第203話 トゥルの依頼 5 ~端の村~
男子部屋に入り、荷物を下ろす。部屋はベットというより小上がりのような一段高いところが窓際にあり、そこに薄い敷布団と掛け布団なのだろうか、タオルケットのような布が畳んで置かれていた。キチンと洗ってあるようで清潔感はあるな。
5人で寝場所を相談したり、氷室の魔石などを補充したりしながら今後どうするかトゥルに聞く。一応依頼主だしな。
「ここで山の集落の情報を集めようと思っていたんだけど……」
「なんか村の雰囲気見ていると、聞きづらい感じだよな」
「このまま山の方に向かって見ようか」
「何も情報無しで適当に歩くのか?」
「駄目かな。あ。あのハウゼン司祭さんは優しそうだったよね」
「悪い人じゃ無いかもしれないけどな、なんとなく宗教家は心を開きづらいなあ」
なんとなく雑談しているとドアがノックされ女子2人がやってくる
「おお、こっちはこんな感じなんだ」
「ん? みっちゃんの方は違うの?」
「うん。多分私達の方は教会の人の仮眠室みたいなところ。ちゃんとベッド2つ有ったよ」
「へえ」
全員集まった所で再び今後の予定を相談する。そもそもが村の中を歩かせてもらえるか。歩いた所で他所者に対して普通に対応してもらえるのだろうか。もうじき昼だしな。昼飯も食いたい。食堂のようなところが無ければ教会の外で料理をしたいところだが……。そうこう話していると誰かがやってくるのを感知する。
トントン。
ノックの音に答えると、先ほどのハウゼン司祭が入ってきた。
「何もない部屋で申し訳ないですね。大丈夫でしょうか?」
「問題ないですよ。そもそもずっと街道で野宿をしてきたんです。それと比べれば十分すぎますよ」
「それは良かった。何かご希望のものなどありますか?」
それにしても待遇良いな。黒目黒髪を見て態度を改めた事といい、この教会が龍神を祀っていることといい、黒目黒髪が龍の加護を得ているという話がこの村では認知されているのだろうか。そんな気がする。
少し贅沢を言ってみても良い気もしてきた。
「ずっと野営をして来たので、シャワーでもタライとかでも、体を少し綺麗にしたいのですが……」
「この村は1つ共同浴場があるのですが、もしよろしければ案内させましょうか」
「おおおお~、風呂があるんですか? 是非! よろしくおねがいします!」
「はっはっは。この村では家庭でシャワーなど設置している所など村長宅位ですからね、村人が皆で入るような風呂なのですがよろしいですか?」
「あ、それとこの村、食堂とかってあるんですか?」
「一応居酒屋兼みたいな所はあるのですが……恐らく食事は村長が招くような事を言っていましたので、お風呂に入ったら呼ばれるかと思います」
「へ? なんでまた……」
「私の口からはなんとも……恐らく外の話などを聞きたいのかも……と」
ううむ。司祭はなんとなくごまかしている様な感じだし。違和感ありまくりだぜ。
とりあえず皆揃って共同浴場へ案内してもらう。若い司祭が呼ばれ案内を頼まれる。
村の中を少し外れの方に向かって歩いていると、やはりすれ違う村人はこちらの方をチラチラを見ているのが気になってしょうがない。若い司祭は、シャフと名乗った。
「温泉でも湧いているんですか?」
「あ、いえ。汲み上げた井戸水を沸かしているだけなんです」
「沸かし湯でも十分ありがたいですよ。でもこんな時間から沸かしてるんですか?」
「普段はも少し昼過ぎてから沸かし始める感じですかね、今日は冥加の方がいらっしゃられたという事で」
「ミョウガの方?」
「…………え? いや。旅の方がいらっしゃられたという事で、早めに沸かしてもらえたんです」
「あれ? いまミョウガがどうのこうのって言いませんでした?」
「言ってません」
「………」
ミョウガ? 茗荷? なんだろう。でもまあ、あまり突っ込んでも出てこないか。
共同浴場は、かなり古めかしい建物だったが他の木造りの民家と違って石積みの建物だった。木だと湯気とかで傷んだりするのだろうか。屋根の上に大きい風車のようなものがあり、聞くとそれで井戸水を汲み上げているという話だった。
入るとすぐに靴を脱ぐようになっており、目の前のカウンターで料金を払う感じなのだろうか。そこから左右に男湯と女湯があり、分かれるようになっている。
特にラウンジの様にくつろぐ場所もなく、ただ風呂に入るだけの施設のようだな。案内してくれたシャフ司祭が受付に居たおばさんに声を掛けるとタオル代わりの布切れを渡される。それを持って男湯と言われた方に行くとドアがあり、中はすぐに浴室になっていた。入口側の壁沿いに湿気で少し傷みが進んでいる木の棚がありどうやらそこに脱いだ服を入れるようだ。
浴室はそこまで広くなくせいぜい8畳間位なものか、洗い場は組み上げた井戸水がただ樋を伝って流れている具合で水は冷たい。温暖な土地だから出来る荒業だよな。
生活感あふれる浴室の雰囲気にちょっと感動していると、フォルとモーザが体を洗わずに湯船に入ろうとしている。
「おいおいおい。湯船が汚れるだろ。ちゃんと洗ってから入れよ」
「兄貴い、だってそれ水じゃないすか。冷てえっすよ」
「それでもだ。共同浴場って言うくらいだから皆使うんだ。きれいに使えよ」
そう言うと、渋々二人は水を浴びながら渡された布切れで体をゴシゴシ洗う。スティーブはいい子だからな、ちゃんとやってる。石鹸はないがまあ、何もしないよりは良いよな。
お湯は急いで沸かしているのか、まだぬるい感じなのが少々残念だった。だけど湯船に浸かるのってかなり久しぶりだ。なんか嬉しいぜ。
風呂の外で待たされるってのは男の運命なんだろうな。モーザがブツブツと文句を言っているが、コレばかりはしょうがない。シャフ司祭も監視のためかもしれないが、俺たちが風呂から上がるのを待っていたんだ、そのくらいモーザも慣れないとな。彼女なんて作れねえぞっ!
教会に戻る道すがら、すれ違った一人の老婆が、俺とモーザを見て「ありがたや」などとつぶやいて拝み始める。俺たちはギョッとその老婆を見つめるが、若い司祭が慌てふためく。
「サヴァンさん。この方たちは今日この村に来たばかりの方なんですよ。止めてください」
「ありがたや。ありがたや」
「さ、さ、サヴァンさんお家に帰りますよ」
そう言うと、シャフ司祭は半ば強引に老婆を家に押し込む。
「……すいません。あの方は少しお年でして、その、色々と記憶が混濁したりするようでして」
「はあ……」
うん。なんとなくこの村のことは分かってきたけど、知らないふりをした方が良いのかね。でもまあ、ここまで来れば確定なんだよな。
この村の人達は黒目黒髪が龍の加護を持っていることを知っている。
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