第205話 トゥルの依頼 7 ~端の村~

 俺たちに集落への行き方を教えるのは村長の独断では決めかねるということで、司祭ら村の重鎮たちで相談させてくれと言われる。俺たちはそれを了承して教会に戻った。


 村を歩くといろんな目線が気になりそうで、とりあえず教会の男部屋に7人あつまりゴロゴロしている。道さえ教わればすぐにでも出発したいところだ。まあ許可が出なくてもとりあえず行ってみようかとは思っているが。


「でもさあ。シュザイハンの話って完全な嘘では無かったんだな」

「だから言ったじゃん。コレでかなり現実的になったでしょ?」

「でもさあ、聞いただろ? Aランクパーティーでもないとたどり着かないって。まあ人数居るからトゥルのガードは出来ると思うけどさ」

「うん……でもショーゴは人斬り兄弟だって退けたんでしょ? 頼むよ」

「まあ、頑張るけど無抵抗でやられたりはするなよ?」

「わ、分かってる」



 フォルとショアラはなんていうか、目を離すとすぐに2人きりの世界を構築する。道中はモーザがイライラして目を光らせていたが、流石に今は何もないしな。今も部屋の隅で2人で何か話しているが放っといてやろう。同い年枠のスティーブがなんとなく可愛そうだが。


 今回の旅では、トゥルという警護対象が居るため使えそうならとスティーブには小さめのラウンドシールドを持たせている。もともと未成年ということで小柄なスティーブは片手剣を両手で持って戦っていたが最近は体も成長して筋力も付いてきているため、片手で扱えそうなんだ。少しでも防御力を上げてもらったほうが、こっちも安心だ。


 道中も袋竹刀を使い、モーザと2人で盾の使い方のおさらいなどしている。冒険者家族に囲まれて英才教育を受けているだけあって、盾の使い方も心得てはいたが、流石に使い慣れてないものを即実戦投入というのも不安はあるしな。ただ見る限り多分問題無さそうだ。


 夕方になると、シャフ司祭が部屋に食事を持ってきてくれる。会議の動向を聞くがまだハウゼン司祭も帰ってきてないようで分からないと言われた。揉めているのだろうか。




 朝になり、昨日と同じ様にシャフ司祭が持ってきてくれた朝食を食べているとドアがノックされた。返事をすると5人のおっさんたちが入ってくる。その中の1人、村長が話しかけて来た。


「食事中すまない」

「いえ、大丈夫ですよ。で、どうでしたか? 集落への道は」

「大事な冥加の方を危険な所に行かせると言うのがやはり問題になりましてね。結局結論が出てないというのが正直な所で……」

「……そうですか。いえ。お気持ちだけで結構ですよ。適当に山に向かって歩いてみますので」

「え? いや! 恐らくショーゴさんたちはそうすると思って。一度実力を見せてもらってという事になったのですが……よろしいでしょうか?」

「実力を???」


 話は簡単だった、村の警備主任を任されているジャンと共に村の周りの林の中で魔物を狩るのを見せてもらいたいということだった。特に拒否する理由も見つからなかったため早速装備を整え村から出ていく。


「結構魔物が村を襲ったりあるんですか?」

「そんなしょっちゅうでもないが、そうだなあ」


 村人の人数の問題も有り、冒険者ギルドも無いため定期的な間引きなども出来ていないらしい。まあ話を聞く限り、それなりのランクじゃないと冒険者も厳しいのだろうが。


 村の四方は自衛のためか木を伐採して見通しが効くようになっている。伐採された草原を抜け林の中に入り込む。30分も進むとモーザが魔物の気配を察知したことを伝えてくる。


 まずは俺かな? とやってくるフォレストウルフに<ノイズ>をかける。まあこんな魔物じゃ強さを証明できない――??? ノイズ効かねえ?


「ショーゴ! そいつフォレストウルフじゃねえぞっ!」

「は? そう言えば……デカイな」


 ノイズで少しふらつくも、牙を剥いてこちらに向かって突っ込んでくる。ただ。猪突猛進に突っ込んでくるモンスターは割と対処が楽だ。俺はウルフの目に入るように数歩前に出て剣の柄を握る。レベルが高く知能のある魔物なら、剣の長さを見せない方が良い。


 鼻筋にシワを寄せ、よだれを飛ばしながら俺の喉笛をかき切ろうとする瞳を見つめながら、一瞬の抜刀で斬りつける。空中で失速し、胴だけになったウルフが軽く鎧に当たる。あ、パンテールさんに言われた目付をするなら、瞳なんか見つめちゃ駄目なのか。このレベルなら問題ないだろうけど気をつけないとな。


「まあ、問題は無いか。ジャンさん。もっと奥に行かないと強いの出てこないんですよね?」

「え? あ。ああ……そうだな」

「よし、次出たらスティーブやってみろよ」


 スティーブに盾を使った戦いを体験させたいな。と思ったのだがモーザがちょっと不満げに「俺じゃないのか?」と言ってくる。


「モーザ先輩はもうちょっと手応えのあるやつをお願いしたく思います」

「ん? そうか? いいだろう」


 この魔物はグレートウルフと言う種類らしい。フォレストウルフの上位種なのだろうが、スティーブも問題なく処理できる。確かに突っ込んでくるスピードはフォレストウルフの比じゃ無いし、スティーブの初撃は引きつけが足りないのか剣を避けられる。確かに強いかもしれない。それでも盾を上手く使うことでウルフも有効な攻めを出来ずにそのまま仕留められた。


「兄貴ぃ! 次は俺でいいっすか?」

「お。フォルの魔法も見てみたいな。だけど良いのか? 見せびらかすもんじゃねえんじゃね?」

「実際戦うんですから問題ないッスよ!」


 まあ、何が良いのかわからないが。そのまま森の奥に入っていく。やはりこの森はゲネブ近郊より魔物が多いのかすぐに出てくる。自信満々でフォルがウルフに向けて手を向ける。


 するとフォルの手のひらあたりから1本の木の杭が飛び出しグレートウルフの胸のあたりに突き刺さる。――だが少し浅いか。すぐさまフォルは2つ3つと木の杭を連発してウルフに当てる。


「おおおお。杭かあ。良いなあそれ!」

「ふふふ。ウッドパイルっす。特に俺のは師匠とかと違ってささくれだってるらしく、かすっても痛いんスよ!」

「お、おう……」


 よくわからんが、それって綺麗な杭を作れてないってことじゃね? ワザとささくれ作ってるのか? だが自信満々のフォルにそこを突っ込めねえ優しい俺がいる。


「魔法使いまでいるのか」

「僕も水魔法は使えますよ。あとみつ子は火魔法と回復魔法が使えます、ショアラもエルフだから使えるよな?」

「はーい。風魔法使えますよ~」

「そ、そうか……いや。この先もっと強い魔物が出るが、グレートウルフをこれだけ余裕で倒せるんだ。大丈夫だろう」

「おお、試験は合格ですか?」

「ああ、だが先の魔物はあまり1人で戦おうとするなよ。Aランクがパーティーで戦ってなんとかなるようなのも出てくるんだ」

「了解ですよ」


 ふむ。無事に許可は貰えそうだ。やっぱ広いところを適当に探すより道が分かっていたほうが時間短縮になるしな。


「……俺の実力をまだ見せてねえんだけど」

「あ……モーザ……ここは我慢だ」

「くっ……」

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