第33話 先輩のおごりで
少し散歩しながらと思ってたが、歩いているとどうにも腹がすいてたまらん。メイン通りを通り過ぎて数ブロック歩くと、もうどこでも良いから入ってしまおうと言う気分になってくる。キョロキョロと周りを見渡すがイマイチ食事処がわからない。
その時、通りの角から冒険者パーティーっぽい1団が出てきた、ふむ。人相的にはそんな悪そうな感じじゃないな。聞いてみるか。
「すいません。ちょっとお尋ねしたいのですが」
「ん? 俺らか?」
「はい、少しお腹が空いてしまい店を探しているのですが、ここらへんで安くて旨い店ってご存知でしょうか?」
そう尋ねると、ジロジロと俺のことを見る。な……なんかまずかったか?
するとパーティーの剣士っぽい女性が、あっ。と声を出した。
「あっ。そう言えば今日、スパズの新人さんが来たって話題になってたけど、君のこと?」
うわ。またスパズか……まあ、帽子かぶっててもモミアゲの辺りとかは黒いの見えちゃうもんな。何となく話しかけたのを後悔しだした時、始めに対応してくれたリーダーっぽい青年がたしなめる。
「フィア、お前あんま気軽にスパズとか言うなよ。なあ?」
「まあ、黒目黒髪は確かですが、あんまり気持ちよくは無いですよね」
「ほらぁ。謝れよ。」
「うう、ごめんね。ほら、なんて言っていいか解らなくてね」
「そういう時は、ダブルブラックって言えばいいですよ?」
「へ? ダブルブラック?」
「ブラックアイズ、ブラックヘアー。BBでも良いですけどね」
「はははは。良いねえ君」
うん、ダブルブラックは広まる予感がするぜ。
彼らも食事をしようとした所らしく、失礼した代わりに飯をおごるから一緒に行こうぜと誘われる。一緒に行きますが奢らなくて良いですよというが、軽く流された。
そこから少し歩いた所にある店に入ったのだが……。
なんだこれ? スープパスタってやつなのか? でもちょっとラーメンっぽい感じもするが。
お勧めがあると言われ料理を勝手に頼まれたのだが、ドンブリにスープと麺が。スープはトマト系のスープで、魚介系の具材がどっさりと乗っている物だった。なんていうか、スープスパってパスタが一時期流行ったがあれか? しかし麺はラーメンぽいな。見た目もドンブリもどちらかと言うとラーメンなのだが……味は悪くない。
のだが。なんか違和感がデカイ。鍋の締めっぽいんだ。
「どうだ? 旨いだろ。実はこれはな、かつての反逆の勇者が考え出した料理なんだ」
なるほど、勇者が伝えたラーメンが200年の時を超え変化したものなのか。
「はい、旨いっすね。初めて食べましたよ。も、もしかしてラーメンって言うやつですか?」
「ん? この料理か? これはジローっていうんだ」
ブッッ!!!
「げ、おい汚えぞ」
うわあ……例の勇者、まさかのジロリアンだったのかよ。普通にラーメンって名前で伝えろよ。思わず吹き出してしまったじゃないか……ますます勇者像が解らなくなる。
「す、すいません」
「勿体ねえな」
「ははは、最近クロアがこれ気に入ってね、ここばっかり来てるのよ」
彼らはCランクの新進気鋭のパーティーらしい。自称だが。リーダーのクロアが、剣士のフィアと魔法使いのアイン、タンクのポートスの3人を誘い活動しているということだった。何気にタンクのポートスはこの世界に来て始めてみる獣人だ。熊系の。あまりチラチラ見たら感じ悪いと思ってなるべく目線を向けてないんだが、無口なのか話しかけても来ないので全然目線を送れない。
食事が終わると、クロアがお金を払おうとする。いやいやそんなマズイっすよと断ろうとする。
「今日登録したばかりなんだろ? Gランクは金が無いなんてこと誰だって知ってるんだ。先輩冒険者が一緒に食事をしたら奢るってのが普通なんだよ」
「確かにお金はそんな無いですが、初めてあった方にそんな」
「お前硬いなあ。Gじゃ手数料だって、4割方持ってかれるんだろ? Cまで成れば手数料は1割くらいなものなんだ。まあここは黙って奢られとけって」
「……へ? なんですか? その手数料」
「ん? お前登録のときに話聞かなかったのか?」
冒険者ギルドでは、依頼達成時の報酬のうち仲介手数料が発生するという。Gランクで4割、FランクとEランクが3割、Dランクで2割、Cランクで1割。Bランク以上になるとギルドの看板的な存在になるため手数料が無料になるという。Eランクになると外の仕事が出来るように成るため、パーティーの誘いが来るように成るらしい。報酬はパーティーで受けるとパーティーのランクの手数料に成るためEランクで手数料が高くてもそれほど問題にならないと。
「まじっすか……登録の時にスパズだって周りが笑ってたりで居たたまれなくて説明しようとするのを断って逃げちゃったんですよ」
「ああ……冒険者は品がないのが多いからなあ。まあ今のギルド長はそれが気に入らないみたいだけどな。貴族の出らしいぜ」
……おいおいおい、窓拭きの報酬が1500モルズで、その4割持ってかれたら……900モルズ、ロープ買ったりして、経費が700……2日で200モルズの稼ぎかよ。これ喰っていけるのか???
「せ、先輩?」
「なんだ?」
「ゴチに成りやす!」
「お……おう」
ううむ、取り敢えず午後に出来そうな依頼を見てみるか。
再び冒険者ギルドに行くと、朝の喧騒とはうって変わり冒険者の数はまばらだった。受付も人数が2人しかいない。やっぱり朝受けて動き出す奴が多いんだろうな。そう思いながら掲示板を見る。相変わらず取り合いにはなってなさそうだな。このランクは。
依頼は、領主様名義の物から、商人、一般人、農家、色々ある。領主様のは街のどぶさらいや城壁の外にあった石の塀の工事などがあるが、どれも朝から行かなくてはならないものらしい。農家も1日仕事の物が多そうだ。なかなか良さそうなのが解らないなあと思いながら見ていると、ちょっと気になるのがあった。
一般の家庭のようだが、「ラットの駆除」とある。ラットはそのままネズミだろうと思うが。駆除なら<ノイズ>が使えるんじゃないか? 殺せはしないけど、何となく行けそうだ。900モルズと言う値段も悪くなさそうだ。そう思い、依頼書を剥がして受付に持っていく。
依頼票と俺のファイルを確認しながら受付の男性が聞いてきた。
「今朝受けた依頼の完了報告が出てないみたいですが」
「ああ、続きは明日の午後に来てくれって言われていて時間があったから他の仕事やろうかと」
「了解しました。では受付完了しましたので、仕事が終わりましたらこの書類にサインを貰ってきてください」
そう言われると受諾書を受け取り、ギルドを出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます