第97話 教会
目を覚ますと、見知らぬ天井が見える。所々に雨漏りの跡のようなシミもあり年季を感じる天井だ。よく子供の頃、風邪を引いて学校を休んだ昼間、寝すぎて眠れなくなると天井の木目をいつまでも見ていたもんだ。ううん。刺された傷はほぼ問題ない感じだな。よくよく考えるとけっこう異常な話だ。
首を持ち上げて部屋の中を見る。やはりだいぶ古びた建物だなここは。だけど掃除は行き届いている。布団も使い古しだが清潔感はありそうだ。部屋の隅の方で1人の少女が机に向かって一生懸命に何かを書いていた。
「ねえ、ここは何処だい?」
……
ん? 少女は聞こえていないのか、一心不乱に何かを書き続けている。
ぬう。
「あのう。ちょっといいかい?」
少し大きめの声で再び声を掛けてみる。すると少女はビクッと顔を上げこちらを見る。まだ10歳にもならない位の子だろうか。大きな目を更に広げしばらくこちらを見ていたが、突然すくっと立ち上がり何も言わず部屋から出て行った。
タッタッタッ。
廊下を走っていくのが解る。
……怖がらせたのか?
もしかしたら神父……司祭? を呼びに行ったのかもしれない。そう思いしばらく待っていると廊下を大人の男性と、もう1人恐らく女性か? が一緒にこちらに向かって歩いてくるのが解った。
あれ? やけに鮮明だな。
そんな事を考えていると、部屋の前で止まりドアを開けるのが解る。ドアからは司祭らしき壮年の男性と、俺と同じくらいの年齢の若いシスターが入ってきた。本当に男性と女性だったな。ん? この子見たことがあるな。何処で見かけたんだっけ……。
思い出そうと必死に考えていると司祭が声を掛けてきた。
「目が覚めましたか? 気分はどうです?」
「何となくボーっとしますが、概ね良好です。どなたか回復の魔法をかけて頂いたのですか? 助かりました」
「こちらのシスタールティエが回復魔法をかけさせて頂きました。ただそれ以上にどんどん傷が塞がっていってもしかしたら必要無かったかもしれませんね。もしかして<強回復>などお持ちなのですか?」
「あ、解りますか? ただ<強回復>って魔力の回復も早くなると思ってたのに、どんどん魔力が減って行って。魔力切れですかね気絶しちゃったみたいで」
「意識を失われたのは、だいぶ出血していましたのでそちらの方じゃないかと。それと<強回復>は魔力の回復も補助はしますが、傷が酷いときは魔力を使って回復をブーストさせるので。おそらく相当な傷だったんじゃないですかね」
ううむ。相当な傷だったよな。きっと普通なら死ねるくらいに。
なるほど、<強回復>は通常時は魔力回復も助けるけど、酷い傷を治していくときはむしろ魔力を喰ってブーストするのか。
「ありがとうございます。そちらの、ルティエさんですか? 回復魔法ありがとうございます」
「いえ、神より与えられた力を使わせて頂いただけですので。感謝は神に」
お。硬い感じだな。可愛い子なのに。
そうか。初めてゲネブに来た日。裕也を待ってるときにハヤトと教会の裏を覗いているのを注意してきたシスターだ。思い出した。うん。あの時も堅物っぽかったもんな。こっちのことは思い出さないで欲しいところだ。
「あ、忘れてました。僕は省吾です。先日冒険者ギルドを退会して、その時にギルド長と揉めたりしたので、それで他の冒険者に狙われたようで」
「そうですか……実は、恐らくその件に関してだとは思いますが。血痕が現場からここまで続いていたと言う事で警備団の方が見えられているのです。教会としては基本的に怪我人に対してはその善悪は関係なく対応させてもらっておりますので、意識が戻ったら事情を聞きたいという事で待ってもらっているんです」
げ。そりゃそうか。道端で人が死んでいて、その血痕が教会まで続いていれば普通に調べに来るわな。しょうがない。迷惑もかけられねえし。
「解りました。僕はもう大丈夫なので行けます。」
ん。そう言えば持ち物はどうするか。殺人事件だしな。なんとなく置いていった方が良い予感がする。直感か?
「あ、すいませんが僕の次元鞄とか、持ち物をしばらく預かってもらっていいですか?」
そう言うと俺はベットから起き上がる。
少しフラつくが何とか成りそうだ。司祭さんはやはり良い人なんだろう。ふらつく俺に手を貸してくれながら、荷物は大丈夫ですと返してくれる。何が有るか分からないからな。没収とかされても嫌だし。
そのまま警備団の団員が待っているという部屋に案内してもらう。
警備団は3名で来ていた。なんとなく廊下を歩いている段階で3名の男性の気配が感じ取れていた。これは<気配察知>が付いたのか? 時間が有る時に確認してみよう。なんか死にそうに成るたびにスキルが付くような気がする。
生命の危機に対する反応なのだろうか。確かにこの感覚があればあんな不意打ちは受けないだろし。まあ、今回は酔っ払っていた方が問題だったかもしれないが。
「もう動けるのか?」
中年のリーダーらしき人が俺の状態を聞いてくる。思ったより高圧的じゃなさそうだな。
「はい。少し血が足りないようですが傷は回復魔法で治して貰えましたので」
「そうか、今朝の殺しについて詰め所で話を聞かせてもらうが?」
「はい、了解しています」
簡単に名前などを聞かれる。冒険者登録などを聞かれたので、昨日辞めた話をした。3人の内1人が情報の確認のために冒険者ギルドに向かうようだ。俺は一応は容疑者になるので、前後を挟まれて歩いていく。手錠とかされなくて良かった。
詰め所は、以前行った事のある第3警備団とは少し離れた所にあった。街中の事件だから第2警備団の管轄だろう。やはり公的な施設なので貴族街の周りの塀の外の区画だ。
詰め所に入ると、解析の魔道具で名前などを確認し、身体検査をされる。そしてそのまま個室に通された。中は神の1柱と思われる絵画が一枚飾られている以外は飾り気のない部屋だ。奥に1つある椅子に座るように言われる。まるで取調室だ。いや。本当に取調室なのだろう。
少しここで待つように言われ、案内してくれた団員が部屋から出て行く。ガチャンという音が聞こえた。鍵がかけられたようだ。
……
1時間ほどぼーっと待つが誰も来ない。
腹が減ったなあ。
しょうがない。暇だしスキルチェックでもしてるか。
目を閉じ、いつものように脳内のスキルを散策する。どれどれ……増えた分分かりにくいな。これは違う。これも違うな。ん。あったこれか。あれ? 少しキャパを使ってるな。レベル3くらいの大きさだ。
新しく出たスキルは<気配感知>だった。<気配察知>の上位版か? おおお。ちょっといい感じじゃないのか? 確かに察知するというよりもっと具体的に感覚が分かるもんな。でも若干範囲が狭い気がする。裕也を見てるともっと広域で気配を察知していたような感じだったもんな。良し悪しといったところか。
……うん。来ねえな。
腹減ったし。
更に1時間ほど待つと、4人の団員らしき人がこちらに向かって来るのを感知した。
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