第70話 エルフの集落への護衛依頼 14
シュワの街からしばらく平穏な行程が続いたが、ポロ村を過ぎウーノ村に向かう道中。いよいよ盗賊団が現れた。このまま何も無く行けば良かったのにな。
「馬鹿だな、これだけ人数集めて余裕ぶっこいたんだろうな。この人数で夜襲を選択されたらちょっと厳しかったが」
まさしくロンドさんの言うとおりだった。
昼間に全員起きている時間。完全武装でみつ子も入れて9人の護衛隊に40~50人ほどの盗賊団が襲い掛かってきた。恐らく俺より<直感>のレベルが高いみつ子がまず気が付いた。
天気は晴れ。遮蔽物も無い場所。視界は良好。近づいてくる盗賊団が隊商にたどり着くまでに俺の弓だけで10人近く脱落させる。逆に向こうの矢はクルーさんの風魔法で当たらない。さらに乱れ飛ぶみつ子のファイヤーボールがどんどんと敵の数を減らしていく。
ホーンドサーペントの時に見せた特大の火球をみつ子が作り上げると、盗賊団の士気が瞬く間に消失していくのが分かる。相手の動揺を感じれば。こちらの気持ちにも余裕が出てくる。寄せ集めのまとまりのない盗賊団だ。すでに何人もが逃げだしている。
戦況を掴めていない盗賊が何とか隊商までたどり着くも、ザンギ達と警護団の面々が苦労もせずに斬り伏せていく。ロンドさんは突き殺す、か。
ポロ村とウーノ村の間は、ちょうどゲネブの公爵領とシュワの子爵領の境にあたり、警備団の担当もあいまいになりやすい場所になる。そのため狙われやすい箇所としてロンドさんから気をつけるように言われ、警戒していたのもある。
盗賊団の残党が逃げ出すと、俺は矢を拾い集めに行く。ザンギ達は金目のものが無いかと死体を漁ってる。なんとなくアレは精神的にきついから参加はしない。ただ、護衛の依頼だと、道中の盗賊の遺品や魔物の素材などの収入が無いとそこまで旨みが無いものだから、死体漁りは基本的に誰でもやるようだ。みつ子もそこまでするつもりは無いらしく隊商の商人達と共にのんびりと待っていた。
こうして無事にウーノ村まで到着する。
後はゲネブまでの2泊ほどか。門をくぐり隊商が解散するとみつ子とチソットさんの家に向かう。ウーノ村は宿に騎獣を預けるのが基本らしく、騎獣を預ける所が無い。とりあえずチソットさんの家でつないで置けるか聞いてみることにした。
玄関をノックするとすぐにチソットさんが出てくる。俺達の顔を見ると嬉しそうな顔で招き入れてた。やはりこの人は心底いい人だ。
「すいません、連れも居るのですが大丈夫でしょうか?あと騎獣が1匹居るのですが、何処かにつないで置ける場所はありますか?」
「無事で何よりです。全然構いませんよ、ただ残念なことにハヤト君はユーヤさんの所に帰っていまして、今は居ないんですよ。騎獣は……そうですね、そこの木の所にでもつないで頂ければ。後で餌も用意しましょう」
そうか。短期合宿的な事を言ってたもんな。ハヤトには会えなかったか。まあ、この後みつ子は裕也の家に行くから会えるだろうけどな。
食事の用意がまだだから少し待ってもらえます? と言われ。どうせならと、ラモーンズホテルの銭湯に入りに行こうとみつ子を誘う。チソットさんが家にも風呂がありますよ。というが、裕也のプロデュースしたお風呂を見せたいんだと言う。
チソットさんは、あの山の奴ですねと笑っていた。やはり知ってたか。
みつ子が何の話し? と聞いてきたが、「行ってみてのお楽しみ」と敢えて教えない。意地悪じゃないんだよ、どちらかと言うとサプライズなのですよ。
「ぷは~ 生き返るわ」
やはり久しぶりの銭湯は和む。シュワの街でも風呂には入れたがあそこはゆっくり浸かると言う感じにはならないからな。もう少し風呂マナーが浸透してくれれば良いのだが……。ラモーンズホテルの風呂は、脱衣所には風呂マナーが図解で丁寧に書いてあるせいか、地元の老人たちもマナーが身についていていい感じなのだ。
こういうのは、男が先に風呂から上がって待つのが決まりなんだろうな。
あまり長湯はせず、ロビーのラウンジで待つ。なんかこうやって待っていると、銭湯で彼女を待つ男みたいでフォークソング感があるな。むふふ。
やがてさっぱりして湯上がりで上気したみつ子が出てきた。
「省吾君が私をここに連れてきた意味が解ったよ。最高だね!」
「でしょ? 俺なんかより長くこの世界に居るミッチャンのほうが感動の度合いも強そうじゃない?」
「うん、ちょっと泣いちゃったよ。三保の松原でしょ? 良いなあ~ここ」
「女湯は流石に見ていないんだけどね。作りも銭湯っぽくて良いよね」
「うん。最初はさ。入り口だけ別で中に入ったら混浴だったりしたらどうしようとか、省吾君を少し疑ってたんだけどね」
「おーい……」
「へへへ」
ゲネブ近辺は気候が温暖なため湯冷めなどの心配はあまり無いんだが、それでも転生してきた当初より太陽が小さくなっているせいか夜になれば温度が少し下がってくる。チソットさんも料理を作ってくれていると言うことだし足早に帰る。
食事を頂いたあと、お茶を飲みながらチソットさんに例の老エルフのメモをお土産ですと言って渡した。ロスくんも興味深そうに横から覗いてる。
「こ……これは……いや……しかし……ふむ」
何ていうか、やはり学者馬鹿だ。渡した瞬間からこっちの声も聞こえなくなる。嬉しそう、というかなにやら真剣に必死にメモを読んでいる。何かの資料を探しに立ち上がった所で、じゃあ俺らは寝るんでと、部屋を後にした。
「喜んでるよな? あれ」
「うん、間違いないと思うけど」
寝る前に忘れないうちにと、紙とペンはみつ子から借りて、ゲネブの俺の家の場所を分かるように書く。
住所がこの世界にあるのか分からないが、とりあえず自分の家の住所が分からないので地図を描いたりしてみる。分からなかったらランゲ商会の社員用住宅だから聞いてみてともメッセージを書いておく。これで用事があれば家まで来れるだろう。
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