第202話 トゥルの依頼 4 ~端の村~

「お前たちは?」


 警戒心を全く隠そうともせず、村の門番が話しかけてくる。ん? もしかしたらこんな自治性の高い村だ。賞金首みたいな犯罪者が身を隠しに来たりするのかもしれないな。


 いや。龍珠のせいか?


「えっと。龍脈の終着点というのを見てみたくてここまで旅をしてきたんですよ」

「……本当か? お前の上に浮いているその玉はなんなんだ?」

「いや、まあ。えっと。なんていうかある朝起きたら浮いていたんですが、なにかの精霊的な物にまとわり付かれていると言うか、特に悪さをするわけじゃないので……」


 いつもながら言い訳が苦しい。門番も全く警戒心が緩まねえ。


「悪いがそんな怪しいやつを村に入れるわけにはいかないな」

「いやいや、全然怪しくないですって。ホント、僕らもほぼ観光みたいなもので、北の方で見たことのない食べ物とかあったら食べてみたいなあ、みたいなのもありますけど」

「ここはそんな裕福な村じゃない。そんな珍しいものなんてないぞ」

「そうなんですか? でも村の周りの堀とか凄い手が混んで立派じゃないですか」

「それはそれだけこの村が危険だということだ。まだ日も昇ったばかりだ、とっとと帰れ」

「え? いやあ、せっかく来たので……」


 おいおいおい。いきなり帰れかよ。閉鎖的とか聞いていたけど、ここまでなのか?


「お、おい。ジャン」


 その時横に居たもう1人の男が、話していた男に声をかけた。なんだよ、といった感じで振り向くが、その男が何やらモーザの方を見ながら何かを耳打ちしている。ジャンと呼ばれた男もチラッとモーザの方を見ると顔色を変える。すぐに声をかけた男になにか指示をすると、そいつは村の中に入っていった。


 ……なんだ? ここでも黒目黒髪問題が発生するのか? ただ俺は裕也に作ってもらった帽子を被っているため一見黒目黒髪は分かりづらい。モーザも自分が見られているのに気がついたのかちょっと気まずそうな顔になる。


 うん。うちの子を泣かすような真似したら、許さねえよ。


「村を見てみたいということだな?」

「……ああ。黒目黒髪は入れねえって感じか?」

「え? いや。それはない。わかった。ちょっとだけ待ってくれ」


 俺は自分の帽子を取りながら言う。


「悪いけど、俺も黒目黒髪だ」


 ジャンが目を見開く。


「すっすぐ入れるようにするから、頼むから少し待ってくれ」

「わかった……」



 待っている間、俺たちもなんとなく門番達から距離を取る。


「どう思う?」

「なんか黒目黒髪に対しての悪意みたいなのは無い気がするの」

「うん、この反応は珍しいよな。なんだろう」

「まあ、なんかあったら皆もトゥルを守る感じで頼むぜ、一応は依頼主なんだから」

「一応ってなんだよっ!」



 そうこうしていると村の中に入っていた人も帰ってくる。そのままどうぞと、ようやく中に入ることが出来た。


 村の中はそこまで住人が多い雰囲気はないがそれでも立派な村という感じだ。他との違いと言えば各家々が木の柵で囲まれている感じで、やはり魔物の襲来が中まで及ぶことを想定してあるような作りになっている。


 村の中はジャンが先導する形で俺たちは後についていく。


「とりあえず宿を取りたいんだけど……」

「この村には宿は無いんだ。教会の一室を空けさせたからそこで寝泊まりしてもらいたい」

「教会で? 寄合小屋みたいなところでも良いんだけど」

「いや、村長の指示なんだ、ちゃんと料理も出すから教会で頼む」


 ……ん? 話的には寄合小屋の様なところはあるのか。しかし料理まで付くとはなんか露骨な接待を受ける感じで警戒しちまうな。


(モーザ)

(ん?)

(とりあえず<ノイズ>を体に纏って居たほうが良いかもな)

(もうやってる)


 おおう。やはりモーザもなんか怪しい感じを感じ取ったか。


 道々で村人の視線を感じる。すれ違いながら、家の陰から。至るところからよそ者に対する警戒なのか視線が飛んでくる。やっぱり居心地悪いな。ここ。



 案内された教会は、村としてはかなり立派な教会だった。シンボルマークと思われるアイコンも他所で見る教会と何ら変わらない。しかし中に入るとすぐさまその違いに気がつく。


 教会の中に描かれているフレスコ画のような物に描かれてる絵柄の違いだ。


 7神……曜日の元にもなっている7柱の神、死と再生の女神モイラ。人間の神ヘルメス エルフの神フレイ ドワーフの神イストス、獣人の神オグマ、大地の女神レア 海の神セイそれぞれの絵画が見当たらない。


 そして、描かれているのは1人の神と思われる者の周りを5匹の龍が飛んでいる絵が天井一面を使い描かれていた。



「まさか……龍神を祀っているのか?」


「その通りです」


 声に振り向くと、1人の年配の司祭がこちらに近づいてくる。


「突然言葉を挟んでしまい申し訳有りません。私はこの教会を任されているハウゼンと申します。……貴方がご覧の通りこの教会では龍神を主として祀っているのです。もちろん他の7柱の神々にも敬意は払っていますけどね」


 年の割に張りのある声が続ける。なるほどと天井画を再び見つめる。確かに龍神と共に巨人達と戦う龍が描かれているようだ。あれ、前にゲネブ公が言ってたシーズ派とかいうやつかも?


「と言っても他の教会と大きく変わることはありません。ヴァシェロニア教国では、龍神様を神か准神かで解釈が決まっていない部分がありましてね。その中で我々は巨人族から人々を守ってくださる龍神様を神として崇めている一派であるというだけの話です」

「なるほど、たしかに7柱を崇める主流派と創造神を崇める派があるという話は聞いていましたが。龍神を崇める教会は聞いたことが無かったですね」

「我々と考えを同じとする教会はパテック王国にはここしか無いですからね。他国にはもう少し有るのですが……」

「端の村が閉鎖的な村だという話は聞いていましたが、それはこの教会の影響もあるんですか?」

「そうですね。それは無いとは言い切れません。ただ教会としては他の派閥をそこまで邪険にしている訳では無いので。国との関係が希薄なのは恐らく龍脈の薄さで自分たちの身は自分たちで守るという風習が元々有ったと言うほうが強いかもしれませんね。ここは国が出来る前からあった村ですので」

「歴史のある村なんですね」

「そうですね……あ、すいません部屋の方なんですが、女性も居るようなので2部屋用意させます」


 そう言うとハウゼン司祭は、若い司祭に声をかけもう1部屋用意するように指示する。確かにそこそこ大きい教会だが2部屋は取れるのか? と遠慮しようとするが、魔物の襲来で家が壊された人を受け入れたり、病院的な使い方をしているようで全然問題ないということで甘えることにした。


 ここまで案内してくれたジャンはまた門番の方に戻るということで出ていった。


 まあ宿代かからないのは……トゥルが助かるのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る