第34話 ラット駆除
新たな依頼としてやってきたのは、城を中心に見て南西の位置にある少し古めな住宅街で、その中の1軒の家だった。隣の家は取り壊しの工事が進んでいる。家の取り壊しでネズミが引っ越してきたのだろうか。
ドアにノッカーっぽいのがあるので、それをコツンコツンと打ってみる。するとすぐに奥の方で人が動く気配があり、まもなく家の人が出てきた。出てきたのは30半ばくらいの品のある綺麗な女性だった。ギルドより派遣されてきた事を告げると、嬉しそうに家に招き入れてくれた。
「今依頼が混み合っていて、少し時間がかかるかもと言われてましたが、思ったより早く来て頂けてよかったですわ」
案内されたのは、一階のリビングだった。ネズミが居るのは天井だろうと、上を見上げると天井の隅のほうが確かに少し湿ってる感じがある。同じ場所で糞尿を垂れ流しているんだろうな。昼間は殆ど音がすることはないらしいのだが、夜になるとゴソゴソと動き回る音がするらしい。たしかに何となく気配があるように感じる。どうやらここに棲んでいるようだ。
「主人が大の動物嫌いでして。潔癖症なんです。人に聞いたらラットを狩るペットも居るからどうだと言われたのですが、その動物も嫌がり、それで冒険者ギルドにお願いしたんです」
「なるほど。隣の家はしばらく空き家だったんですかね? 取り壊しで引っ越してきたのかもしれませんね」
「言われてみればそうですね、隣の工事が始まった頃からラットが出てきたように思います」
1階の屋根裏に上がれる場所を聞くと、一部分天井が外れる場所があると言われる。奥様が脚立のようなものを持ってきてくれたのでそれで天井のパネルを外してみてみる。
……やばいな。ホコリだらけになりそう。
もし、いらない袋みたいなのがあったらと言うと芋が入っていたというズタ袋のような物を持ってきてくれた。袋を探しに行っている間に鎧などを脱ぎ汚れても良いようにする。帽子も一応脱いでタオルを頭に巻く。黒髪を見て一瞬驚いた感じはあったが特に何も言われなかった。段々俺のほうが意識するようになってきてしまってるかもしれないな。
天井裏に潜り込むと<光源>を出す。そのままラットが棲んでいると思われる場所に向かって這っていく。すると奥の方にこちらに気がついて警戒しているのか、ラットの目が<光源>に反射して見えてきた。このくらい小さな動物ならなんとかなるかもしれない。
ラットに向かって最大限の魔力を込めて<ノイズ>をかける。するとキキッと言う鳴き声とともに気絶した。おお、いけたなあ。
一度戻り、奥様に外を掃くような箒などあったらと借りて再び屋根裏に戻る。気絶していたラットと共に糞を箒で集めてズタ袋に入れていく。綺麗にしたら口を縛り完了だ。体が埃で汚れまくっているので、天井のパネルをはめるとそそくさと家の外に出て体についたホコリを払う。
奥様は「まあ、もう終わったのですか?」と驚いていたので、そっと袋の中のネズミ見せると嬉しそうにありがとうと言ってくる。そのまま外で依頼完了のサインを貰った。
……ううむ、このラットどうすれば良いんだ?
取り敢えず、そのまま持ったままギルドに帰り完了報告をする。
「ご苦労さまでした。報酬900モルズのうち、手数料4割引いて540モルズになります、そこから税金を引かさせていただきまして、486モルズですね、どうぞ」
うわ。半分近くまで減りやがった。税金は想定外だが、しょうがない。だが厳しいな。でも午後のこの時間で7000円強と考えればまだ良いのか。とっととEに上がらないと何も出来ねえ。
ちなみにロックドールとかの魔石が余ってたのでこういうのは買取できるかと聞くとストーンドールやロックリザードのサイズだと10モルズ、ロックドールだと13モルズで引き取ると言われる。ウーノ村の雑貨屋の買取値段とだいぶ違うので取り敢えずまたにするか。
捕獲したラットをどうすればいいか聞くと、ラットの買取はしてないので自分で処理しろと言われる。何処で処理すればいいか聞いても、ちょっとこちらでは。とお役所営業。こっそりギルドの中で放そうかと思ってしまう。
「おいおい、なんか臭えな。おめえの匂いじゃねえのか?」
突然声をかけられ、見ると朝にスパズをバカにしてきたスキンヘッドだった。まあズタ袋には糞も入ってるし臭いのは否定できないので、黙ってギルドから出ていった。
「ちっ。スパズの癖に無視しやがって……」
そんな声も聞こえるが、大人の俺はスルーしてそのまま立ち去る。
いや、ぶん殴りてえけどな。
いろいろ考えたが、取り敢えず城壁の外まで行くと、ちょっと先に林のように木が茂っている所があった。そこでラットを放して、近くを流れる小川でズタ袋を洗う。こんなのでも何かの役に立ちそうだと思ったので、良く洗っておく。
今日はこんな所か、ラットの駆除を出来たのはラッキーだったな。もうホテルに戻って風呂に入るしかねえ。
そうしてホテルに帰ってきた俺は、風呂に入って気分もスッキリし、部屋のベッドでうだうだする。しばらく満喫してるとハヤトがやってきた。俺が部屋に戻ってるのを見ると嬉しそうに夕食に行こうと誘われた。
「冒険者は登録できたのか?」
「ああ、なんか思ってたのと違ったけどな」
「ん? どうした?」
「GとFランクは、ほぼ街の下働きだよ。今日はホテルの窓拭きと、ラット駆除。窓拭きの方はまだ終わってないからまたあした行くんだ」
なんか、裕也や心配そうに色々聞いてくるが、あまり心配させるのもアレなんで今日やった仕事の話とかする。
「そういえばさ、この世界に針金って売ってるか?」
「針金は無いなあ。トライしたことはあるけど俺みたいな手作りだと気軽な物ではなくなっちまうしな」
「そうか、窓拭きがさロープとか滑車の購入資金で利益少ねえから、ちょっと鳥避けを売り込もうと思ったんだけど」
「ああ、確かに鳥避けでワイヤー張るのあったかもなあ、この世界でやるとしたら革を縫うのに使う太目の糸とかか?まあ、日に当たって劣化していくかもしれないけどな」
裕也の方は公爵に正式に依頼を受けたらしい。正式にと言ってもまだ国王は生きているので崩御したら正式な依頼が来る段取りらしいが。明日は午後から仕事というと午前中に糸の仕入れとか付き合ってくれるという。まだ町の店とか解らないから甘えることにした。
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