第39話 芋掘り
ホテルは今日が5泊目だから、あと5泊は出来るが、なんとなくその後の事を考えホテルの受付で今の部屋の料金を確認してみた。すると1泊2000モルズの部屋だと言う。VIPカードで3割引で泊まれるから1400モルズ、日本円で21000円……高い依頼を受けても500モルズ程度と考えると中々に厳しい。食事もしないと餓死するし。
うーん……部屋で持ち金の整理をするが裕也から貰ったお金からギルドの登録料や保証金を引いた持ち金と、報酬を足して13000モルズ程、20万円近くはあるにはあるが、やはりここは安めの宿を探すべきだな。それか安いアパート的な所。このホテルは朝食は付いているが、他がそうかはまた別の話だからな。1食減るとその分の料金も考えないと。
まあ、あれか、まだ知り合いが多いわけじゃないし、クロア達にあったら聞いてみるか。
実は明日は、農家の依頼を受けてみたんだ。どうやら芋掘りっぽい。
日の出から昼までで600モルズ。朝からなのでギルドに寄る時間がちょっと惜しくて先に申し込んだのだが、時間も曖昧な感じで日の出から30分後くらいに西門に集合との事だった。起きれるか少しだけ不安もある。
聞く所によると、この時期は農家の依頼が多いのでそのくらいの時間になると依頼を出す農家や依頼を受ける冒険者がそこそこ集まるらしく、農家の人が紙に依頼者の名前を書いて立ってるので受けた依頼主をそこで探す感じらしい。
あまり考えてもしょうがないので、今のうち風呂を堪能して飯でも食いに行くか。食事処も開拓したいがまだまだそんな余裕はないわな。よし、今日はクロアに教わったあのトマトのジローを食べよう。忘れないように目覚まし魔道具もセットしておこう。
……
ジリジリジリジリ
おおお、本当に日の出のタイミングで鳴ったな。これは便利だ。
しかし俺は既に起床済みで服も着替えて1階の食堂で朝食を食べたたりする……食事中に魔道具をテーブルの上に置いてベルが鳴るか今か今かと待ってたんだ。
実はどうしても不安で昨晩は食事して日が沈む頃にはベッドインしていたんだ。今まで目覚ましの魔道具をスイッチ切ったまま鞄に入れっぱなしで一度も試さなかった為、いまいち信用しきれてなかったのだ。
食事を終えると、目覚ましの魔道具を鞄に入れ西門に向かう。ここからだとちょっと遠いので少し急ぎ目だ。
西門は、北の大きい門と比べだいぶこじんまりとした感じだった。門の周辺には沢山の人が紙に依頼主の名前を書いて立っている。見ていると冒険者以外にもスラムの住人も日雇いの仕事を求めてやってきているようで、仕事の条件などを掲示して呼び込んでいる人も居た。
それなら冒険者ギルドを通さなくても。とも思ったがチラッと見る限りだいぶ足元を見た値段が提示されているようで、微妙な所なのかもしれない。
自分の依頼の受諾書で依頼主を確認する。ボストン農場。なんかちょっと広大な感じがするなあ。ボストン、ボストン……お、あった。ん?
「へ?」
「あ。」
お目当ての依頼主の紙を見つけたと思ったら、紙を持って立っていたのは冒険者登録をした初日に会話をした気弱な青年だった。
「あれ? お兄さん実は依頼票を張りに来た人だったの?」
「ち、違うよ。ボストンさんがちょっと先に畑に行くからここで冒険者を待っているように言われただけだよっ」
「そうかそうか、いやあ、知り合いと一緒だとちょっと安心するなあ」
「知り合いって程じゃないと思うけど」
「ん? 俺の名前は省吾。それじゃ改めてよろしくな。お兄さんは?」
「僕? トゥルっていうんだ」
その後しばらく待っていたが他の冒険者はやってこなかった。トゥルがいうには農業関連だけでかなりの数が張り出されているから、そんな来ないらしい。スラムの人たちとか集めないの? と聞くと、そこら辺も依頼主によってはちょろまかされるのを心配したりでスラムの人を雇うのを嫌がる人も多いらしい。ギルドの肩書があるだけ信用の保証にもなっているのだろう。
ボストン農場はそれなりに大手の農場なので、固定で雇われている農家の人もそれなりに居るらしく、そういう人たちは城壁の外の農地の脇に建てられた長屋に住んでいたりするらしい。なるほど、城壁の外にポツポツ見かけた家にはそういう人たちも住んでいるのか。
トゥルに連れられてボストン農場まで行くと仕事の内容を教わる。といってもまあ、芋掘りだ。恐らくジャガイモの一種かと思われる芋で、ポルトと言うらしい。上の葉っぱの形はなんか違う感じがするが掘り起こすと同じように根に沢山の芋が付いている。これをどんどん収穫してカゴに詰めていくあんばいだ。小さめのスコップとカゴを渡され、指定された列の芋を掘り始める。
「うおおお、すげえ。いっぱい付いてるなあ」
なんとなく小学生の頃に授業で芋掘りをした記憶が思い出される。たしかその時は取った芋でデンプンを取り出したりして理科の授業をやったような記憶があるが。
「トゥル!これ楽しいな。ほれ、すげえぞこれ」
「うるさいなあ、はしゃぎ過ぎだよ」
「いや、でもどんどん取れるぜ。これ旨いのか?どうやって食べるんだ?」
「どうやってって、ポルト食べたこと無い人なんていないでしょ?」
おっと……やばいやばい、興奮して変なこと言っちまった。
しかし、土もよく耕されていて柔らかいものだから、ボコッと一気にいっぱい出てくるのはなんとも言えない快感がある。夢中でやっていると横並びで一斉に始めた他の農民やトゥルとの距離がだいぶ空いてしまっている。
カゴが一杯に成ると、荷車まで行きそこにポルトを入れていく。何度目かの時にトゥルとタイミングが一緒になった。
「張り切ってやっているようだけど、いくら頑張っても報酬が変わるわけじゃないんだよ?」
「おいおい、トゥルさあ、そんな情けない事言うなよ。自分に与えられた仕事は全力でやるもんだろ?」
「僕たちは依頼主の満足するだけの仕事をすれば良いんだよ。無駄に頑張ったってしょうがないじゃないか」
「でもな、先日俺は超頑張ったおかげで、次の日も来てくれって指名依頼貰ったぜ?」
「え? だってショーゴGランクでしょ?」
「良い仕事する奴にランクは関係ないんだよ。指名依頼を貰えればそれだけ手数料も減るから実入りも良い。依頼主も満足する。それがウィンウィンていうやつだろ?」
「でもそんな、何時だって指名貰えるわけじゃないでしょ?」
「そういうマイナスの考えをするもんじゃないよ。指名を貰うために頑張るんじゃない。自分が自分の仕事に誇りを持てるように頑張るんだ。指名依頼はおまけみたいなもんさ」
「変わってるね……君」
変わっちゃ居ないと思うがな。たしかにソ連時代の農民みたいに頑張っても報酬が変わらないと言うのはこういう事なんだろうけど。それでソ連はどうなった?軍事力だけ強い貧乏国に成ったわけだろ?
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