第35話 鳥よけ
鐘の音が聞こえる。冒険者生活の2日目か。
なんとなく、Gランクの間は鎧なんて付けなくて良い気がしてきた。この世界で購入した服と、日本で買ったベストを身につける。さて、そろそろハヤトが来るかな。
4人でホテルのレストランで朝食をとると、午前中は買い物だ。まずは昨日話していた糸を買いに出かける。こういう雑貨は基本的にメイン通りから西側にあることが多いらしい。西側には職人が集まる区画もあり、その近くに革などの材料を取り扱う店があった。
「糸って言っても色々あるんだなあ」
「まあな、レアな魔物から取れる糸は強いがやはり高い、用途用途で職人は選ぶんだ」
ほうほう、まあ、あまり高価なのは無しだな。裕也達は革素材を調達したいからと違う売り場の方を見ている、糸も革ほど種類はないが結構色々太さとか素材で違いがあるようで悩む。見ていると店員が話しかけてきた。
「どんな糸をおさがしですか?」
革の縫製に使うわけじゃないんだけどと前置きをして、屋外で糸を張りたいから強めで日光にも劣化しにくいものが良いというと、凧糸のような糸をタールのような物で漬け込んだような糸を出してきた。
「これは如何ですか? 糸は特に特別な素材ではないのですが、天陽樹の樹液に漬け込んでありまして、若干ゴワゴワはしますが、陽の光での劣化も少ないと思います」
おお、良さそうじゃないか、値段もそこまで高くないし。2本分張れる長さを頼む。店員が長さを測りだしたので、裕也達のところに行ってみた。
裕也達は店の奥のカウンターで店主と話をしていた。
「リンドブルムを倒した? それは凄いな。でもそんな革回ってくるのか?」
「ギルドの方でもなんとか手に入らないか動いているようですが、帝国の方で国外に出さないよう働きかけてるみたいで、ちょっと厳しいかもしれません」
「そうだろうな、しかし剣聖と言われるだけはある。だがもし入りそうな話があったら教えてほしい」
「了解しております」
なんだか景気の良い話をしてるな。剣聖か……仮想ライバルだな。
「だいぶ在庫の材料を使ってしまってね、ヒュドラがあるといいが、ワイバーンくらいか?」
「ヒュドラも最近討伐の話しは聞きませんね。ワイバーンも最近は狩れる冒険者が少なくなって値段も高騰しておりますが。そちらなら用意できます」
「それでかまわない。またレア素材が入ったら教えてくれ」
「かしこまりました。しかしワイバーンも十分レア素材ですよ。最近討伐の話しを聞かないので次の入荷も未定となっております」
「解ってる。しかしまあ、こいつがそのうちバンバン狩って来てくれるさ」
そう言うと俺の背中をドンッと叩く。
おいおい、ハードル上げるの辞めてくれない?
そこへ糸をまとめて包装した店員がやってきた。裕也が会計は一緒でいいと言うのだが流石に商いに使うもんだからな。別途払い店を出た。
まだ昼までに時間があるので、近くの雑貨屋等を覗く。こういう雑貨屋でも魔石は売れるのかな?と裕也に聞くと、一応ルール上は街ではギルドを通す形だと言われた。
「冒険者ギルドで聞いたんだがだいぶ買取が安くてな。やっぱギルド通すと中間マージン発生するんだな」
「まあ、もしかしたら商業ギルドの方ならもう少し値段まともかもしれんから行ってみるか?」
「お、良いね。裕也は商業ギルドも入っているのか?」
「鍛冶師ギルドに入っていると商業ギルドとの取引の権利もある程度付いてくるんだ。作った剣を売らないと駄目だろ?」
「なるほどなあ」
商業ギルドはメイン通りから東側に一本入った通りにあった。まあ商人ってのは裕福で貴族とかとも繋がりありそうだからな、東側なのは納得だ。通りはちょっとお高そうなブティックなども並んでいて、歩いている人々も何となく上品な感じがする。
「もしよろしければ、ショーゴ様、ビジター会員に登録しませんか?」
商業ギルドの受付で聞くとそんな事を言われる。通常冒険者は冒険者ギルドでの買取になるのだが、冒険者に登録していない様ないわゆる狩人の様な人達のためにビジター会員なるものが用意されているらしい。それを勧められる。もちろん裕也のコネてんこ盛りでだ。
魔石も素材も流通経路は、冒険者ギルド→商業ギルド→商店 と言う流れになるため少しだけ高く売れるらしい。ビジター会員は登録も無料とのことですぐに飛びつく、魔石も2個程残してあとは全て売り払った。3000モルズ近くなったのでウマウマだ。
商業ギルドを出る頃にはだいぶ良い時間帯になっていたので食事をして、俺は窓拭きに行くことにする。
「でもさ、時間なんて教会の鐘で朝昼晩の1日3回くらいか?それしか解らないけど、大体で動いていいのか? 日本人的になんかモヤモヤするぞ?」
「それな。俺も初めは戸惑ったけど、結構適当でいいと思う」
「時計とかって無いわけ?」
「簡単な時間が解る魔道具はあるけど、スローライフを楽しめばいいんじゃね?」
「スローライフねえ」
連れて行かれた店は、昨日の昼に食べた店とは違うラーメン屋だった。いや、ジロー屋か。紛らわしい。ボアの骨を煮込んだスープとかでだいぶラーメンっぽい。例によってドンブリに具がモリモリに盛ってあって、男気に溢れる。裕也は「ジロー」と言う名前が受けると思ってたのかニヤニヤしてたが、もう知ってると言うと少し寂しそうだった。
夕食また一緒に食べようと約束をして、裕也たちとは別れてホテルに向かう。
受付で昨日の続きをやりに来たと言うと支配人が出てきてよろしくおねがいしますと挨拶された。
昨日と同じ段取りで、屋上に上りロープを張る。下に垂らして3階におりる。窓から覗いてみるが……おおお。やはり怖い。ロープを手繰り寄せて……でも行けそうだ。一応仕事だからな。丁寧に濡れ拭きしてから、乾拭きして……グッドだぜ。
それにしてもこの窓のガラス。この微妙に波打ってる感じが昭和レトロを感じさせて良いよな。
さて、問題の4階だ。1つ階を上げるだけで相当恐怖感が跳ね上がる、でも命知らずの冒険者たる俺は……頑張る。外に出て下を見下ろすと……やばいな、見ないほうがいい。下で手をふる子供がやけに小さく見えるぜ……ん? ……ハヤトかよっ! 恥ずかしいったらありゃしないね。まったく。
窓拭きが終わり、屋上でロープを外すと1階まで降りてキリッっとした顔で支配人を呼んでもらう。依頼完了のサインをしてもらい、ここからが勝負。
「でも支配人。これって鳩がいれば直ぐに汚れ付いちゃいそうですね」
「そうなんですよ、ほんと困った話でギルドでも初めは鳩の駆除を依頼しようとしたのですが、それは難しいだろうと言う事を言われて」
「ああ、まあ奴らは駆除をしても違うのがまた来ますもんね」
「そうなんですよね、なんかいいアイデアないですか?」
よし、ここだ。
「ん~実はあると言えばあるんですが……いや、やっぱ……なんでも無いです。」
「え? 出来るんですか?」
「いや……しかし……それをしてしまうとギルドの依頼を1つ減らしてしまうことになって怒られちゃいそうで……」
「そこをなんとかお願いできないですかね?」
「うーん、いやどうしてもと言われれば、内緒にしてもらえるなら……でもお高いですよ?」
「お金は払いますよ。おいくら支払えば」
「そうですね……窓拭きの仕事もさせて頂きましたし、2000程いただければ」
「に、2000モルズですか? ……うーん」
「ですよね、大丈夫です。また窓拭きの依頼ありましたら来ますので。安心してください」
「い、いや、お願いします。2000モルズ支払います。」
よし。よし。よし。
支配人から直接お金を貰うと、再び屋上にあがる。ちょっと疑っているのか興味あるだけなのか解らないが、支配人も屋上に上がってきた。
正面側の両側の石柱を今朝買った紐で2本つなぐ。屋根につける鳥よけのワイヤーを貼る要領だ。見られてるのもあるので、ちょっとおまじないっぽい雰囲気をだそうと、御幣風に切った紙を石柱部分に挟み込む。お、何となくそれっぽい。満足した俺は、2礼して柏手をパンパンとうつと「かしこみかしこみ申します~モニョモニョ」とそれっぽくおまじないをして振り向く。
あっけにとられている支配人が、これで終わりですか? と聞いてくるのでこれで大丈夫でしょう。一週間後くらいに一度様子見に伺いますのでよろしくおねがいします。と満面の笑顔で答える。
その足でギルドまで行き、依頼の完了報告をした。例の青髪の美人さんの列が空いていたのでお願いしたのだが、言葉は丁寧だがあまり笑顔を見せない対応で終始した。さみしいなあ。
始まらねえなあ……何が?
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