第22話 ノイズの可能性
「お兄ちゃんごめんね」
「何言ってるんだ、若いのが大人に気を使うんじゃねえ。可愛いハヤトが強くなるのは大歓迎だぜ」
「うん、ありがとう」
ボスはポップするのに1~2時間はかかると言うので、この場で昼飯を済ませることにする。食事中に、ストーンゴーレムの地面叩きで空いた穴がウニウニと元に戻っていくのがちょっとキモい。なるほど……じゃないとボコボコにクレーターだらけになるもんな。
飯も済む頃、この後の指示をエリシアさんがし始めた。裕也は、え? って顔をしてる。
「お昼が済んだら、3層の始点まで一度戻りましょう。それからまたここまで来て、もう一度ゴーレムと戦って、今日は帰りましょうね」
「またハヤトと俺で戦う感じで良いですか?」
「はい、午前中と同じで行きます。ただ、ハヤトは魔法禁止です。ちょっと魔法に頼り過ぎな所がありますから、もっと体術できっちり捌きなさい」
「えー回復魔法も?」
「回復もバフも禁止です。もしどうしても必要な時は私達がします」
おおう。なんとなしにエリシアさんが教育ママゴン化してる……。
心なしか後ろで頷いている裕也が小さく見えるぜ。
制限があったものの、レベルアップのおかげかスキルのおかげか、予想以上に楽になってきた感じがする。ただ、バテても回復が来ないので非常にしんどい。何故スタミナ上昇が出現しないのか。
2回目のボス戦もなんとかこなし、村に戻る頃には日が沈みかかっていた。裕也が村長に3層の話をしに行くと言う。今回は俺も付いていくのをやめ、エリシアさんと共に雑貨屋に大量に溜まった魔石を売りに行った。
「んあ? 随分と集めたもんじゃな」
魔石は1つ30モルズくらいで売っているので卸値としては20モルズくらいになる。地球の感覚で電池みたいなものなんだろうな。ボスから落ちたのは少し大きい物だったがそれは使いたいと売りには出さなかった。もう何日かダンジョンに行くなら必要ならまた持ってくるというと、幾らでも持ってこいと言うことだった。
「お前さんの革鎧もだいぶ傷んだじゃないか、ちょっと見せてみろ」
取引が終わると俺の方に声をかけてきた。確かに俺の戦い方だと革鎧の痛み方も速いかもなあ……
「うむ、良い作りだな。ユーヤの仕事だろ? 直しておくから明日の朝に取りに来い」
「え? おばさんのお店の品物じゃないですよ? 良いんですか?」
「また魔石を持ってきてくれるんじゃろ? サービスじゃよ」
優しい目で俺を見つめる……いや寧ろ憐れむ目か。ちょっと心が痛い。
戦闘で同じ様に傷みが出てる次元鞄も置いてけと言われ、中身をエリシアさんのバッグに詰め直してそれもお願いして店を後にした。
宿に戻ると、裕也が戻ってきたら迎えに行くから一緒にお風呂に行こうとハヤトに言われる。やっぱダンジョン後に風呂の有る無しは大きい。まもなく帰ってきた裕也とハヤトの三人でいつものように入浴し、宿の食堂で夕食をすませた。
うん。そしてお待ちかねの探求の時間だ。
今日、ボス戦でストーンバレットにノイズを掛けたとき、やはり威力が少し弱まった気がするんだ。俺の予想なんだけど、光源の明るさや色を変えられるようにノイズもイメージで音に対するノイズだったり、魔法に対するノイズだったり、光に対するノイズだったりが出来るんだと思う。今回はストーンバレットにノイズをかけることで石弾を構成する魔法にノイズがかかり石弾の物性が落ちたんじゃないかと。
それともう一つ、ハヤトがやってたウィンドを体に纏わせる使い方。あれをノイズで出来れば相手からのデバフとかも減衰させることが出来るんじゃないか? と
今日の課題はそれだ。ふふふ
体の周りを包み込むようなイメージで発動してみる……まあ、良くわからん。
更に光源を発生させて、遠くからだんだんと体に近寄らせてみる。駄目か?と思ったが1m程のところまで寄せた時に光がチカチカと揺らぎだした。
おおおお。行ける行ける。天才かも俺。
次はこれの範囲を大きくしたいな。
一度ノイズを切り。今度は出来るだけ魔力を込め、大きくするイメージで発動してみる。そして同じ様に光源を動かしてみる、うん、2m強ってところか。練習すればもっと広くなるのかね。
よしよし。ではこのまま歩いてみる。ちゃんと俺に付いてくるかな?
部屋の端に向かって歩いてみると、壁にかかっていた光の魔道具がチカチカと点滅しだした。
お? 魔法じゃなく魔道具にも効くのか。考えてみれば魔法の回路だからあたりまえか。
うん。これ良さそう。
……やべ、思いついちゃった。
これはとても効果的なシュチュエーションを提供してくれますよ。
どんどん妄想が膨らんでいく。
ーーーー省吾の妄想ーーーーーーーー
夜の街の建物の陰で。
「ハァ、ハァ……逃げ切れたか?」
「ハァ、ハァ、流石にここまでは追ってこれないだろ」
「くそう、何だあいつは」
「解らねえ、だがもうこの街には居られないぞ、くそう」
その時、男の手に持っていたライトの魔道具が点滅し、やがて消える。
(※ここがノイズ)
「お、おい、何やってるっ! 真っ暗じゃねえか、ライトをつけろ」
「駄目だ、点かねえよ……」
「昨日魔石変えたばかりじゃねえか、くそう。壊れたか」
ひゅ~~う
「ひとつ。人に迷惑掛けまくり」
「だっ誰だ!」
「ふたつ。不届き千万、村八分」
「ひっ、やつだ。」
「みっつ。醜いてめえらを、退治するぜと省吾見参!」
ザシュッ!「ぐわあ」
ズシュッ!「ひぃいい」
「たっ助けてくれ!」
「お前らが今までそう願う一般人を一度でも助けたことがあるのか?」
「ぐっ。このやろ~」
ザシュッ。ズシュッ。ズバーッ
「……またつまらぬものを斬った」
ーーーーーーーーーーーー妄想終ーーー
おおおおおお! やばくね? 俺カッコよくね???
でも……登場のセリフがイマイチか。ちょっときちんと考えておかないとな。
でも良いんじゃないっすか? 良いんじゃないっすか?
俺の行く道はアサシン系チートかもしれないな。
そうして、探求? の夜が更けていく。
ハヤトのドアを叩く音で目を覚ます。
昨日は遅くまで妄想……いや、探求に浸りすぎた。言いたくてたまらないが、もう少し形になるまでは裕也には内緒にしよう。ふふり。
流石に今日はハヤトの同行は許されなかった。
のど飴の在庫が少なくなってくる。
ダンジョンに行く前に昨日預けた革鎧と次元鞄を受け取りに雑貨屋に行く。
「うぉお、おばちゃん、これ凄いじゃないですか」
「鎧の上から鞄をたすき掛けするんじゃろ? そのままじゃすぐ駄目になるからな。」
次元鞄の傷んだ革ベルトが少し太めのガッシリしたのに取り替えられていた。しかも鞄部分に、ランドセルの蓋の様な感じでプロテクターまで付いている。簡単に外せるようにアタッチメントまで付いていて邪魔にもならない。綺麗に修復された革鎧の方にも次元鞄のベルトのラインに沿ってプロテクターの様な物が装着されていて安心感は抜群。見た目もカッコいい。
見ていた裕也が顔色を変える。
「いやいや、流石にこれはサービスじゃ不味いだろ、これワイバーンの皮じゃねえのか?」
「ワイバーン??? まじで???」
「何言っとるんじゃ、そこら辺に落ちてた切れ端使っただけじゃ」
おばさんはやはり頑なに受け取ろうとしない。
「おばさん本当に大丈夫なの?」
「子供が大人に気を使うことなんてないさ。その代わりちゃんと強くなるんだぞ」
「はい……ありがとうございます」
なんか何処かで聞いたようなセリフに何も言えなくなる。
それでも金を払おうとする裕也に、眠いからもう帰りやがれとばかりに追い出す。
うん、これは何かお礼を考えないと……。
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