第36話 この世界の1年、季節、時間
今日もあすなろ亭で食事をしている。明日には家に戻る裕也家とは最後の夜ということもあり、それにかこつけて裕也は酒を飲みまくっている。
「そういえばさ、この星は月が無いのか?」
今更だが、なんとなく月を見ていない。すると裕也がちょっとヤベッって顔をする。
「あ」
「なんだ、あ。って」
「いや、当たり前にこっちに20年も暮していたもんだから季節とかの話忘れてたなと」
「ん? 地球と違うのか?」
「そうだな、まず月がねえだろ?」
「やっぱないのか」
「月は地球に巨大隕石が衝突して飛び散ったかけらが集まって出来たもんだ。それは知ってるか?」
「そのくらいは知ってるわ、それで地軸が傾いて……いないのか?」
「そういうこと、でも四季はあるんだ」
「んんん? 神様のイタズラ?」
これはあくまでも裕也の推測なのだが。地球と違ってこの星の太陽の周りを回る公転軌道は、楕円形じゃないのかという話だ。つまり、公転軌道が太陽の重力に引かれ太陽に近づき、段々と加速することで遠心力が増し再び太陽から離れていくような軌道を通っていると。実際年間通して太陽の通るラインは殆ど変わらず、太陽の大きさが変わると言う。夏は大きく冬は小さく成っていく。
「なるほど、それ解りやすいな」
「だろ? 確か太陽系でも円軌道じゃない惑星があった気がしてな。俺はそう結論付けた」
「でもさ、それは教会的にNGな話だったりしないか?」
「おう、絶対言えねえな。つーか言うなよ。冬は火の精霊が寝るとかそんな話になってるからな」
「で、1年は何日くらいなの?」
「ひと月が28日、で13ヶ月ある。だから364日だ。太陽が一番大きくなる日が正月で、今は2月の16日だっけ?」
「いや俺に聞かれてもな。一週間は7日?」
「それは一緒。ただ、日曜日が休みとかそういう概念は無い、あれはキリスト教の安息日から来ているんだろ? 宗教が違うからな。労働基準法も無いし、休みの曜日は基本的に無い」
ただ、一年のずれは少しづつ出るらしく、地球の閏年のように、7年に一度正月の前の日に『龍の日』というのが1日足されるという。そして一週間は、死と再生の女神モイラ。人間の神ヘルメス エルフの神フレイ ドワーフの神イストス、獣人の神オグマ、大地の女神レア 海の神セイの7柱の神の名前が当てられている。全然覚えられそうに無い。曜日を覚える歌でも無いだろうか。
蛇足だが、裕也はドワーフの神であるイストスの祝福を持っていて、そのドワーフの神が鍛冶の神でもあるらしい。
「そうだ、最後の餞別って訳でもないんだがな、今日売ってるのを見つけたんだ、これなんだか解るか?」
そういって渡されたのは銅で出来たドラ焼きの様な形をした意味不明な物体だった。
「魔道具かなにかか? 全然わからん」
「時計みたいなものなんだ」
「みたいなって、時計ではないのか?」
「日が昇ると、出てきた太陽の魔力を感知して教えてくれる、あと日が沈むと太陽の魔力が消えるからそれも設定すれば通知してくれる、それだけのシンプルなものだけどな。正確な時間は教会の鐘に頼らざるを得ないけれど、目覚まし的な魔道具といえばこのくらいなんだ」
「いや、これはありがたいぞ。ギルドの依頼見てると農家とかは日の出頃よりって書いてるのもあるからな。それだと鐘は完全にタイミング逃してるしな」
ハヤトが僕も買ってもらったんだよと嬉しそうに見せてくる。そんな高価過ぎるものでもないのかな? ありがたく貰って鞄にそっとしまう。
次の日、朝食を一緒に取ると、裕也一家は帰路についた。残り数個だったのど飴はすべてハヤトにあげた。後悔はしていない。都市の門まで見送ってからギルドに行き、依頼を受けに行く。朝方はやはり人は多めである。
今日は革鎧を身に着けていない。街の雑用にそんなもんは必要ないからだ。帽子は最後まで悩んだが黒髪に劣等感を持ってる表れのような気がしてこれも被らず行こうと決めた。裕也が堂々としているのでその方向で行こうという気持ちもある。だが、ギルドに入ると多少の視線は感じる。じきに慣れるだろう。
低ランクの掲示板の前にはハヤトより少し大きいくらいか、3人の子供が相談しながら一生懸命依頼を見ていた。こんな子供が居るんだと不思議に思い挨拶しながら近づいてみた。
「ん? 兄ちゃん初めて見るな。登録したてか?」
「ああ、一昨日に登録したんだ、まだ良くわからないこと多いから色々教えてくれ」
「まじか? あの保証金払ったのか? 実は結構良いところの出だったりするのか?」
「良い所の出では無いけどな、当面の生活費として貯めてた分は全部消えたな」
子供たちはスラムに住む子供のようだった、低ランクの仕事は雑用が多いため15歳になるまではランクを上げることが出来ないがGランクの仕事だけと言う条件で12歳から登録はさせてもらえると言うことだった。ただ、去年からは保証金が払えずに冒険者登録が出来る子供が居なくなってしまってる為、スラムの子供たちも困っているようだ。
なるほどなあと思いながら見ていると不思議な依頼を見つける。『魔石磨き』だ。子供たちに聞くと商業ギルドの依頼らしく、買い取った魔石は魔物から抜き取ってそのままの物が多いから血や肉がこびりついているのだと。それを商品にするために綺麗にする仕事らしい。
「前にこれやったときにさ、少しだけチョロマカシたら俺ら出入り禁止になっちゃってな」
「俺らって、やったのリンクだけだろ? そのせいで俺たちも巻き添え食らったんだからな」
「ははは、そうだっけ?」
うん、こういう奴ら好き。スラムの子は逞しくなくちゃやってけないんだろうしな。
「おう、スパズのガキってお前か、まあスラムのガキどもと宜しくやるのが似合いだな」
突然横で依頼を見ていた男が声をかけてきた。なんかケバい女性の冒険者の肩に手を回しながら嫌らしく笑ってる。
はい。カチーンって来ますわな。
「あ? 誰だおまえ?」
「おいおい、スパズってのは目上の人間に対する礼儀も知らないのか? 俺はC――」
「いや、名乗らなくていいわ。初対面の人間にそんな対応しか出来ないバカは相手にしたくない」
「なんだとてめえ、ふざけてるのか?」
「もう良いよ喋らなくて」
「……良いぜ、殺してやるよ」
男が俺に掴みかかろうとする所に、人影が間に入る。クロアだった。
「おっと、ギルド内での揉め事は厳禁だぜ」
「ちっ、クロアか。テメエも最近調子に乗ってるんじゃねえか?」
「まあまあ、そう言うな。またペナルティーで低ランククエストの処理させられるぜ? 止めてやったんだよ俺は」
男は気分が悪いぜと捨て台詞のような物を言いながらギルドから出ていった。
遠巻きに見ていた他の冒険者達もあっけにとられてこちらを見ている。
「ショーゴも、結構気が強いなあ」
「ん? 気弱で冒険者なんてやってられないだろ?」
「ははは。間違いないな。でも気をつけろよ、バカが多いから」
「ああ、そうするよ」
そう言うとクロアは去っていった。すると興奮したようにリンクが話しかけてくる。
「すげえな兄ちゃん、まさか狂犬に噛み付くとはなあ」
「……ん? ……狂犬???」
「さっきの感じの悪い冒険者だよ。俺らもしょっちゅう馬鹿にされてムカついてたんだけど。流石に狂犬はまずいだろ?」
「いや……まずいって……なにが?」
「そんじゃ、俺たちも依頼受けてくるわ、夜道に気をつけなよ」
……え? 夜道?
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