第69話 エルフの集落への護衛依頼 13
早朝、一応ザンギたちを叩き起こす。初日はそんな問題ないだろうと昨日も酒を飲んでいたようで部屋が少し酒臭い。ホーンドサーペントの1件からザンギが俺を下に見るような態度は無くなったが元々がダメ人間気質なんだろう。俺も慣れてきてる。
見送りに来たエリックさんに、機会があればまた来ますと言うと。僕もハヤトに逢いたいから村から出る機会があれば行くよと言われる。来年にはハヤトが王都の学院に行ってしまうかもと言う話をすると、急いだほうが良いのかな? と言う。エルフの時間の概念で考えると今度行くが数年先になったりしそうだからな。
そしてエリックと硬い握手を交わし別れた。
道中、魔物が全く出ないわけではないが、行きと比べると夜の襲撃も大したものはなく平穏に過ぎていく。ホーンドサーペントの影響がまだ少し残っているのだろうか。もう少しでヌタ村に着くという辺りで、ポツポツと雨が降り出してきた。
「雨かあ。こんな中襲われたらちょっとしんどいよな」
「あ、そういうフラグっぽいこと言わないの」
そう言いながらみつ子が合羽を取り出して着込んでいたので、俺もあわてて合羽を上からかぶる。流石にこの世界に透湿素材なんてものが無いから中で蒸し蒸しして気持ちが悪い。騎獣に乗ってるみつ子と違って、こっちは歩きだ。しかもエルフの集落から風呂もシャワーも入っていないから何となく痒くなる気もして不快だ。匂うんじゃないか?
「風呂に入りたくなるよね」
「うん。なんか私も匂うかな。やだなあ。省吾君あまり近づかないでね」
「ははは。そういう匂いが好きって男もいるんじゃね?」
「うわっ。最低ですよ。そういうの」
流石にここら辺まで来れば龍脈の影響も出てくるのだろうか、フラグは回収されること無くそのままヌタ村までたどり着いた。
「ふう、ここまで来れば後は龍脈沿いだから楽ですね」
「気持ちは分かるけどな、ここからは盗賊団に気をつけないとな」
「ああ、そういうのもありましたね」
流石にロンドさん達はプロなんだろうな。俺は完全に気を抜いていたわ。再び気を引き締めて最後まで油断しないようにしないと。家に帰るまでが遠足ですよ。永遠のテーマだ。
ちなみにヌタ村には宿屋が無い。辺境の集落に毛の生えたような小さな村なのでしょうがないのだろうが、その代わり寄合小屋が一軒あるため皆そこでの雑魚寝となる。みつ子が体を拭きたいからと小屋の隅でタープで目隠しを作っている。
「省吾隊員。誰も覗かない様に見張りをお願いします」
「了解しました。ご安心ください。俺しか覗きません」
「不許可です。直立不動で前だけ見ていなさい」
「はーい」
やがて少しさっぱりした感じでみつ子が出てきた。女性の冒険者は確かにきついのかもな。アルストロメリアみたいな組合が無きゃ確かにやっていけないかも。
次の日の朝もまだ少し雨は降っていたが、昼ごろには止みはじめた。
帰りのシュワの街もちょっと楽しみにしていて、みつ子とシュワの街をブラ散歩しようと話をしていたのだが、残念ながら帰りは一泊しかしないと言われてしまう。用事がなければそうなんだろう。
夕方くらいにはシュワの街に無事到着し、行きで泊まった宿に再び宿泊することにした。騎獣を預け、チェックインするとすぐに風呂に向かう。ようやくさっぱりした体になり気持ちがいい。同じく風呂に入ってご機嫌のみつ子と待ち合わせ、屋台巡りに向かう。ロンドさんに夕食はどうする?と聞かれたが外で食べてくるからと宿での宴会は断った。
「シュワの街といえば焼き牡蠣だぜ!」
「あれ? 省吾君ってシュワの街に初めて来たんじゃなかった」
「あ……うん。でもお店のおばちゃんがそう言ってたんです。旨かったんです」
俺の知ったかぶりも瞬殺されるが、焼き牡蠣の旨さを熱く語り、連れて行く。旨そうに頬張るみつ子にドヤ顔すると、次は私の番ね。と張り合ってきた。何の勝負だい?
日が傾き始めると、アチラコチラで街灯が灯り、屋台の雰囲気がぐぐっと変わってくる。もうお腹いっぱいと言いながらプリンの様な物を食べるみつ子を眺めている。
「この後、裕也の家まで行くんだろ?」
「うん、そのつもりでこっちまで来たからね。やっぱり会っておきたいじゃん? 日本人仲間だし」
「そうだな。まあ、悪いやつじゃないよ。訓練は鬼だったけど」
「ははは。でもその代わり省吾君の魔力斬はなかなかじゃない。あの時だってトドメをさせたのは省吾君がいたからだよ?」
「いやまあ……そうだね。感謝しないとな」
まあ、実際裕也には感謝してもしきれない位の恩を感じてる。ただまあ。男の友達同士ってのはそういうのはあまり口に出さないんだよな。きっと。
「えっと……みっちゃんは……その後ゲネブにも?」
「ううん。エルフの集落に行くのに大分日にち使っちゃったからね、王都の仲間には1ヶ月位って言って出てきたから流石に帰らないと」
「ああ……まあ、そっか。そうだよな……」
ううむ。みつ子にはみつ子の生活があるんだもんあ。
「ん? んんん? あれ? ちょっと残念な顔かな?」
突然みつ子が顔を覗き込んでくる。おいおい。近い近い。そのまま俺の頭を乱暴にナデナデしだした。
「ちょっ! なにすんだよっ!」
「良いじゃん。この世界では私のほうが半年くらいお姉さんなんだし」
「み、みつ子さん。俺の精神年齢は40代ですからね」
やばい。年下に完全に手玉に取られてるみたいです。女性経験がゼ……少ない俺にはこの攻勢をしのげるのか。いや。しのいでみせる!
「省吾君は、ハーレムとか作らないって約束できますか?」
「へ? は? いや、そんなの作るわけないでしょ?」
「約束できますか?」
「うぐ……約束できるさ」
「ふふふ。うん。ちゃんと約束守れるなら、またユニオンに休暇貰ってゲネブまで行ってあげるよ」
「ず、ずいぶん上からだな」
「そうです。みつ子さんの方が冒険者ランクも上ですからね」
みつ子はそう言うと、立ち上がりそろそろ宿に帰りましょうと言う。振り返ったみつ子の表情はどんなだったのだろう。屋台の光に逆光になり、俺にはよく見えなかった。
宿に戻ると、まだロンドさん達は食堂で盛り上がっていた。
ただ、何となく混じる気になれなくて、先に寝ますねと、自分の部屋に戻った。
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