第71話 エルフの集落への護衛依頼 15

 朝、起きるとチソットさんの目にはクマが出来ていた。寝ないでメモの解析してたな。程ほどにしてくださいね。というと恥ずかしそうにしている。


 朝食の時にみつ子に昨夜書いた家のメモを渡した。


「なになに? へえ。省吾君何気に宿ぐらしじゃないんだ」

「借家だけどね」

「それでも充分よ。冒険者なんて大半が宿生活なんだから」

「そこに書いてあるランゲ商会のご隠居さんに気に入ってもらえてね」

「省吾君、何気にいろんな人に気に入られそうだもんね」

「何気にって何だよ。それに黒目黒髪ってだけで、馬鹿にされたりすることの方が多いよ」

「まあ、そこはお察しします」



 ウーの村を出る時に商人のリーダーの人が珍しく皆に大声で皆に声をかけてきた。後少しだけど気を引き締めて行こうとか、そういう事だが。確かにウーノ村まで来ると気は緩みがちだな。後3日だ。しっかり行こう。



 ウーノ村を出て半日ほどで、裕也の小屋へ向かう分岐点に来る。


「んじゃ、ここを山の方に向かって行けば着くから」

「うん、色々ありがとうね」

「何言ってるんだよ、こちらこそありがとうだよ、裕也にもよろしくな」

「うん。じゃあ行ってくるね。約束覚えておいてよ?」

「約束?」

「ハーレム!」

「作らねえって」


 そう言うとみつ子は裕也の小屋に騎獣を向ける。警護団の面々も商人達も名残惜しそうに見守る中、木々の中に紛れていって見えなくなった。ロンドさんがコチラをチラ見する。


「ハーレムってなんだ?」

「……いや良く分からないっすけど」

「泣くなよ?」

「何言ってるんですか。さ、行きましょうよ」



 道中は何事もなく進んでいく。これだけやってれば野営も慣れてくるもので、身体もそんなに疲れはしない。ただ。少しみつ子ロスはあるかもしれない。話し相手が居なくなるだけで時間の流れがゆっくりに感じる。



 3日目に、ゲネブの周りの囲いが見えてくる。

 隊商の面々も表情が自然と緩む。俺だってそうだ。出発の前日に捕れた白眉鳥が有ったな。あれは鍋にしようか。それとも丸焼きか? 愛しのサクラにも座りたい。よし。言っちゃうぜ。言ってしまいますよ。あのセリフ。


「ゲネブか……何もかもがみな懐かしい……」


「ぎゃははは。ショーゴ。らしくねえじゃねえか、お姉ちゃんに逃げられて寂しいんだろ?」

「ちょっ。ザンギさん。別にそんなんじゃ無いっすよ」

「しっかし。今回はおめえに声かけて良かったぜ。色々助かったぞ……まあ、ムカつく所は沢山あったがな。がはははは」

「ははは。これで仕事が終わると思えばザンギさんの適当さ加減もいい思い出ですよ」

「言うじゃねえか。まあまた何かあったらよろしくな」

「いやあ、しばらくはご遠慮したいですね」

「がはははは」


 ザンギともどうなるかと思ったが。何とかなった。まあ、また声掛けられたら断るけどな。ロンドさん達とも知り合えたのは良かったし。


 みつ子とも知り合えた。


 実り多い依頼だったんじゃないか?




 騎獣は基本的に城壁内に入れないので城門の外で解散となる。ダンクさんがブライト商会の人達に到着を知らせに走る。商人の人達は荷物などを下ろして商会まで運んだりする作業がある。警護団の人達は人足としてもう少し仕事があるようだ。


「始めはちょっと心配もあったがね、危険な魔物も盗賊団も出たが、無事に護衛を努めてくれて感謝している。ありがとう」


 商人のリーダーの人に依頼の完了書を書いてもらう。日割りになるので行き帰りの行程を計算して日数を書き込む。シュワの街とエルフの集落での休暇は日当が出ないらしく32日分貰えるということだった。往復34日かあ。結構かかったな。だれだ? 往復10日くらいって言ってたのは。


 ホーンドサーペントの買取に関しては一週間後くらいに商業ギルドの方に受け取りに行ってくれと1人づつ受け取り書の様な物を渡された。



 4人でギルドに行き、依頼の完了の報酬を受け取る。128000モルズから手数料と税金を引かれてもまだ結構ある。Cランクパーティーと言うことで手数料が1割と言うのもありがたいが。護衛だけで200万近く払うって、それだけ魔道具をはじめ、エルフ産の品物の値段が高くなるって話だよなあ。流通が厳しい世界だと当然なのか。


 ザンギ達が3人で俺の割当について相談して居たが、しばらくするとザンギがお金を渡してくる。


「え? はい? こんな良いんですか? ほぼ等分じゃないですか」

「はじめはな。Gランクだからこの半分くらいの割当で考えてたんだがな。俺らと変わらない働きをしたんだ、しょうがねえ。ジョグもちゃんと渡せってうるせえしな」

「いやあ、超嬉しいっす。ジョグさんもありがとうございます!」


 ジョグは相変わらず反応が悪いが、ちょっと笑ったように感じた。


 報酬の受け渡しが終わると、ザンギ達はギルドに居た仲の良い冒険者達に飲みに行くぞと声をかけている。うわあ。あれは数日で稼ぎを使い果たすパターンじゃねえか? まあ。もう知らね。好きにすると良いさ。




 1ヶ月以上ぶりか。懐かしの我が家だな。帰る家が有るのは良いもんだ。

 ウキウキ気分で自分の部屋に帰ってきて鍵を開けると、ムワッと嫌な匂いが充満している。


 ん? なんだ?


 部屋に入り。とりあえず窓を開けて換気をする。何の匂いだ? 超臭え。

 窓という窓を開け放ち、明かりをつけて調べる。どうやら氷室の中からの様だ。……すげー嫌な予感がする。そっと氷室を開けると強い匂いが中から溢れ出てくる。氷室の中は全く冷えていない……げっ……やはりか。


 慌てて、氷室の魔石ボックスを開けて中を見ると、真っ白く灰のようになった魔石が一つあった。


「魔石の補充しないとあかんかったか……」


 日本の家電の感覚で居たが、この世界の魔道具は魔石がないと動かない。これは……転生者あるある……じゃねえけど。初日に動くようにナターシャさんが一つ補充してくれてそのまま何も考えずに使い続けてしまっていた俺のミスだ。魔石ボックスには大きさにもよるだろうが4つ5つは入る感じになってる。


 護衛で出かけて直ぐくらいに魔石が尽きてしまったのかもしれない。楽しみにしていた白眉鳥はいい感じで腐っていた。



 俺はがっくりとその場に膝をついた。

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