第37話 魔石磨き
リンクたちが去った後しばらく悩んでみたものの、そのうち悩んでもしょうがないと結論付け、再び依頼を探し始める。あまり美味しそうな依頼は無かったが、魔石磨きの紙には「昼飯支給」と書いてあるのに気が付き、とりあえずやってみようと剥がして受付にむかった。
今日も受付の列は差が激しい。列の少ない以前並んだ事のある男の職員の所に並び順番を待つ。程なくして順番が来たので依頼書を差し出した。
「魔石磨きですね、それでは完了したらここにサインを貰ってきてください」
「はいよ、ありがとう」
そういって立ち去ろうとしたとき。ちくりと一言言われる。
「あまり揉め事を起こさないで下さいね」
うーん、やっぱおかしいよな。
「俺が揉め事起こしてるわけじゃないですよね?」
「そうかもしれませんが、上のランクの人に喧嘩を売るような発言は控えて頂かないと」
「いや、それ違いますよね? 弱いものいじめをしようとする冒険者を管理するのがギルドの役目じゃないんですか?」
「しかし、冒険者の自由を保障するのもギルドの役目ですので」
「でも喧嘩は駄目なんですよね?」
「そうですね、少なくともこのギルド内では許されてません」
やべえ、俺止まらないかも。
「じゃあ、喧嘩の火種を作ったあのバカを放置したギルドが責任を負って俺に謝罪するのが筋ってもんじゃないんですか?」
「し、しかしギルド内でのランクは貴方の方が下なので」
「それは、ランクが高ければ何しても良いって話?」
「何してもって訳ではありませんが」
「低ランクはギルドとしては大事にする必要は無いって事? 仕事の報酬の4割もぶんどって」
「それはシステムの話ですので、ランクが上れば……」
「何をしてるんだ」
突然職員の後ろから、ビシッとした高そうな服を着た紫色の髪をした男が声を掛けてきた。すると職員はあわてたように答える。
「い、いえ、揉め事が起りそうでしたので注意を……」
「ふん……そのスパズは?」
「ギルド長。その呼び名は」
「スパズはスパズだろ? まあいい。朝は依頼の受理で込み合っているんだ。余計なことをするんじゃない」
「はい……」
言いたいことだけ言うと、ギルド長は2階に上っていった。
なるほど……こいつが腐ったミカンか。
「まああんたも大変そうだな」
そういうと俺はギルドを後にした。周りの視線も超痛すぎだしな。
魔石磨きの場所は、メイン通りを跨ぎ東の地区の奥の方にある倉庫街っぽい所にあった。地図的には恐らくここだが……倉庫の前に立っていた警備員のおっさんに依頼受諾書を見せると中へ通された。
倉庫の中は入り口から一本真っ直ぐな廊下が伸び両側に何個かの扉がある。指定された扉をノックすると中から1人の老人が出てきた。
「魔石磨きの依頼を受けてきました。省吾と言います。」
そう言うと、老人に入りなさいと中へ案内される。入り口を通るとドアの上についているランプのような物が青く光り、それを見た老人が部屋の内側の壁についているフックに鞄を掛けるように言う。
「たまに魔石をちょろまかそうとする輩が居るもんじゃからな、魔石に反応する魔道具を作ってもらったんじゃ。悪いが鞄をそこのフックに掛けてもう一度ドアを通ってもらえるかな?」
言われる通りにして、体に魔石がないことを確認してもらう。そして仕事についての説明を受ける。
「ここの箱の中に買い取ったままの魔石が入っているから、1つづつ取り出して魔物の血肉が付いているもの洗ってそこのザルの上に載せていく。ダンジョン産の魔石は綺麗だからそのまま、こっちの箱に入れてってもらえばいい」
最近はあまり依頼を受ける冒険者が居なかったようで、随分魔石が溜まってしまっているらしく、老人は今まで魔石磨きをしていたらしい、んじゃあワシは分別の方やるかと言う。タライにぬるま湯が張ってあってその中に雑巾が浮かんでいた。これで洗えって事だろうな。
汚れた魔石は半分くらいの比率だろうか、一つ一つ取り出しては魔石の状態を確認して汚れている魔石をタライの中で洗い、軽く乾拭きしてからザルの上に載せていく。
乾いてこびり付いた汚れは中々落ちず、かと言って硬いもので擦ると傷みそうな気がして躊躇する。途中から汚れたものを先にどんどんタライの中に入れてふやかす事にした。
うん、やはりふやかしておくと楽だな。ピカピカになった魔石を確認してると、ふとこんなじっくり魔石を見たことは無かったなあと思いしげしげと眺める。魔石は大きさが不揃いではあるが皆一様に同じ見た目をしている。黒いガラス玉の様なのだが黒色は中心部に行くほど濃く、外側は比較的透明な感じだ。綺麗なグラデーションを描いている。
「どうした? 別に珍しい物でも無いだろ?」
「こんなしっかりと見たことはなかったので、魔石って属性とかは無いんですか?」
そう聞くと、老人はおや? と言った表情をする。
「魔石は魔素の結晶化したものだからな、魔素自体には属性はない。属性のある魔道具も火や水の属性を回路に入れることで魔素を使って作動しておる」
「ああ、解りやすいですね。お爺さんも魔道具を作るんですか?」
「ワシには無理じゃよ。職人が作ったものを売るのがせいぜいじゃな。もう隠居の身じゃがの」
隠居した会員あたりがバイト感覚でやっているんだろうか。シルバー人材みたいだな。
「逆に魔素を結晶化する様な魔道具が有れば良いのにって思いますね」
「そういう研究をしてる物も居るようだが、こうやって冒険者が大量に取ってくるものより安い値段で作れるとは思えんしな。商売的には無駄な努力という物じゃな」
なるほどな、研究者は興味で動いて、商売人は利益で動くのか。たしかにこれだけ取れるならわざわざコストをかけて作ることもないよな。魔道具が発達すれば発達するほど日本で電池を使うようにどんどん需要は高まるんだろうけど。
日本の各家庭に引かれている電気みたく、高濃度の魔素を発電所みたいな所で集めて各家庭に電線みたいので送れば……まあそんな濃度の必要な魔道具があるかわからないけどな。
それにしても魔石磨きは意外と俺にあってるかもしれない。綺麗になった魔石をキュッキュッと乾拭きして窓の光にかざす……おしゃれなバーテンダーっぽくていい感じだ。
そんなどうでもいい事を考えているとあっという間に時間が過ぎていく。
トントン
するとノックの音が鳴り、ビシッとした服を着たキャリアウーマン然とした女性が入って来た。商業ギルドの職員さんだろうか。
「そろそろお昼の時間ですが、サンドイッチでよろしいですか?」
「おお、もうそんな時間か、今日は冒険者も来ているから2人分よろしくな。あとお茶も入れてくれ」
「かしこまりました」
そう言うと再び部屋から出ていき、しばらくするとお盆にポットとカップ、サンドイッチを乗っけてやってきた。
「ショーゴ君だったかな? お昼にしようか」
「はい、いやあ夢中になっちゃってあっという間でしたよ」
「お、わかるか? ワシも魔石磨きが好きでな、隠居の身だが何もしないでいるとボケそうでな。頼み込んでやらしてもらってるんじゃ」
まあ、頼み込んでやるほどかは……微妙なところだが
昼飯を食べてる間にこびり付いた血肉をふやかしたいと思ったので、急いで汚れた魔石をタライに放り込んでから昼飯が置かれたテーブルについた。
お爺さんにお茶を注いでもらい、昼食をとる。サンドイッチは肉の佃煮にマヨネーズが和えてあるような物と、ハムとレタス風の野菜の二種類あった。なかなかに旨い。が少し量的に物足りなさを感じる。口には出さないが。
「若いのにはこれだけじゃ足りないかの? ワシの1つ食べなさい」
そういって肉の佃煮のサンドイッチを1つくれた。え? いいんですか? と遠慮なく頂く。顔に出ていたのだろうか……。
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