第204話 トゥルの依頼 6 ~端の村~

 入浴後、村長宅へ案内される。


 教会と共同浴場以外は木造建築かと思っていたが、村長宅は立派に石積みの建物だった。狼が息を吹きかけても飛ばなそうな作りだ。ナルダンの例もありこの村の村長も恐らく貴族だろう。なんとなく皆も及び腰になっていたのだが、当の村長は丁寧な態度で俺たちを迎え入れてくれた。


「共同浴場はどうでした? いささか古い施設ですので客を迎えるような物ではないのですが」

「お風呂に入れるだけでも贅沢ですよ。気を使って時間外に沸かしてもらっちゃったようで申し訳有りません」

「いえいえ。客人というのもあまり訪れない村ですので。せめてそのくらいは」


 うん。門前で一度帰れとか言われてるけどね。そこは突っ込まないのが大人の作法さ。


 早速ホールの様な所に案内される。テーブルには食事がすでに用意されていた。オレたちと村長とその奥さん、それと恐らく村長の子供だろうと思われるスティーブと同じくらいの男の子と、10歳位の少女が共にテーブルに付き食事を始める。子どもたちは露骨にキラキラした目で俺達を見ている。


 料理はそこまで豪華な訳ではないが、この村でここまで品数を揃えるのはいささか無理をしているのでは無いだろうか。素朴ながらなかなか旨い。



 一応他所の街から来たということで、外界の話などを聞いてくるが本当に興味があるのか微妙な薄っぺらい質問ばかりだ。やがてなんとなく俺とみつ子の関係を聞いてきたりと、おっさんぽい質問も交じる。ただ、俺とみつ子が結婚を前提にしているような話をするとやや残念そうな顔になり、今度はモーザに恋人は居るのか? などと聞いてくる。


 モーザは自分に女性関係の話題が振られると、突然しどろもどろになる。ちょっと面白いのでそのまま見ている。話が進むと、「家の娘はまだ若すぎるのですが、この村にも年齢の合いそうな女性は居ますよ?」なんて言われている。


「しゅ修行中の身なので……」


 ぶっ。


 何代目の石川五右衛門だよお前。笑いを堪えるのがやっとだ。



 黒目黒髪は遺伝をするわけじゃないだろうが、加護や守護は割と親と同じ様な髪の色が出たりすると言われている。この村が予想通り黒目黒髪を求めているのであれば、この村に住み着いて子供を作って欲しいという気持ちはあるのかもしれないな。ただ。それって通りすがりの旅人としてはかなり面倒くさいお誘いだ。


 でもこの状況だと、山の集落の話を聞いても良いのかもしれない。


「まあ、モーザの恋の行方は置いておいて、実はですね。今回ここまで来たのには理由がありまして……」

「おお。それはそうですよね。で、その理由を聞いてもよろしいですか?」


 ていうか、普通に村に来た理由を聞かれるかと思っていたが。村長は別のことに夢中になって忘れていたようだ。改めて、トゥルからの依頼の話をし、山の集落にあると思われる果物を探してやってきた話をする。


「なるほど……山の集落ですか……」


 ん? 知ってるのか。シュザイハンの話とかじゃないよな?


「シュザイハンの冒険が事実かは分かりませんが、未知の土地を散策すればゲネブでは見たことのない果物などがあるのではと思っているのですが」

「……そうですね……そういった物はあるかもしれませんね」


 ……ううむ。まどろっこしいな。


「村長さん。腹割って話しませんか?」

「うん?」

「この村は龍神を祀っていますよね?」

「そう……ですね」

「黒目黒髪が龍の加護を持っていることも知っている」

「え? ……まさかショーゴさんも知っておられたのですか?」

「はい。以前とある火山でドラゴンと出会ったことがあるんです」

「……まさかドラゴンと話を?」

「はい」


 村長をはじめ、村の人達は世間一般では黒目黒髪がスパズと言われ無能的なレッテルを貼られているのは知っているらしい。そのため、どうそれを伝えるかのタイミングを計っていたようだ。


 そもそも、この村に俺たちのような黒目黒髪の冒険者はほとんど訪れたことがなく、500年近く昔の川口剛が最後くらいらしい。そしてシュザイハンが山の集落に行った話も本当だということだ。ただ、ドラゴンを倒したとか言う話は全くの嘘らしいが。


「実はこの村は、その山の集落との繋がりがあったんです」


 ん? あった? 過去形か?


 この村から、山の集落まではかなり高レベルの魔物の居る場所を通らないとたどり着かないらしい。それまではドラゴンに騎乗して集落からこの村までやってくることが有ったのだが、ここ20年来訪れていないという。


「ドラゴンに騎乗?」

「はい。冥加の……いや。黒目黒髪の方々はドラゴンと意思の疎通が出来るので、ドラゴンたちに騎乗することで危険な魔物と戦うこと無くこちらにやって来ることが出来たのです。しかし、山の集落で最後の黒目黒髪の方も当時かなりの高齢でしたので、おそらくもう亡くなられて今はこちらへ来れないのだろうと思います」


 やべえ。ドラゴンに騎乗とか、ロマンが溢れすぎて鼻血がでそうだ。


 山の集落ではドラゴンの巣が近くにあり、ドラゴンに守られる形で魔物の驚異から守られているという。龍神信仰のこの村にとっては聖地みたいなものだろう。


 そのせいかこの村は、山の集落とも元々から繋がりがあり、この村で黒目黒髪の子供が産まれると、ある程度の年になると山の集落へ移っていくと言う習慣があったらしい。しかし黒目黒髪は割とレアな存在のため過去を見ると定期的に同じように黒目黒髪の人間の不在と言う時期があったという。


 そこで出てくるのが川口剛探検隊だった。当時も今と同じ様に山の集落に黒目黒髪が途絶え、交流も無くなっていたという。そんな折に、この村に居た黒目黒髪の青年を見事山の集落まで送り届け、再び村に交流をもたらしというのだ。


「じゃあ、ドラゴンを退治して集落を救ったというのは作り話だけど、シュザイハンが集落に行ったのは本当なんですね」

「はい。彼らがなぜあの様な物語を残したのか、今となってはわかりませんが。もしかしたら集落の事を秘密にするために空想文学の様な形にしたのかもしれませんね。ただ、私どもは集落を守る義務がありますので、冷やかし半分の冒険者達は遠ざけるようにしております。と言ってもたどり着ける技量のある者などそうそういませんが」

「僕らに行けると思いますか?」

「ショーゴ様たちの実力が分からないのでなんとも言えないのですが、少なくともAランクパーティー程度の実力は必要と言われております」

「ふむ……」


 俺はサクラ商事のメンバーを見渡す。うん。行けそうな気がするんだが。モーザも行けるぜといった顔で俺を見つめてる。


「集落への行き方を教えてもらってよろしいですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る