルフは精霊に近い存在と言うことで、生まれながらに風魔法を使えるのが殆どなのだという。ただ、稀に木魔法や水魔法を持って生まれる子も居るとかでそういう子の為に王国との取り決めで風魔法のスクロールが提供されるという。と言っても多くても年に1人くらいの出生率なので稀らしいが。


 なぜそこまで風魔法に拘るのか気になって聞いたところ。日常的に森の中での狩りで生活しているエルフは、弓が使えてこそ一人前と言う考え方があり、弓を撃つ時に風魔法を組み合わせることで命中精度や威力を上げる技術が伝わっているという。やはりエルフたちにとっては風魔法が必須なのだろう。


 まあ、なんにしろ念願のエルフの集落の見学が出来たんだ。満足度は高い。弓の練習で思い出したのだが、ここまでの道中でだいぶ矢が減っていたのでエリックさんにお店を教えてもらって矢の補充も出来た。



 夕食はリーグルの肉を食べさせまいとするみつ子に、「だって高いんだもの」と言い訳をして注文しようとすると、今日は私が奢るわよとホーンドサーペントを食べさせられた。実年齢で言えば20歳近く年下の女の子に奢られるのはちょっと気が引けるが、この世界にきてだいぶ奢られ慣れてきている。ありがたくご馳走してもらう。



 宿舎に戻ると、みんな戻っていた。流石にそこまで大きい集落では無いのでやることも無いんだろうな。ロンドたちはトランプのようなカードで遊んでいた。


「おう、ショーゴ。みつ子ちゃんとのデートは楽しめたか?」

「勘弁してくださいよ。そもそもエリックさんと3人で歩いていたんですよ? あんな超絶イケメンが居てデートなんて気分にならないですよ」

「ははは。まあエルフはしょうがねえよ、俺クラスじゃねえと太刀打ちできねえ」


 よし。敢えて突っ込まねえぞ。


 明日の日の出には出発する事になったぞと伝えられ、明日からの野営に備え今日は早めに寝ることにした。


「みっちゃん今日はありがとね、サーペントもご馳走様」

「私も楽しかったよ、今度は2人で散歩しようね」

「お? おう」


 天然なのか? みつ子は。気軽に男心をくすぐってくるぜ。

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