第38話 指名依頼ゲットだぜ
昼休みと言っても、この世界に休み時間と言う概念があまり無いのだろう、食事が終わると自然にまた仕事に戻る。それでも一緒に昼飯を食べたりしたおかげか老人とも打ち解けて作業中もとりとめのない会話を続けながらまったりと仕事を進める。
「でも、こういうのって冒険者ギルドに依頼を出すより、お爺さんみたいに引退した方を雇ったり、商売がうまく行って無くて暇な会員とかにバイトとしてやらせたりした方がお金が商業ギルド内でまわったりするんじゃないですか?」
そう言うと、お爺さんが楽しそうに笑う。
「商人で魔石洗いをしたいなんて変わり種は少ないからな。賃金も安いし。商業ギルドはどちらかと言うと互助の会だからな、個人の商人じゃ手が回らないところを手伝ったりするんじゃよ、冒険者ギルドのように法外な手数料を取って儲けようとするギルドとはちょっとちがうな」
なるほど、もしかして昼のまかない付きも、報酬のピンはねの分賄いで冒険者の懐を少しでも助けようとする狙いもあるのかね。
それから3~4時間程たったくらいか、再びドアがノックされて先程の女性が入ってきてそろそろ終業の時間だと告げる。サインは誰に貰えばいいか聞くと、老人がサインしてくれるという。
「ショーゴ君は明日は予定はあるのかな?」
「明日もきっとギルドで依頼書見てると思いますよ」
「そうか? 君のペースだったら明日も来てくれれば、魔石磨きがだいぶ片付くから助かるんだが、どうかね?」
お、気に入ってもらえたようだ。入りはイマイチだが仕事としては嫌いじゃないしな。
商業ギルドの覚えを良くするのも悪くない……気がする。
「え? 良いんですか? もしよかったらお願いします」
「そうか、助かるよ、完了書に明日は指名依頼扱いでもう一日頼んだことを書いておくから、ギルドに出すと良い」
「ありがとうございます。指名依頼ですか?」
「依頼人が気に入って冒険者を指定しての依頼じゃ、普通はもっと上のランクでの話なんだがな、たしか指名依頼だとギルドの手数料が引かれるんじゃよ、Gランクだと今は4割か? たぶん3割で仕事を受けれる。流石に今日の分は駄目だがね」
まじか、まじか。確かに個人指名ならギルドの手数料が引かれるのはありえるな。
「助かります。ありがとうございます」
倉庫を後にして、ギルドに向かう。帰り道はなんとなく心が弾んで良い気分だ。途中鳥除けをつけたホテルの前を通り、そっと覗くが鳥が居る感じは無い。利いてるかな?
ギルドに着くと何となくキョロキョロと見渡してしまう。例の狂犬とか言うやつが居ないかとかどうしても考えちゃうんだよな。まあ居なかったけど、あのスキンヘッドのやつが、奥のテーブルが置いてあるところでなにやら仲間たちと盛り上がってる。目を合わせないようにしておこう。
カウンターはこの時間は依頼を受けた帰りの清算の人も居るためにそこそこ人は並んでいる。多分依頼の受付と比べて、完了の手続きの方が時間はかかるんだろうな。朝と同じ人数の職員が出ている。例によって水色の髪の子の列は人気があるようで並びが多い。
ちょっと朝のやり取りで気まずかったが一度避け始めるとずっとになってしまうからな。朝の男の職員の所に並んだ。男の職員は2人居たが、露骨に並ぶ人数が少なくて笑える。
俺の順番がくると、気が付いた職員がちょっと顔をこわばらせる。
「完了報告ですね。少々お待ちください……これは?」
「はい、明日の分に関しては指名依頼してもらえたんです。Gランクでも大丈夫ですか?」
「Gランクでの指名依頼は初めてみましたが……指名依頼にランクは関係ないので問題ないです」
「それは良かったです。このまま明日はギルドに寄らないで仕事に行っちゃっても良いんですか?」
「解りました。依頼の受付も一緒にしてしまうので少々お待ちください」
ふっふっふっ。まさかの指名依頼だろ。驚きましたか? やっちゃいますよ。ドヤ顔。
ギルドを後にする足取りも軽いぜ。
次の日は、受付も済ませてあるのでそのままギルドに寄らず昨日の倉庫に行く。警備員の人に依頼票をみせると昨日と同じ部屋に通された。
「おお、よく来たのう」
お爺さんが出迎えてくれ、昨日と同じように仕事を始める。作業中お爺さんと雑談をしながら魔石磨きを続けた。俺の話を聞いてきた時は何処まで話して良いのか解らず、鉱山ダンジョンでの訓練などの話をするとかなり興味津々で楽しんでいるようだった。
「なかなか優秀な師匠をもったんじゃないか?」
「う~ん、どうですかね。実際かなり鍛えられたとは思いますが」
「一週間かそこらで低レベルダンジョンとは言え、1人で攻略するレベルまでに育てるんじゃ。相当なもんじゃよ」
「言われてみれば……でもかなりのスパルタでしたからね」
うん、あれはスパルタだな。
「それで、ショーゴ君は冒険者として生きていくのかな?」
「そうですね、あまりそれと言った特技があるわけでもないので、楽しそうですしね」
「そうじゃの。楽しそうに見えるぞ。しかし意外と商人にも向いているんじゃないか?」
「向いていますかね? でも今はあまりそっちの方の興味は無いので」
「それは残念じゃな」
残念と言いながら、あまり残念そうな顔はしていないが。カラカラと笑うお爺さんはなんとなく憎めない。今日もお昼を一緒に食べ、午後の仕事が始まり2時間ほど経つと箱の中の魔石はすべて終了した。
「今日はこれで上がってもらって構わないぞ。早かったな。魔石磨きに来る冒険者で効率を考えながらやったのはショーゴ君が初めてじゃよ、また魔石が溜まったら指名依頼するかもしれんが良いか?」
「よろしくおねがいします。ただ、その頃には外の仕事も出来るように成っていたいですけどね」
簡単に片づけを終わらせると、お爺さんにサインを貰い、また機会が有ればよろしくおねがいしますと倉庫を後にした。ギルドで依頼の完了の報告をして報酬を受け取る。
手数料と税金を引かれて378モルズ。昨日より50モルズ程多めに貰えた。1日の稼ぎとしては満足できないが楽しく働けるのは精神的に助かる。今日はもう一軒仕事をするには時間が無いが少し依頼の掲示板を見てから帰るとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます