第282話 炙り出し 2

 動きは思いの外早く出た。


 ファーブルに遺跡封印の話をした夕方、俺達は村の外を回ってきた仲間たちと食事をとっていた。この村でのタンパク源は主に海産物になる。ようやく落ち着くとすぐに漁師たちが海に出て漁を始める。


 名前は解らないが、俺は一夜干しで旨味がぎゅっと凝縮された魚を借家の外で焼いていた。感覚的にはBBQの様な感じだが、家の中で焼くと結構匂いが家中に充満するのだろう。どの家も軒先にこういった屋外の焼き場みたいなのが付いている。


 主食としては米類が無いが、トウモロコシの様な穀物を粉にしたパンがある。干物とパンと言う組み合わせには少し抵抗があったが、この村での食生活を考えれば贅沢なんて言えない。

 一応、船の中にはオレたちの馴染んだ食料はあったが、これは保存もきかせられるもので、帰りの船旅での重要な食料だ。島にいる間は島の食事をいただくことにしていた。



 

「おお、いい匂いしますねえ」


パチパチと燃える薪が弾ける音に、魚から垂れた脂がジュッ!と焼ける音が交じる。いい感じで仕上がっていく魚を見つめていると、ミドーが声をかけてきた。

 見回りから帰ってきて村の公衆浴場的なところでひとっ風呂浴びてきたようだ。モーザ、ミドー、ジンが、さっぱりした感じで村の人から借りた浴衣を来ている。こういう服も、過去の勇者が作った村なんだなあと感じさせられる。


 村では冷たい炭酸泉が出ているのだが、それを引いて、公衆浴場を作ってある。もともとはユタカが風呂好きでどうしてもと作ったらしいのだが、それを村人にも開放している形だ。浴槽は一つしかないので1日おきに女性の日と男性の日が分けられており、毎日入れるわけではないのがちょっと残念ではあるけど、日本人感覚で毎日お風呂というのはこの世界でも贅沢な話だ。


「あ、そうか今日は風呂に入れる日か。爺さん帰ってきたら一緒にいってくるかな」

「ゾディアックさん、もう帰ってくるんですか?」

「流石に一日中張り付いてられないからなあ。無理しない程度で監視してもらってる」

「え? そんなもんなんですか?」

「そうだよ? そんな神経使う仕事長くやってられないだろ?」


 うん。実際ポイントポイントでチェックしてもらってるくらいだ。爺さん年だしな。ただ、今日は俺との話の後にファーブルの所にモルニア商会のラケタが訪れたのをフルリエが確認したため、その後張り付いてもらっていた。



 ゾワッ


 ミドーと話していると突然ゾワゾワと体中の鳥肌が立つ。なんだ? 村の中からなんとも言えない嫌な気配が立ち上っていた。

 あっちは……モルニア商会の居る家か?


 慌てて立ち上がると、バタンと音とさせみつ子が家から出てくる。


「省吾君!」

「みっちゃんも感じた? なんだろう」

「分からない。でも凄い嫌な感じがするの」

「うん……爺さん大丈夫かな、ちょっと見てくる」

「私も行く!」


 俺とみつ子がモルニア商会の連中が居る家の方に向かおうとすると、ミドーやジンがどうした? と言った反応をする。感じないのか?


「モーザは何か感じないか?」

「む……あっちか?」

「お、感じるか?」

「……きっとお前ら程強くは感じてない。ただ少し、嫌な感じがする程度だ」

「そうか……とりあえず魚、焦げないように頼む。」


 現場にはゾディアックも居る。あまりノンビリと状況説明もしてられない。

 だがモルニア商会の方へ走ろうとした所で、突然嫌な感じが消えた。


「あれ? 消えたね?」

「うん。消えたね」

「でもとりあえず行ってみよう、爺さんが気になる」

「そだね」


 俺たちは他の村人を驚かせないように、小走りくらいのスピードで走っていく。少しづつ日も落ち始め、外には俺達と同じように焼き物をしている女性の姿がほとんどだが。

 間もなくモルニア商会のいる家に着くといった所で、突然隣に気配を感じる。


「おおお! って……爺さんか」

「ふむ、少しは反応出来たかのう?」

「勘弁してよ、少し気を張ってたからじゃないの?」

「ん。とりあえず宿にもどるか」


 ゾディアックもこんな道端で話せるようなことじゃないのだろう。少し硬めの表情で家に帰ることを提案してくる。俺としてもゾディアックが問題ないのならそれで十分だ。すぐにみつ子と3人で家に向かった。



 帰宅すると既に食事の準備が出来ていたので、食事を取りながらゾディアックから話を聞く。サクラ商事の面々には隠すつもりもない。むしろお互いに情報共有をしながら食事を摂る。


「で、あの気配。爺さんはなにか見たのか?」

「ううむ……あれは……おそらく……」

「おそらく?」

「ワシの記憶があっているなら。あれはギーガマウスじゃないかのう」

「なにそれ?」


 ギーガマウスは大陸の北に居ると言われている伝説の魔物らしい。伝説と言ってもドラゴンらと同じように実在の魔物で、龍脈から離れたかなりの奥地にいるためにほとんどひと目には付いたことが無いという。


「よく知ってたね、そんなレアな魔物」

「その存在はそれなりに有名じゃからの。マジッグバッグの素材に使えると聞く。レアと言いつつそれを求める冒険者もそれなりにおるからの」

「え? マジックバッグってアーティファクトじゃないんですか?」

「アーティファクトの物とは厳密には違うかもしれんがの。今の技術で再現できるものもあるということじゃ。次元鞄と同じような性質でより大きな物が作れるからということじゃが」

「なるほど……ん? で、その魔物が居たんだよね?」

「ああ、驚いたぞ。突然空間が切り裂かれてそのギーガマウスが顔を出したんじゃ」

「空間を? 召喚魔術?」

「いや、奴らが魔術を使ってる感じは無かったな。向こうから来たという感じだ」


 なんか、話を聞いているとわけが解らなくなる。なんでそんなレアな魔物が居るんだ? それもモルニア商会の連中の前に自ら現れた? それも商会の連中は来るのを分かっているようだったという。突然空間に切れ目が出来て顔を出したギーガマウスに手紙を渡したという。ギーガマウスはその手紙をパクリとくわえると、そのまま再び空間の裂け目に消えていったという。


 なるほど、嫌な感じは僅かな時間だった。それが原因なのは間違いないな。


 ……それにしても手紙か……。


「それをテイムしてるテイマーが居るということかな?」

「ギーガマウスをテイム出来るようなテイマーがこの世に存在するとは思えないんじゃよ。だが、モーザの様にドラゴンをテイムしてる者も居る。不可能ではないのかもしれんの」

「ううむ……まあ、モーザはテイムとはちょっと違うんだけどね」


 いずれにしても、おそらく遺跡の方に居る仲間に、俺達が向かっていくことを伝えたのだろうと予測はできる。間違いないだろう。


 まあ、いい。俺たちは行ってやっつけて帰ってくる。それをするだけだ。

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