第210話 トゥルの依頼 12 ~山の集落へ~
ロック鳥に湖。その2つだけで皆元気が増す。いい場所があったもんだぜ。久しぶりにリフレッシュした俺達は、元気よく旅を続ける。
地図では湖に注ぐ小川に沿って「終の壁」まで行くようになっている。「終の壁」には沢山の洞窟のような穴が空いており、この小川の湧く場所に空いている洞窟が壁の向こう側まで続いているとの事だった。それを抜けるといよいよ山の集落となる。
「……ここかあ」
「ここだねぇ」
真下から見上げるとその断崖絶壁の高さにビビる。ヨセミテ渓谷的な? いや、どちらかと言うとグランドキャニオンのどこまでも続く壁を見上げる感じとでも言うのか。たしかに洞窟でも通るか、大きく迂回して行ける道を探さないとコイツの向こう側には行けそうもない。その道もあるのかどうかもわからない現状ここのルートは必須なんだろう。
湖からの水源を辿ってきたわけだが、水は少し高いところからそこまで多い水量でもなくチョロチョロと滝のように流れ落ちている。滝壺は立派に池のようになっており、その水が池から漏れるように小さな滝を作り湖に向かって流れ出る小川を形成していた。
再び岩肌の水が落ち出る場所を眺めると、その口は水量に比べかなり大きく開いている。人が通れそうな大きさだ。恐らくあそこから入っていくのだろう。ただ……あそこまで登るのに一苦労しそうな感じがするのだが。2~30m程の高さはありそうだ。少し足がかりになるところを削っても良いのかな……日本だったら自然を壊すなって怒られそうだけど。
しかし、この世界のレベルやスキルのお陰で、今の俺なら指一本でも引っかかれば体を持ち上げられる。地球だったらロッククライミングのチャンピオンとか狙えちゃえるんじゃねえかと思える身体能力は十分にある。トゥルだってみつ子の力が増強するバフを掛けてもらえば十分に登れると思う。
「ちょっと見てくるわ」
そう言うと岩をひょいひょいと登っていく。真下から上がると水でビジョビジョになるため少し横からのアプローチだ。
滝の入口でそっと中を除くと、うん。結構深そうだ。気持ち屈みながら穴の中に入っていく。
<光源>を出し、中を見る。中は鍾乳洞や風穴に入ったときのようにヒンヤリしている。ちょっと心地良い感じだ。外に顔を出し皆を呼ぼうとした時に、感知に何かが引っかかった。
シュル。シュル。
慌てて<光源>を向けると一匹の大蛇がこちらに向かって来ていた。
大蛇は俺をグルグル巻にしようとでも思っているのか、俺の脇を素早くすり抜けるように巻き付いてくる。今まで見た蛇系の魔物のように一噛みでという動きじゃない。こういうのは毒を持たないタイプなのだろうか。まあ。そのまま黙って捕まるわけにも行かないので、横を通過する頭部をそのまま斬り落とす。
蛇の頭部は勢いそのままに崖の下に落ちていった。下ではキャーキャーみつ子の叫びが聞こえる。いきなり蛇の頭部が落ちてきたらビビるもんな。頭部を失いつつまだウネウネと動いている蛇の体をそのまま崖の下へ投げ落とした。
「ごめん。いきなり現れてさ。うん、もう何も居ないから上がってきて大丈夫よ」
「もう、やめてよっ! 気持ち悪い!」
「はっはっは」
とりあえず笑ってごまかしておいた。
その後全員無事に穴まで昇り、ようやく奥に進んでいく。
……
……あれ?
「行き止まりじゃない」
「うん……行き止まりだなあ」
「脇道とかあった?」
穴は確かに一本道だった。水が染み出てくる小さい隙間は等は有ったが……。 とりあえず見落としたルートが無いか確かめながら入口の方に戻っていく。
しかし脇道なども見つからず入り口まで来てしまう。とりあえず一度下に降りることにするが……。
「うぉっ。ちょっと降りるの怖ええ」
入り口から出て岸壁にしがみつくまでが怖い。入り口が少し狭いのもあるが後ろ向きで出る感じになるので足元が見えない。足元が見えないと不安感に体を預けられなくなる。……やばい。降りれねえ。そんな俺をみてモーザが鼻で笑う。
「お前、まじかよ。こんなの平気だろ?」
「お? おおお? 言うなあ。じゃあモーザさんお先にどうぞ」
「見てろよ」
……
「う……」
「ん? モーザさんどうしました?」
「な、何でもねえよ」
ほら見ろ、こういうのは怖いんだよ。ニヤニヤしながらモーザを見つめていると、突然モーザが入り口から飛び降りた。は? 慌てて入り口から下を覗くと、パンパンと体の汚れを払いながらモーザがニヤリと笑う。
「まあ、問題ないな」
「……くっそ」
しかし、今の体ならこの高さから飛び降りてもなんとかなるのか。むうう。やっぱりどうしても地球の常識でものを考えちまう。だが負けられん! ここは勇気を振り絞って俺も滝の縁から下にめがけ飛び降りる。
ヒュルヒュルヒュル~ドン。
んぐ、ぐぐぐぐ。
……お。確かになんとかなったな。未来少年的な気分だ。
「よし、皆飛び降りてこいよ」
「無茶言わないでよっ!」
ぬう。
結局モーザと長めの大木を切り落としてきて、洞窟の穴まで立て掛ける事でなんとか簡易的なルートを作る。かなりの時間を消費してようやく皆降りることに成功する。
なんだかんだで良い時間に成ってきてしまっている。女性陣に野営の準備をお願いして、その間に野郎どもが二手に分かれて件の洞窟を探すことにする。しかしそれっぽいのがなかなか見つからない。
「そのルートって500年前のシュザイハンの時より前からあったんだろ?」
「たぶん、そうだと思う」
「水源が枯れて、別の所が開いたりとかありそうよね」
「そこなんだよなあ」
実際自然のそういうサイクルは分からないが、新しい水のルートとか確かに普通に出来そうだし。この小川じゃない川が当時は有ったのかもしれない。ちょっとまいるな。もしそれが数百年前に起こったら、とてもじゃないが跡を調べても解らねえかも。
どうしようもないまま太陽は沈んでいきそのまま野営になる。神樹の枝の効果もあるのか、穏やかに夜を過ごせるが、ルート変更の必要を思い頭を悩ませる。どうせ壁を抜けるルートがあるなら小川から直で入り口に続いてればいいのに。
……ん?
でもちょっと待てよ?
あの滝の水量と小川を流れる水量が何となく差がねえか? 滝の水量なんてかなりチョロチョロだよな。小川はもっと水が……まさか。
思い立ったら確認したくなる。飛び起きて滝壺まで行く。夜番をしていたスティーブが「ショーゴさん。どうしたんです?」と声をかけてくるが、ちょっと気になることがあってな。と<光源>を出し滝壺に出来た池を覗く。
……やっぱりだ。
もし予想通りならなんとかなりそうだな。
ちょっと胸のつかえが取れ、俺はぐっすり眠りに着くことができた。
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