第23話 ダンジョン最終日
ダンジョンへの道すがら、裕也に聞いてみる。
「ワイバーンの革ってやっぱ強いのか?」
「そりゃあ、市販で流れる革素材じゃ最高クラスだと思うな。強度も強いし鎧に使えば魔法耐性も有る。お前の革鎧もワイバーンだぞ」
「げ、マジか……あれだけ殴られても意外と行けてるもんな。だから合わせて使ってくれたのか」
「こんな田舎の雑貨屋に良くもそんな素材があったと思うけどな。なんかお礼考えないと」
「お礼って言っても俺の持ち物じゃなあ……」
そう。日本人は律儀なのである。
「3層が出来てたんだって?」
ダンジョン守の爺さんがのんびりした口調で聞いてきた。
「ああ、ドロップが対して変わるわけでもないから急に人が増えたりすることは無いとおもけどな」
「そうかそうか、それなら良いんじゃ、寝る時間が削られても困るからなあ」
思わず「夜寝ろよ!」と突っ込みそうになるがぐっと堪える。
取り敢えず一通りのダンジョンは回ったので、今日は3層のボスまで行って時間が有れば3層ウロウロしながら昨日のようにもう一度ボストライをすることになった。あのボスの構成がまだ俺では一人じゃ無理というと、様子見ながら取り巻きは裕也が始末してくれると言うが……あの裕也だ。「様子を見ながら」が超怪しい。
予定では今日入れて後3日だ。鋼の剣に持ち替えての戦闘まで行けるかわからないが、1日1レベルは上げていこうと裕也が張り切ってる。俺としては、ロックリザードを見かけたら全部ノイズを掛けていこうというのが目標。昨日少しやってみてロックリザードは若干嫌がる気配を見せたからだ。ノイズのレベルも上げられるなら上げたいところだ。
始めは、ロックリザードにノイズを掛ける必要ないだろう? と言っていた裕也もそのうち何かを感じたのか何も言わなくなった。
この日は、まだまだボス戦を1人で戦うには至らなかったが、何とかレベルを上げることは出来た。
例によって戦闘中のレベルアップ酔いで危機感満載だったが……ただ、やはり<直感>を得たのが大きい気がする。危険の察知とか攻めどころとかのタイミングがいい感じになってきている。剣にこめる魔力の量も足りていないときはなんとなくマズイ感じがして解るんだ。
次の日は、1回目のボス戦で裕也がロックドールを2匹間引いて1匹残す。これも何とかこなすと、2戦目では間引く数を1匹だけにしてみた。1匹増えるだけで厳しさが相当増す。ハヤトと2人での戦闘が格段に楽になったことを考えると、敵にとっても同じ感じなんだろう。それでも2戦目のボスを倒した段階でレベルも上がり14に成った。まあ及第点ではないだろうか。
裕也は当初一週間このダンジョンに篭りっぱなしで、レベル20を目指そうとしてたらしいが……やつの鬼畜さが末恐ろしい。
最終日前夜。1人探求会を開く。
どう考えても、このままボス戦を1人でこなすには厳しいものがある。裕也レベルだったら、何も考えずにただスパスパと斬ってお終いのイメージなのだが、実情は遠い。時間をかけてレベルを上げ、スキルを得るしか無いんだろう……
やはり、俺の必殺ノイズか……
今まで考えていたのは、出来上がった魔法にノイズをかけることで魔法の威力の減少を狙っていたのだが、構成中の魔法にノイズで邪魔をする事で発生を失敗させることは出来ないだろうか……
多分これが上手くいくなら、攻撃が魔法一辺倒のロックドールは無力化できる。
問題は、この世界の魔法がすべて「無詠唱」という事だ。貯めが無いわけじゃないが、詠唱中断のようなタイミングが取れるかが問題。
タイミングは手をこちらに向ける動作と……後は<直感>まかせ。
……裕也に俺のノイズの可能性がばれてしまうが、後1日しかない。やってみるか。
最終日のダンジョン。やってやるぜ。
今日は、ロックリザードへのノイズは使わない。魔力を温存しておく。裕也も気が付いているようだが特に触れては来なかった。勝負は3層から……
こういう時に限って3層に行ってからロックドールが出てきたのが3PT目になってからだった。魔物に向かって走っていくと気が付いたロックドールがこちらに手を向けてくる。
今だ。
<ノイズ>
……お。バレットが飛んでこない。成功だ!
「おお?」
裕也がアホっぽいリアクションをしてる。くっくっくっ。
そのままストーンドールを処理していると再び手をこちらに向ける。
くっそ、戦闘中だとノイズのタイミングが取りにくい。ミス。しかしミスは想定済み。避けながら、魔法を込める。フンッ
ストーンバレットの射線を潰しながらストーンドールを処理し、ロックドールだけになればノイズの成功率は上る。予想以上にやりやすくなる。
「……まさかノイズか?」
「ふふ、良くわかりましたね。裕也君」
ここ一番のドヤ顔で言いのける。
「そうか、音だけじゃなく不要な情報がノイズか……しかしよく気が付いたな」
「ぐ……流石は転生者と言うべきだな。いきなりネタばれしおってからに……宿の部屋で魔法を試してるときな、ノイズの練習が出来ないもんだから、なんとなく浮かべていた<光源>に使ってみたんだよ。そしたら不安定に点滅しだしてね、もしかして? と。」
「これはすごい発見だぞ、世界のノイズの扱いが一転する」
お、おいおいおっさん、なんてことを。
「ダメダメ、駄目っスよ。マジシャンは自分のネタを安売りしないんですわ」
「まあ、そうだな。そこら辺は好きにしろ。しかし、解らんもんだな」
ボスへの道すがら、ひたすらノイズを磨き続ける。
結果として思ったのは戦闘中は必死にロックドールをチラ見してタイミングを取ろうとするより、<直感>を信じて感じたままにノイズを使うのが良さそうだということに至る。目の前の敵の対処も早くなるし、意外と<直感>に従ったタイミングは高確率でストーンバレットをキャンセル出来るのだ。
そしてようやく一人でのボス戦トライに臨む。始める前に裕也にMPをチェックしてもらい、途中魔力切れ等が起こらないようにMP管理もお願いする。<魔力視>と<解析>の組み合わせで魔力の残量も分かるらしい。ノイズ自体のMP消費は少ないようだが、MP管理をちゃんとして戦ったことが無いので不安もあるのが正直なところ。
予定としては、ロックドールの固定砲台を抑えながら、ストーンゴーレムに集中出来そうならストーンゴーレムから倒したい。ただ、何度かボス戦をこなしてみて解ったのだが、このストーンゴーレムが結構性格にばらつきがあるんだ。グイグイ来るやつも居れば、慎重にロックドールとの連携をしてくるやつも居る。今回は……。
「んじゃ、行って来る。」
広間に入り魔物の方に向かって軽い駆け足で向かっていく。ロックドール達がこちらに手を向けてくる。パターンで行けば2体が先に撃って、避ける所にもう1体があわせてくるはず。
<ノイズ><ノイズ>
2体の魔法をキャンセルするとすぐさまもう1体が発動してくる。キャンセル。成功。
どうやらこのストーンゴーレムは慎重派のようだ。出てこない。再び撃とうとする2体の魔法をキャンセルしながらギアチェンジ。一気に足を速め一番近い1体に向かう。もう1体もすぐに撃ってきたが、そのストーンバレットはそのまま撃たせながら斬撃に集中。避けると同時に一閃。まずは1体。
そこでストーンゴーレムが動き出す。ロックドール2体のシチュエーションなら昨日攻略済み。しかもノイズ無しで……ヤバイ。思い出すだけで吐きそうになる……しかし今日は地面叩きまで引っ張るつもりは無い。ボス戦初日から2つもレベルは上げてる。
向かってくるストーンゴーレムに対し、少し下がりながら迎える。固定砲台との距離はあればあるほど楽になる。
<直感>に従い再び魔法をキャンセル。ストーンゴーレムの拳は魔力を込めたパンチのようなので今の俺には拳ごと斬るのは無理。剣は合わせず避けながら懐に入り込み両腕を落としていく。手が再生する前に額の魔石を砕く。完璧。自分の才能に惚れちまう。後はロックドールを処理して終了。
「ふう。最終日でようやくなんとかなったな」
「ノイズ1つでここまで変わるのか、見違えたな」
「お、裕也が珍しく褒めてくれましたね」
裕也もそれなりに満足したような表情だ。
「ああ、新しいスキル出てたから、それ使えばいけると思ってたが。それすら使わず倒しちまったからな。上出来すぎるだろ」
「ん……なに??? 黙ってたん???」
「いや、ちょっと言いにくくてな」
「言いにくいやつ奴なの???」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます