第98話 牢屋の中 1
ガチャリ
ドアの鍵が開錠される音が聞こえ、すぐにドアが開く。
部屋にカイゼル髭の偉そうな男が3人の部下を引き連れて入ってきた。
「名前はショーゴで合っているな」
髭の男は無表情のまま質問してくる。こいつは、随分と高圧的だ。実際偉いんだろうな。
「あ、はい」
「被害者のロームを殺したのはお前だな?」
「え? 被害者って――」
「聞かれたことだけ答えろ」
うわ。なんかやべえ雰囲気が充満してるんだが。
「何故答えない。お前が殺したのか?」
「そ、そうです。でっでも奴が先に――」
「余計なことは言わなくていい」
くっ。なんだこいつ。
髭の男が、横の部下の方へ手を向けると、部下が書類のようなものをすぐに渡す。そのまま書類の文章を読み始めた。
「6月27日。深夜。ショーゴは酒を飲んで帰宅中のロームを襲い殺害。共に居た女性の証言あり。本人の自供あり。尚、ショーゴは当日冒険者ギルドを素行不良により除名されていることより冒険者への恨みが動機とされる」
は? いきなり罪状? ていうか確定? これで裁判終わりとか???
「ちょっ。ちょっと待ってください」
「スパズらしくひっそりと暮せば良いものを」
「いや、だから違うって言ってるだろ!」
「連れてけ」
髭の男が指示すると、3人の部下が俺の周りを囲む。くっそ。3人くらい……いや。ちくしょう。従うしかないのか。
警備団のごつい連中に両腕をつかまれ椅子から立ち上がらせられる。そのまま俺は、建物の地下へ連れて行かれた。
牢屋ってやつだ。
地下は薄暗く、そこそこの広さはあるようだ。階段を降りると牢屋番のようなオッサンが牢屋が並んでいる廊下の鍵を開ける。そこは日本でテレビ等で見たことがあるような感じそのままで、通路の両側に鉄格子にくぐり戸のような格子のドアが付いてる個室が並んでいた。
そしてそのまま奥の一室に入るように促される。
なんだよ。殺人罪でいきなり死刑とかなるのか???
潜るのを躊躇していると後ろからドンと押され、中に入る。床にはゴザのようなものがひかれ、隅の方に丸い穴のようなものがあり、そこに木蓋がされていた。トイレか?
ガチャン。ガチャ。
振り向くと牢屋のドアは閉められており、牢屋番が掛けた鍵を抜いていた。
「いつまでここに入れられるんです?」
「あ? 罪状が送られて領主の判がもらえればすぐに出れるさ」
「どのくらいでその判と言うのは貰えるんです?」
「さあな。忙しい方だからな。て、おい。出れるっていっても此処から出れるだけだぞ?」
「え?」
「その後は牢獄の方に送られるか、刑場に送られるかだ。人を殺したんだシャバには出れねえよ」
「は??? だからさ、俺は正当防衛だと言ってるだろ」
「そんな事は知らん。スパズが刑を犯せば大抵は縛り首だ。ひっひっひ」
「くっ……」
護送をしてきた警備団の面々も仕事が終わったとばかりに出て行こうとする。
「おい! あの髭のおっさんに、俺は無罪だってちゃんと言ってくれよっ!」
警備団はチラッとこっちをみて、何も言わずに出て行った。
マジかよ。
てか、腹減ったなあ。朝からなんも食ってねえよ。
投獄されてても食事くらいはあるよなあ?
……
とりあえず木の蓋を持ち上げて中を見てみる。
トイレだな。そのまま下水まで繋がってるのか? 下で水の流れる様な音がする。しかし周りに色々こびりついていて汚ねえな。よし、おれの小便で少しでも綺麗にしてみるか。
……
暇だな。腹減ったし。
ん? 俺の2つくらい奥の牢に1人男性が居るな。どんなやつだろう。
鉄格子の所まで行き、声を掛けてみる。
「すいません。ちょっといいですか? 新人の省吾っていいます。ちょっとお腹が空いたんですがご飯って出てくるんですか?」
……
返事が無い。だけどちょっと反応はしたみたいだな。
どうしたものか。そんな事を考えていると声が聞こえてきた。
「飯は朝と夕方の2回だけだ。朝は終わってる」
「あ、ありがとうございます」
お? 意外と声が若い。こんな状況でも、お仲間との軽いやり取りは少し気は紛れる。ん。しかしよく考えてみるとここに居るのは基本犯罪者だよな。あまり仲良くしないほうが良いのか? でも答えてくれたからな。悪いやつじゃないに違いない。
……時間も有るし、腐っててもしょうがねえ。ここはトレーニングだな。よし今日からトレーニング週間だ。雑用依頼ばっかで実力アップが少ねえからな。
そう決めると立ち上がる。天上の高さは十分にある。
特に剣とかはねえからな。太極拳……は場所が無理だな。と言うことでシャドウボクシングだ。
そう思い、シュッシュと素人レベルのジャブとストレートとアッパー、フックなどの組み合わせでやってみる。実戦的というより、スポーツジムで何度か体験したボクシングの動きを使ったエクササイズだが。
シュッ。シュッ。で、ここでスウェイ……っと、ととと。
仰け反る様なスウェイの動作でそのまま踏ん張れず倒れそうになる。まだ血が足りないのか過激な動きはふらついてしまうな。空腹もあるか?
しょうが無い。座禅だな。
風のささやきも聞こえず、仄かな木漏れ日の暖かさも感じないジメジメした地下牢の中だが必死に集中をする。いや。必死にやったら座禅じゃ無いかもしれないが。
座禅というのは本来半眼というまぶたを半分閉じる様な状態で行うという。目を開くと無駄な視覚情報が入り込み、逆に閉じると心が内に向いてしまうと言うことで半分目を閉じたくらいで行う……らしい。が個人的に瞑想に近いものを想定しているので目を閉じてしまっている。その中で魔力を練ったりしながら魔法関連のスキルなどの発生を狙ってはいる。
まあ半分まぶたを閉じると言う微妙な状態を固定するのに意識が向いちゃってなんか集中出来てない気がすると言うのが本心なんだが。
魔力を放出させながら、それで自分の体を包むイメージを今は行っている。出来たらその魔力濃度を更に濃くしていく感じだ。
スー。ハー。
スー。ハー。
うん。こんな場所でもなかなか集中できている。
殺人を認定され、投獄され、死刑も有るんじゃないかという精神的なダメージも集中していると気にならなくなる。いざと成ったら全員<ノイズ>プラス<ラウドボイス>で失神させて逃げてやる位の前向き? な気分だ。
スー。フーーー。
スー。フーーー。
吐く時の息をだんだんと細く眺めにしていく。息を吐く時に魔力を放出させる感じがやはり楽な感じがする。
どれだけ続けただろう、5~6時間はやってたんじゃないか。
2人の男性が牢屋に向かってくるのに気がつく。階段から降りてきたのか? 階段の辺りでは解らなかったが降りてこちらに向かう段階で感知に引っかかった感じだよな。ふむ。<気配感知>有効範囲は2~30mといった所か。やっぱ野外での探知範囲としては少し狭いな。もってて便利そうではあるが。
まあよく考えると、鉄格子といったオープンな環境だからその距離が出てるだけかもしれないか。
そんな事を考えていると男たちは牢屋に繋がる通路の鍵を開けて入ってきた。
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