第281話 炙り出し。

 プレジウソとの会談から、ヨグ神の遺跡の封印の計画を立て始めていた。


 ユタカのノートを読んでみると、この島は予想以上に大きいことが分かる。

 ヨグ神がアンデッドを生みだすために呪われた遺跡を作り、その周りを分断して大陸から引き離したという神話があるが、殊の外大きく分断してるようだ。四国くらいはあるかもしれないという記述があった。


「なんで四国かなあ? お遍路さんとかで歩いた経験があったりして」

「普通に四国出身なんじゃないの?」

「ん~。そうか」


 よくは分からないが、四国といえば4県を抱える島だ。相当大きいんじゃないか? 正直北海道も九州も四国もサイズ感が分からないんだ。特に歩きでの感覚だと俺にはちょっと自信ないな。今の俺の全速力が時速何キロくらいなのかとかも分からない。


 そして、この島の東側にある村から森の中を歩き西側にある山の麓にその遺跡を見つけたという。遺跡を発見するまではかなり時間がかかったらしいが、そこから村までの帰路は過去の勇者の足で4日程だったという。

 そしてその情報はシャーロットにも伝わっていた。呪われた遺跡だ。もし封印が外れたらそれを残された子孫が再封印を施す必要になるかもしれない。当然日本人にしか読めないような情報の残し方はしないだろう。



「問題は、メンバーだよなあ。全員で行くか分けるか……」

「私達が出ている間にまたアンデッドの大群が攻めてきたら守れないかしら」

「一応そのために村の外壁の周りに空堀とかは掘ったりしてるし、ネライ子爵の護衛の3人も質は高いからなあ。彼らがいれば戦力的には良いのかも」

「私達を2つに分けるとしたら、省吾君のチームとモーザ君のチーム?」

「そうなんだけど……森の中進むならモーザの索敵能力とかハーレーの機動力は欲しくなっちゃうんだよなあ」

「じゃあ、騎士団の人たちと一緒にミドー君とかジン君を留守番で待っててもらうとか?」

「うーん……」


 結局の所、こんな見知らぬ島で2つに分けて俺の目の届かないところでサクラ商事の仲間に何かがあったら嫌だというのがどうしてもある。モルニア商会の連中の動きも嫌だしなあ。ワイバーンのアンデッドとかそれ以上の魔物が攻めてきた時、どうなるかちょっと分からない。そうなると俺としては仲間全員で動きたい。


 過保護だろうか。





 モルニア商会の監視は、はじめ2人で探ってもらう流れだったが、結局シュトルム連邦の言葉が理解できるのはゾディアックだけなので次の日からゾディアックがメインでやるようになっている。フルリエはサポートに入る感じだ。

 そのゾディアックはまだ有効な情報は集められていない。と言っても監視を初めて2日程度だ。すぐに都合よく話が進むわけではないだろう。俺たちはさぐり要員を派遣してることを彼らに感づかれないように、交代で森の中での散策を進めて視線を逸らすようにはしている。


 ゾディアックの隠密技術は例の帝国との戦争時、圧倒的に強者の帝国に対してゲリラ的な行動をメインに戦っていたところから来るようだ。帝国と戦い抜いた多くの猛者たちの中で、ゾディアックとその妻の2人の隠密能力が特に秀でていたため伝説にまでなったという。ゾディアックは事も無げに言うが、ゲリラでの状態まで追い込まれてから帝国を追い返したというのは相当辛苦の戦いを生き抜いたということだ。平和な日本育ちの俺にはわからない世界なんだろう。




 実際の所、モルニア商会の人たちは俺達の存在をかなり気にしては居るようだ。やはりというか、会話的にもどこか内陸部に仲間が居るのも分かってきた。おそらく封印の時に埋めた遺跡を掘り出したのもその仲間たちだと思われるが、なかなか決定的な情報が出てこない。


 話を聞きながら、ゾディアックと相談する。


「少し揺らしてみたらどうじゃ?」

「揺らす?」

「ヨグの遺跡を封印しに行くというのを大々的に流すんじゃ」

「なるほど……」


 さすがジジイ、老獪だぜ。

 俺としては逆にモルニア商会の連中に内緒にして邪魔されないうちに一気にとも思っていたが。おおっぴらに知らせてしまえば、封印されまいと戦力を俺たちの方に集中させてくれるかもしれない。そんな物俺たちなら撥ね退けられる自信もあるし、結果として村の人達を守ることにも繋がる。そんな事を考えていた。


 話のばらまき方もあまり露骨だと警戒をされるかもしれない。

 族長に俺たちが遺跡に向かう予定だという話を伝えれば、自然に伝わるだろう。そして今回の遺跡の封印にはプレジウソ司祭が<聖刻>を付与した石などで封印することまで伝えるようにする。

 プレジウソには、下手したら暗殺の手まで回る恐れもある事も伝えた。プレジウソはネライ子爵等と同じ家に滞在している。危険があるならオレたちの家の方に移っても良いかもしれないが、とりあえずは交代で俺たちの誰かが護衛をする感じにする予定だ。


 ある程度予定を決め、ファーブルの元へ話を流しに向かう。



「呪われた遺跡を? ……そうか。司祭も一緒に来ていると聞いたが」

「はい。プレジウソ司祭ですね。聖女とか聖者というわけじゃないですが、司祭は元々対アンデッドとの戦いを考慮して教会が育てていた司祭なので、それなりに技術はあるようなのです」

「なるほど……。確かにそれが上手くいくなら素晴らしいことだが……」


 ん? 凄い食いついてくるかと思ったが、そこまでの反応じゃないな。とりあえずモルニア商会の焚き付けとして、村長に遺跡の封印の話をしに来たのだが。失敗か?


「どうしました?」

「ん? 何が……いや。そうだな。ネライ子爵に少し相談を受けてな」

「ネライ子爵に?」


 あれ? そうか、もう移住の話をしたのかな。なんだ。ちゃんと話が進んでいたか。そうなれば、特に危険を犯してまで遺跡を封印する必要がないという流れになるのか。


 ううむ。色々とごちゃごちゃして面倒くさいな。


 う~ん……。


「移住の話です?」

「ん? 知っているのか?」

「はい、子爵との話をしている時にそんな事を聞きました」

「そうなんだ。はじめは移住のことなど取り合わないつもりだったが、血が濃くなるという話などを聞いてな。その話は父がよく心配していたと母からも聞いていたんだ。俺のようなエルフにはあまり関係ないのかもしれないが、実際父の孫や曾孫世代での結婚は普通にある。村の代表としては無視できない問題なんだ」

「ですね、ユタカさんのノートにもそういった事は書いてありましたし。僕もあまり良いことじゃないのはわかります」


 やはり、移住の話を既に始めていたんだな。


「そう言えば、モルニア商会の方々はこの島に希少な薬草を取りに来るとか」

「ん? ああ、そう聞いているが」


 ちょっと強引にモルニア商会の話題を混ぜてしまったが……一瞬戸惑ったようだけど、このくらいなら?


「でしたら、彼らにしても遺跡を封印することは喜ばしいことかと」

「むう……」

「大陸からわざわざこの島まで危険を犯してやってくるのです。村の人々が移住をしてもおそらくその薬草を取りにここへやってくるのでしょう」

「……そうだな」

「でしたら、彼らのためにも遺跡の封印をすることはするべきなんじゃないですかね。薬草の採取時に今回のような危険な目に合うリスクが減るのと思います。特に村人が居なければアンデッドの間引きを行われないですし、放っておいたらより危険な島になってしまうと思うんですよ」

「ふむ……それを君たちがやってくれると?」

「お任せください」


 俺は満面の笑みでファーブルに約束をした。細かい人員等の話は追々詰めていくことにして、この日はこれで礼を言って家に戻る。

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