第56話 エルフの集落への護衛依頼 0
今日は依頼を受けようと思っていたが、1日護衛依頼の準備に充てることにした。
護衛のイメージが解らないが、隊商が盗賊の集団に襲われたとき、なるべく遠くから数を減らしたいのかも。あとは、1人である程度の範囲を受け持って護衛するとき、離れたところもカバーできるように。そんな事を考え弓の購入に踏み切る。
大通りから西側に入ってすぐの区画に武器屋があったな。そう思い店を訪れる。
「うちは刃物と鈍器だけだぞ。弓は扱ってないぞ。」
どうやら、弓は弓の専門店があるらしい。店の場所を聞き、そちらの店に行ってみた。
ふむ……弓の材料や、弦の種類、矢の種類……確かに専門店じゃないと駄目だなこりゃ。
店内には所狭しと弓のパーツが並んでいる。どうやらパーツ毎に選んで組んでもらう感じのようだ。素人の俺には全くわからない。
「あのう……弓を買いたいんですが、ちょっと種類とか分からなくて」
「ん? 素人か? 射ったことはあるのか?」
「はい、知り合いに弓の名手が居て、少しだけ手ほどきをしてもらったことがありますが」
「ふん。皆教えたがる奴は自分を名手っていうんだよ」
お? おっさんエリシアさんの事舐めてますな。
「いや、本当に上手なんですよ。なんでも……天弓とか言われてたみたいで」
「なに??? そいつは……本当か? じゃあどんなやつだ?」
「はい、美しいエルフのご婦人ですよ」
「まじか……天弓の弟子となると、半端な弓じゃいけねえなあ……」
途端に店主の顔が厳しくなる。
「あ、いや、弟子とまでは……手ほどき受けたくらいですよ。そんなお金もないんで、適当なので良いんですが……」
「たしか倉庫に神樹を使った……」
「おいちょと待てぇ!」
はやる店主を必死になだめ、ちょっと手ほどきを受けたくらいでメインの武器は剣で、護衛任務に行くために少しばかし用立てて欲しいんだと話す。ようやく落ち着いた店主は、どんな弓が欲しいか希望などを聞き始めた。
「次元鞄に入るくらいのあまり長くない弓が良いです。」
そう言って、裕也のテントポールを次元鞄から出し、長さを見せる。
それから、出来るだけ威力が欲しいので強い弓を要望してみる。弦は良くわからないので安くて耐久性があるもの、矢はスタンダードなもので良いんで矢筒とセットで。
「……ううむ、1万じゃちょっとキツイな3万……いや2万5000なんとかならないか?」
2万5000か……ギリギリだなあ。まあしょうがないか。悩んでると店主がふと何かを思いついたのか裏の方に入っていく。やがて一本の弓を持って出てきた。
「これな、強すぎて全然売れないから使えるなら格安にしても良いんだが、引けるか?」
そう言われて、一本の弓を渡される。120cm程の真っ黒な弓で確かに硬そうな感じだ。弦は既に張ってある。強めの弓なので弦の素材もある程度絞られてしまうらしい。
そのまま引こうとするが……確かに筋トレでもしてるみたいだ。ぐぐぐ……引けなくも無いがプルプルしちゃってこれで狙いとか厳しい感じがする。
「やはりちょっと駄目っぽいな……それでよければ2万で揃えてやろうと思ったが」
む! ……いやちょっと待て。<剛力>を発動させてもう一度やってみる。おお、楽に引ける……が、指が千切れそうだ。そう言えば手甲の右手だけ弓を引けるように革当て着いていたかも。そう思い鞄から手甲を取り出しもう一度やってみる。
「おじさん、いける。いけそう!」
「おお、坊主すげえな。スキルか?」
「はい、<剛力>ありきですが、なんとか使えそうです。2万で宜しくおねがいしますっ!」
この弓は、墨樹と言われる南の方にある木を加工したものだと言うことだ。墨樹は密度が強くしなりにくい為、槍の柄に使われたり、弓にする場合は長弓としては使われるが、この様に引ける人間が限られてしまうため短弓としては使われることはまず無いらしい。短ければ短いほど曲がりにくい為、長弓でもかなり長い物が作られるという。それでも強い弓を望む弓使いには人気で素材自体も割りとレアな樹木らしく高級品として扱われる。恐らく余った端材で短弓を作ったのでは無いかと店主は言っていた。
折れないか心配すると、粘りはあるから問題ないと言われる。
武器もスクロールなどと同じで冒険者カードを提示し購入者の名前をノートに記す。これも国の管理の一端かな? サービスで矢が20本入った矢筒とセットで2万モルズ支払い店を出た。
あとは、食事かあ……実は最近アヒージョにハマっている。日持ちするパンを浸しながら食べるには良いかもしれない。ポルトは必須か。他にも使えそうな野菜を少し買い込んだ。毎日だと飽きそうだから適当にドライフルーツやナッツ類、干し肉を買っていく。
スパイスは、色んなハーブを適当に混ぜたのが袋売りされていたのを以前買ったのでそれで良いか。
よし。なんとかなりそう。
昼飯を食べると、今度は東門から外に向かう。
「新しい弓を買ったので試し射ちしたいんですが、割と遠くに行ったほうが良いですか?」
「そうだなあ、あまり近くだとまずいな。今日は何人かボア狩りに出てるから誤射に気をつけてこいよ」
「はい、気をつけます」
龍脈沿いではなく、そのまま森林の方に入っていく。ウルフでもボアでも、獲物が居ればその方が練習になりそうかなと思ったのだが。自分の足音と、たまに聞こえる鳥の声くらいしか音が無い。
……なかなか居ないなあ。
獲物を探して結局弓を撃てずじまいでした、ってなったら意味無いなあ。試し射ちで木でも撃って見るか……
そう思い、弓を引く。ぐぐぐぐ。<剛力>を発動しないと使い物にならない弓だが。その分威力は期待できそう。30mほど先の大木を狙い。放つ。
ドゴッ!
おおお……幹のど真ん中にどんぴしゃじゃないか。刺さる音も威力を感じる。射速もあるから意外と命中精度も出るのかもしれない。当たりだな。この弓。
しかし……矢を回収するのにも<剛力>が必要になった。強すぎて木に深く刺さりすぎるのだ。その後引きを弱めにしたり距離を遠めにしたりしながら、矢の刺さり具合などを調節して何度か試してみる。
盗賊などで対人を想定したとき、50~60mくらいなら体を狙えば当たりそうな感じがする。エリシアさんのようなヘッドショットまでは正直自信ない。近ければきっちり当てられるかというと、そうでもなく難しい。ほぼ感覚というか直感で撃ってるのが現状だ。
バサッ
ん? 少し離れた木の枝に割りと大き目の鳥がとまっていた。なんか眉毛が長い感じで爺さんみたいだな。
鳥か……ん? そういえば鳥だって魔物なんじゃねえか? そう思い木の陰に隠れながらそっと弓を引く。その時、鳥が殺気を感じたのかキョロキョロとする。
ええい。とばかりに弓を撃った瞬間何かを感じたのか鳥は飛び立とうとした。しかし矢速は速く。飛び立とうとした羽根の付け根辺りに刺さり、そのまま木に釘付け状態になる。
「よしっ!……ってあそこまで上らないと駄目じゃねえか」
15m程の高さの枝までおっかなびっくり登ると、鳥はギャアギャア鳴きながら威嚇してくる。そのまま首を刎ねて、無事回収することが出来た。
やっぱり魔石はあったわ。木から下りて捌くとやはり心臓の近くに魔石が埋まっていた。首を刎ねた為ある程度血抜きは出来ているようだったので、その場で内臓を取り出し、羽をむしる。鶏肉っぽい状態になった。そのまま足を持って街に戻ることにした。
東門で、門番が手に持った鳥を見て声をかけてきた。
「おお。鳥か、何の鳥だ?」
「いや、ちょっと種類とか解らなくて、なんか白い眉毛がある変な鳥でした」
「白眉鳥か? よく捕れたな。そいつは殺気とかに反応するからなかなか捕れないんだぞ。味もなかなか旨いらしい。やったな」
ほうほう、いい感じじゃないか。まあ明日から出ちゃうから氷室で寝かす感じだな。
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