第57話 エルフの集落への護衛依頼 1
朝、準備を整えて北門に向かう。
他の依頼の待ち合わせもちらほら見かけられたが、目当ての隊商はすぐに分かった。4台の大きな荷車は犀とトリケラトプスの中間の様なごっつい動物が繋がれている。4台の内一台は魔物の革で周りを覆われた箱の様な車だった。予想ではこれは氷室だな。冷凍車的なものに違いない。それと共に二足歩行のトカゲのような騎獣が4匹それぞれ警備団の兵士が手綱を握っていた。
「ザンギのパーティーの省吾と言います。よろしくお願いたします」
隊商の警護団らしき人に挨拶をする。おお、近くで見るとすげえ騎獣だなあ。皮膚も分厚そうで脚も早そう。兵士は気さくな感じで挨拶を返してくる。
「おお、よろしくな。弓師か。助かるぜ」
「あ、これは護衛依頼の為に昨日買ってきたんです。メインは剣でやってます」
「き、昨日? 大丈夫なのか?」
「弓は一通りの手ほどきは受けているので、使えますよ。こいつも昨日試しで撃ってきたんですが、問題ないと思います」
「そうか、剣使いのパーティーしか捕まらなかったと聞いていたからな、弓が1人居るだけでも助かる」
どうやら警護団も遠距離攻撃を出来るのが魔術師1人居るだけらしい。よし。少し高かったが弓を買ったのは正解だったな。
ザンギ達はまだ来ていないようで、時間を潰しがてら行程について話を聞く。
ここゲネブまで3日かけてウーノ村まで行き、そこから3日でポロ村、さらに2日でシュワの街に着くという。シュワで一度食料などを買い足してから、今度は東に向かい、次の日にはヌタ村に到着。そこからは龍脈が無い森林を3日ほどかけてエルフの集落を目指すということだった。
……おや?
往復10日位とか言ってなかったか?あのオヤジ……適当言ったな。片道10日以上かかるじゃねえか。
でもまあ……今は修学旅行のバスの出発前の集合見たくワクワクが止まらない気分だからいいよ。全然許すよっ!
てか、あのオヤジ来ねえな……。
周りの商人の人たちや、警備団も何となくイライラし始めた頃、ザンギ達がやってきた。
「いやあ、悪い悪い。ちょっと出かけに色々あってな。もう俺達が来たから大丈夫だ!」
何が大丈夫だ。だ。ていうか少し酒臭くねえか? 警備団の人たちも顔が引きつってる。ザンギと甥っ子のザック、そしてもう1人は初顔合わせのジョグ。ジョグは大柄なおっとりとした風体で30前後といった感じか。装備的にどうやらタンクっぽい。挨拶をしたが、ああ……と気の無い返事を返される。
打ち合わせもそこそこに、時間も押しているのでそのまま出発の流れとなった。
とりあえず、シュワの街まではひたすら街道を行くので魔物などは出ないと考えていいみたいだ。ただ、盗賊を警戒するべきらしいが、その盗賊もこれだけ大きい隊商だと、傾向としては出発した隊商を確認した後に仲間を集めて帰りを襲うと言うのが一番多いパターンらしい。
そんな話を聞けば何となく気は緩むものだ。
荷車を引く犀の魔物はヒポドンと言われる魔物で、硬くて厚い皮膚の持ち、防御力が強く、道中に魔物が出ても殺される様な事が少ない。そのためエルフの集落の様に龍脈から外れた所に行くのに重宝されているらしい。
魔物といっても完全に家畜化されており気性は穏やかだ。これは野生の魔物を龍脈のある場所で飼育し子供を産ませることで、生まれた子供は龍脈の影響なのか魔物特有の攻撃性が薄まるらしい。
魔物の飼育はゲネブの回りでも多少は行われているらしいが、シュワの街から北へ行った所に魔物の飼育で有名な町があるという事だった。
見た目どおり、犀の魔物はそこまで足が速いわけではなく、歩きの冒険者たちでも問題なく付いていけるスピードだった。その分到着には時間はかかるのだが。やはり騎獣に乗っている警備団が少しうらやましくなる。
日がだいぶ傾いてくると、野営の準備が始まる。騎獣は楽そうだなと思っていたのだがずっと騎獣に跨っているのも何気にしんどいらしく、警備団の兵士たちもしきりに尻をさすっている。
サンギ達は少し大きめのタープを張り、その下で眠るようだ。夜番は冒険者たち4人で回すのと、別に警備団も4人で回すようで二人が番に着く形になるらしい。
「おお! ショーゴ。そのテントは良いなあ。タープは風通しが良すぎてなあ。なあ。今晩だけで良いからちょっと俺に使わせてくれよっ!」
テントを設営していると、それを見たザックが興味津々に話しかけてくる。おいおい、1泊目からテント貸せとか、このオッサンなんかずれてないか?
一応は冒険者隊のリーダーだ。ランクも上で護衛任務について色々教えてくれるという体もある。一度は断るも、しつこく貸してくれと言ってくる。結局断りきれずに俺はタープの下で寝ることになった。
食事に関しても案の定、ザンギ達は俺の分の事は全く考えずに自分たちの料理を作って食べている。そこら辺は想定済みなので、少しはなれたところでアヒージョの準備を始める。
実は、最近ずっと練習していた<光源>の応用。光を極限まで凝縮させることで、太陽光をレンズで収束させて火が起きる感じに種火を作ることに成功しているんだ。火の魔道具などを無駄に購入せずに済んだのは経済的にも結構でかい。
グツグツグツ……。
ふふふ。いい感じじゃないか。オリーブオイルよりやや青臭さは感じるが、似たような油を見つけたのは大きい。そこにポルトやベーコン、オニオン、スパイスなどを入れて煮込む。
「どれどれ……」
うん、なかなか行けるじゃないか。
「おお! ショーゴ。旨そうなの喰ってるなあ。ちょっと味見させろよ。ちょっとだけだからさあ!」
やかましい声に包まれる。
「おじさん、どうしたの? あ、なんか美味しそうなの食べてるよお」
甥っ子までやってくる。
「じゃあ、ちょっとだけですよ。ザンギさんが10日くらいって言うからあまり食料持ってこなかったんですから」
「解ってる。解ってるって。一口な」
「おじさんばかりずるいなあ! 俺もいいだろ?」
……おいおい。何だよこいつら。
パンを浸して食べてるのを見たのか。自分たちのパンまで持ってきてやがる。しかもベーコン全部食べやがった。
なんなの?
これ、冒険者あるあるなわけ?
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