第201話 トゥルの依頼 3 ~端の村へ~
話によるとタル村の龍脈溜まりの規模も村としては大きく街としては小さい感じで、開拓時は街にしようかと言う話も有ったようだ。だが街にするとゲネブの管轄から外れて別の領主を立てないといけないと言うのがこの国のルールとしてあるらしい。そのため街じゃなく村としてやっているということだった。そもそも街にした時の領土として扱える土地が端の村しかなく税収などもあまり望めないと言うのも理由としてあったようだ。
「それじゃ、次の集落めざすか」
再びマラソンになるのだが、ここまで来れたことでメンバーはそれなりに気持ちに余裕が出てきてる気がする。昨夜は遅くまでみつ子とショアラで女子部屋が盛り上がっていたようでちょっと眠そうだが、なんか仲良くなってきてる感じが良いね。
ここまでの道中は割と森の中を走る感じだったが、ヤギ村を出てタル村が近づくと少し木々も減り始める。ここからは草原の中の道を行く感じだ。
ヤタの集落も、ユタの集落も集落の規模としては小さく、カポの集落と同じ様なレベルらしい。避難小屋でも野営よりは良さそうだが、集落に合わせて行くより通過して途中の街道上で野営するくらいの感じのほうが良さそうな気がする。そんな計画だ。
「なあ、山の中の村を探すなら、こんな街道走らないで森の中を斜めに山の方に走っていったらどうだ?」
「モーザ、あくまでもトゥルは依頼人だからな」
「ああ、でも冒険者だろ?」
「駄目。駄目です。端の村までは我慢しろって」
「つまらん……」
うわ。コイツ完全に訓練合宿の延長で考えてるわ……。
それに端の村で少し情報を集めたいんだよ。モーザを落ち着かせて龍脈沿いにひたすら走り出す。氷室に入れていた肉類も順調に減っていき少し軽くなってくる。なんとなくタル村で買い足すのを忘れてたなあなんて思うが。端の村でも買えるのかね。
道中野営をし、次の日の昼くらいにはヤタの集落に着く。確かにゲネブの西にあるカポの集落と同じ様な感じだ。住人は居なく、警備団の詰め所と寄合小屋、それと水場があるくらいだ。ひたすら走っていた俺たちは荷物を置き、ゆっくりと昼飯作って休む。だけど今日はここに止まらずに再び街道を走る予定だ。
「お? モーザじゃねえか」
食事の用意をしていると1人の警備団のおっさんが近づいてくる。
「マチスさん??」
「聞いたぞ、ちゃんと仕事してるらしいじゃねえか……ん? お前確か」
マチスと言われた警備団が俺の顔を見て知ってるようなそぶりをする。えっと? 誰だっけ?
「ショーゴ。マチスさんは牢屋で俺を迎えに来てくれたんだ。覚えてないか?」
「え? ああ。ああああ。あの時の!」
「おい、モーザ。大丈夫なのかコイツ。殺しだったんじゃ?」
「大丈夫ですよ。クルト団長やロジン副団長のお墨付きです」
「なに? ほんとか? ……そうか。まあ何にしろ元気そうで良かった」
「ありがとうございます」
話をしているともう1人の団員もやってくる。なんか用意していた食事に興味津々な感じで、しょうがなく食事に誘う。言葉では断る素振りを見せながらも二人共ガッツリと食っていく。まあ、こんな辺鄙なところで勤めをしてれば暇だろうしな。
これから端の村まで目指すと言う話をすると、村の情報を教えてくれる。端の村はかなり閉鎖的な雰囲気のある村らしく、警備団の出張所も無いため警備団でもあまり把握できていない村らしい。というか、ここの出張所がゲネブの警備団の最南端になるという。
村には龍脈は通っているが、龍脈の末端部分というのもあるのか少し龍脈の濃さも薄いらしく周辺の魔物もゲネブのそれと比べ強いものが多いという。モーザは少し嬉しそうに「ほほう……」なんて言っている。
そんな環境で警備団を受け入れないって大丈夫なのか? と思ったが、村人で構成された村独自の警備団のようなものがあり、自衛もきっちり出来てるようだ。冒険者ギルドの支店も一度は作られたらしいがほとんど依頼が入らず撤退しているという。聞けば聞くほど興味は湧く。
一応行商人の行き来などはあるようだが、村にある教会も少しレアな宗派らしくゲネブの大聖堂の様な大手の教会とも繋がりが薄い。王国内でなぜそんな自治性が認められているのか謎だが、辺境すぎて王国の村としても別にそこまで旨味が無いと言うのが放置されている理由じゃないかとマチスは言っていた。
ううむ。なんか引っかかるな。閉鎖的なのはその教会とかが原因なのか? スラムの教会とは別の宗派なのかな。なんかイベントの匂いがしてちょっと楽しみかもしれない。
食事も終わり出発しようとするとマチスが、そう言えばお前たちはなんで端の村なんて行くんだ? と聞いてくる。珍しい果物の木を求めてと言うと、ちょっと苦笑いをされる。
「シュザイハンの冒険か? おとぎ話だろ? それ」
「えーと。やっぱ有名な話なんですか?」
「まあ、最近はだんだん知らない奴らも増えてるがな、一応は知ってるぜ」
「そうですか……あれ? モーザは知ってたのか?」
「ん? 一応な。子供の頃にその演劇は見たぞ」
「マジか! なんで黙って――」
「言ったら、お前、この依頼受けなかったかもしれないからな」
「うわあ……」
なんとなくスティーブ達にも聞いたが、スラムの子やエルフの子は知らないようだった。うん。この子達はそんなアコギな事はしないよな。
マチスに情報のお礼を言い、集落を発つ。少し長く休みすぎた感があるのでちょっと頑張らないと、と発破を掛けながら行く。
地図のおおよその日程だと端の村までは5~6日となっているため3日で到着する予定だったのだが、3日目。日が沈みだしても端の村には到着しない。
「このまま一気に行く?」
「夜になれば宿も閉まってるかもしれないんじゃない?」
「そうだなあ。しょうがない。ここらで1泊するか」
残りの距離なども分からないため、もう1泊野営することにする。まあどうせ端の村で、例の山の中の集落の情報を集めようと思っていたので明日の昼とかにたどり着けば予定はあまり狂わないだろう。
実際次の日の朝、出発して2時間ほどで村が見えてきた。
「なるほど、ここが端の村か、この感じは初めて見るかもな」
村は、結構深めの空堀で囲まれており、堀を掘った時の土なのだろうか、堀の内側を土手のように土を盛り上げて防壁のようにしている。石垣じゃないが日本の城の感じに見えなくもない。近づいてみると堀は3m位の深さはあるだろうか、堀の下には木の杭が先を尖らせて植え付けられている。
龍脈沿いの村や集落は基本的に、石や木の壁で囲っているが、そもそも龍脈に近づいてくる魔物がほとんど居ないので、ここまで厳重にしてあるというのは初めて見る。防御性能を考えればもちろんゲネブの高くそびえる城壁のようなものの方が強いだろうが、ここは辺境の村だしな。マチスさんの言うように龍脈の力が少し薄いというのがホントなんだろうと思わせる。
近づいていくと、門番なのだろうか。他の村の警備団達とは違い不揃いの鎧に身を固めた男たちが警戒したように門から出てきた。
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