第58話 エルフの集落への護衛依頼 2

「おい。おい。起きろ。夜番だぞ」


 へ? 計算だと4人で回せば夜番は2回じゃねえの?


 なぜか、3回目の夜番に起こされる。ザンギたちに対する信用度は1日目でほぼマイナスに傾いた。こいつら……。


 警護団の夜番が焚き火の所に居たので近づいて挨拶をする。朝少し話しをした気さくな兄さんだった。


「なあ、あのザンギってやつら大丈夫なのか?」

「やっぱりそう思います? 僕も組んで仕事したの初めてなんですが、なんていうか。ちょっと適当ですよね」

「それでもCランクなら戦力としては期待できるんだろうけどな。あんなやつらが護衛についたの初めてだぞ?」


 ううむ、やっぱ他の冒険者と比べてもちょっと変なのか。




 何事も無く、2日目も終わろうとしている。


「え? なんで駄目なの? 昨日おじさん泊まらせたじゃん。おじさんは良くて俺が駄目とかありえないんだけど?」


 今日も、テントを設営していると、ザックが絡んできた。昨日サンギに貸してあげたのをみて今日は俺が。という話。いや、それは断るだろ? だが子供のように半ギレで駄々をこねるザック。旅は始まったばかり。あまりに冷たくあしらう訳にも行かず押し切られる。



 ……断りきれない自分が悲しい。



 くそう……。


 食事もまた狙われそうな予感がしたので、ただ芋を焼いて塩をかけて食べた。味気ねえ。夜の楽しみまで奪われた気分だぜ。


 ちゃんと夜番の順番と回数をザンギ達に確認し眠る。今日は絶対2回しかやらねえ。



 ぐぉぉぉぉ ぐぉぉぉぉ


 チクショー、ザンギうるせえ。寝酒だと言いながら少し飲んでいたが、夜番起きれるのか?


 反対側を向き。毛布を頭までかぶり必死に寝ようとする。イライラしすぎて頭が冴えてしまう。なかなか寝れない。それでも身体は疲れているのでようやく寝付いた頃……。


「お前。夜番」


 ジョグに起こされるが、おかしいぞ? ジョグの次はザンギだろ?


「ジョグさんの次はザンギですよね?」

「ザンギ。起きない」


 ……起きないじゃねえよ。


「そういうのは、あんた達のパーティー内で解決してくれます? 起きないからって順番変えないでください。今は俺が眠る権利のある時間なんですからっ!」


 そう言い捨てて。毛布をかぶって知らぬふりを決め込む。


 しばらくジョグがザンギを起こそうと声をかけているのが解る。しかしザンギは起きようとしないらしく、諦めたように夜番を続けるようだった。


 くそ……全然寝れねえよ。



 結局ザンギの当番をジョグが変わったらしく。朝、ジョグは眠そうな顔で準備をしていた。まあ、こいつも被害者なのか。パーティー抜けちまえば良いのにな。


 眠たい目をこすり、ようやくウーノ村に着くころには、日もだいぶ傾いていた。村での宿泊は夜番が無いから、今日はぐっすり眠りたい。ちょっと高いがこっそり1人でラモーンズホテルに泊まろうか悩む。


 ……いや。いい案が浮かぶ。



 俺もだいぶ図太くなったな。



 明日は朝、日の出の後に出発すると言うことで、北門での待ち合わせなどを決めて解散となった。


 俺が向かったのは、チソットの家だった。確か下宿用の部屋とかあるって言ってたよな。駄目なら教室のソファーでも借りて寝れば一泊分のお金を節約できる。ここは裕也コネクションをフル活用しよう。



 チソットさんはちゃんと俺のことを覚えていてくれたため、話はスムーズにすすんだ。チソットさん。超いい人だ。しかも驚いたことに、今ハヤトが短期で下宿中だという。


「お兄ちゃん、久しぶりだねっ!」



 今日もハヤトは人懐っこい笑顔で迎えてくれた。少し眠かったが俺も久しぶりに会って嬉しかったし、ハヤトも俺の話を聞きたがるものだからちょっと今日は我慢してハヤトの相手をしてやる。ハヤトの部屋にロスもやってきて、ゲネブでの生活の話をした。


 ギルドのランクアップがなかなか厳しいのかもしれない様な話をすると、ロスが食いついてきた。ロスはゲネブの商会の息子ということで、感覚がだいぶ商人なんだろう。商売人としてはそんなアホな仕事続けるのが理解できないらしい。確かに利で動く人間にはランクアップの見込みが無ければ少し厳しい話なのかもしれない。


「いやまあ、まだ決まったわけでもないし。ちょっと意地悪したくて昇級を遅らせているくらいなら我慢するさ。流石に組織のトップがそこまで露骨なことしないだろ?」

「まあ確かに未だ解らないけどさ、ある程度駄目なら見限るのもありだぜ? 貴族なんだろ? そのギルド長。貴族ってのは見栄や名誉で動くからさ、コケにされたのを一度恨みに感じたらなかなか根が深くなると思うなあ」

「うーん。見限れと言われてもね、違う街に引っ越すのか? 家もあるしゲネブでやりたいんだよなあ」

「違う違う。場所を変えてって話じゃなくてさ。独立しちゃえばいいって話。A級B級くらいになればネームバリューがあるからギルド通さないで普通に個人で依頼受けて仕事してるぜ。兄ちゃんだってゲネブで個人指名をそれだけ貰う感じでやってるんだったらさ、手数料考えても格安で仕事受けてれば、やってけるんじゃね?」


 いやまあ、言いたいことは解るが、ダンジョンに行くにはギルドでランクを上げなくちゃいけないし、よく芸能人が事務所と揉めて独立した後、元の事務所の圧力で仕事をもらえず……って話もあるからなあ。


「まあ、ゲネブで仕事するなら家に相談するといいぜ、親父がピュリールの元締めみたいなのやってっから気に入ってもらえれば手を貸してもらえるかもしれないぜ」

「ピュリールって、ゲネブの開拓者の子孫だっけ?」

「そうそう、時代遅れって言われればそうだけどな、古い街だからそれなりに力あるし」


 ふうむ。


 まあ、取り敢えずはギルドを信じいこうかな。受付のお姉さんも目をかけてくれてるに違いないし……。


 そろそろ、眠気がマックスに成ってきたので目覚しをセットして寝ることにした。ちょっと心配だったのでハヤトにもし起きてて俺が起きてこなかったら起こしてくれと頼んだ。


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