第59話 エルフの集落への護衛依頼 3

 

 朝、なんとか起きれ、出かける準備をしていると、ドアがノックされハヤトが様子を見に来た。


「ありがとな、なんとか起きれたよ。チソットさんはまだ寝てるのかな?」

「チソットさんも起きてもう朝食も用意してくれてるよ、もし時間ありそうなら食べていきなよ」


 ありがたい。チソットさんに挨拶をして朝食も頂く。少しお金を置いていこうとしたが、気にしないでくれと言われたので、お言葉に甘える。エルフの集落でなんか面白いお土産があったら帰りに買ってくるか。



 やはりザンギたちは遅れてきた。ジョグは一応申し訳無さそうな顔をしているが、ザンギとザックは反省の色がゼロだ。


「ここからは夜番もあるんですから、お酒は飲まないでくださいね」

「んあ!? あんなちょっと飲んだに入らねえよ、寝酒だ。寝酒」

「あんまり中っくらいだと、任務不履行でクビにされるみたいっすよ。シュワのギルドでまともなの雇ったほうが良いんじゃないかって商人たち話してましたよ」

「ちっ。お前はスパズの癖にいちいちうるせえんだよっ!」


 お?


 言ったな、今。スパズって言ったな?


「おい……お前、もう一度スパズって言ってみろ。ぶっ飛ばすぞ」

「ああ! てめえGランクの癖にCランクの俺様に……」

「アジル達の話し忘れたのか? CランクだろうとBランクだろうと、殺る時は殺るぜ?」

「んぐ……」


 しばらく睨み合いを続ける。


 引かねえよ俺は。ちょっとビビってるけど。


「ガハハハっ! 冗談だよ。冗談だ! 見てろ、ちゃんと護衛をやってるだろ。任せとけ」


 引いたのはザンギだった。これで少しはまともにやってくれればと思うのだが。ちなみに、クビにするって話は捏造だ。でも、有り得る話だろ?




 次のポロの村までは3日。ゲネブからウーノ村までの行程とほぼ同じだ。ただ、少しだけ遠いと言うことで今朝の出発は日の出後と言う早めのスタートにしたのだという。


 脅しが効いたのか、少しザンギ達がまともに動いている気はする。ストレスがだいぶ減って助かるぜ。




 何事もないまま無事にシュワの街までたどり着く。


 街というだけあって、今まで通った村と比べればだいぶデカイ。ゲネブと比べれば小さく見えてしまうが、ちゃんと周りの囲いも城壁の様に石積みの物になっている。


 この街で商人たちは多少の商いを行ったり、食料の仕入れなどをすることから、1日休暇を貰えることになった。



 今日は何処に泊まるか……街に入ると、明後日の日の出後に東門に集合と言うことで解散となる。


 ゲネブでは街の周りに囲いが作られているため、基本的に騎獣などは城壁の中には入れず外に保管場所や管理業者があるようだが、この街は皆普通に騎獣を街の中で引いていた。さすがに騎乗しての街中での移動は駄目らしいが。


「泊まるところは決まっているのか?」


 警護団のお兄さんに尋ねられたので素直に決まっていないと答える。すると安くて良い宿があるからと誘われた。ここ何日かでだいぶ親しくなった自覚はあったがこれは嬉しい。喜んでついていくことにした。



 宿は、木造の二階建ての宿だった。古い感じはあるもののしっかりした建物で中の掃除も丁寧にやっている感じで不潔感などは無い。何よりも小ぶりだが風呂があるのが気に入った。食堂は、居酒屋兼の様で他の客で賑わっていたが、宿を取るときに夕食も皆で食べようとお願いすると、席を確保しておいて貰えた。


 一番はザンギ達と別れて眠れる事だ。あいつらはストレスの温床だからな。ジョグは段々可愛く見えてきたが。


 部屋に荷物を置き、早速風呂に行く。俺としては日本人ならではの銭湯マナーをしっかり守っているんだが、他の客は割りと適当だ。警護団の面々も浴場に来ると真っ先に風呂に入っている。まあ、郷に入っては郷に従えで、それに文句を言うつもりは無いんだが……洗い終わって風呂に入ろうとすると、あまり大きくないのでもう入る場所が無くなっていた。


「ショーゴ、風呂は戦いだぞ? そんなちんたら体を洗ったりしてるといつまでたっても入れないぞ」

「いやあ、何となく汚れてるし綺麗にしてから入った方がお湯が汚れないと思って」

「おうおう、冒険者の癖に糞真面目だなあ? 実は良い所の出なのか?」

「そんな事は無いですよ。まあ親はうるさかったのかも知れないけど」


 そんな事を話してると、他のお客が湯船から出たのですかさず場所を取る。やっぱ皆体を洗わないで入るとお湯が汚れるよな。上るときまたシャワー浴びないと……。


 久々の入浴でさっぱりした体で、食堂に行く。飲み会的なのも久々なのでちょっとウキウキする。今日は乾杯くらいは飲んじゃおうかな。



 警護団の例の気さくな兄ちゃんは、ロンドと言い、後の三人はサントス クレー ダンクだ。元々は4人でここシュワの街でパーティーを組んで冒険者をやっていたらしいのだが、ブライト商会の護衛任務を何度か受けたりしている内に商会の正規の私兵として雇われてたと言う。クレーは1/4ほどエルフの血が混じっているらしく、風魔法使いのイケメンだ。ロンドは槍使い。後の2人は騎乗時は剣のみというが、元々は2人とも片手に剣、片手に盾を持って二人でタンク役をこなす感じでやっていたと言う。


 やっぱりヒーラーと言うのはなかなか少ないんだな。どうしても欲しいときは教会で聖騎士などを雇う場合もあるらしいが。値段もそれなりに高いためあまり見られる物でもないという。


「それにしても、何であんな奴等と組んでいるんだ?」


 やはりそこは気になっていたか。ギルドでなし崩し的に人数調整に巻き込まれた話をした。


「ぶははは! でも見てる限り充分頼りになりそうだぞ? 早くランク上るといいな。それにしても、こないだのやり取りは爽快だった」

「あ。ザンギにぶっ飛ばすとか言ったやつですか?」

「そうそう、間に入らないとマズイかなって思ったけどな、やるじゃねえか」

「いやあ、でも相当ビビッてましたよ、俺も」


 楽しい夜になった。裕也とウーノ村の居酒屋に行って以来だもんな。話の中でやはり最初はスパズが来たから心配だったけど……みたいな話は出たが、ちゃんとやってれば気に入ってもらえるのは何処でも同じだ。まあ、まだ戦闘があった訳じゃないから出来る男を見せるのはこれからだけどな!



 さて、明日は1日空いてるな。ちょっとシュワの街を散策したり、この街のギルド覗いたりしてみるかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る