第211話 トゥルの依頼 13 ~山の集落へ~
朝起きると、皆を滝の近くに集める。
「どうしたんだ? 朝からこんな所に集めて」
「モーザ……犯人が分かったんだよ」
「犯人って何だよ」
「俺はずっと考えていたんだ。伝説の集落への道がそんな簡単に無くなるのか。たとえ自然現象であろうとも、定期的な交流があるのならルートが無くなるなんてことはないんじゃないかと」
「えーと。何の話だ?」
「皆動くなっ!」
「お、おい?」
「犯人はこの中にいる」
みつ子が頭を手で抑えながら突っ込んでくる。
「はいはい。コ○ン君? 金○一少年?」
ぐ……申し訳ないがここはみつ子を無視だ。楽しんでいるんだぜ?
「スティーブ。例のあれを」
「はい」
俺が声を掛けるとスティーブが一本の長い木の棒を持ってくる。やはりこういうネタばらしはアシスタントが必須だからな。皆は不思議そうな目でそれを見ていた。スティーブはその棒を滝の落ちる部分の更に奥。水の中に崖のある部分に向け突っ込んでいく。2mほどの棒が完全に水の中に埋まった。
「え? まさか水の中に入口があるの???」
皆もやっと意味がわかり始めた。
「そうだ。そしてここを見てくれ。この池と川の境の部分。ほら、ここにも小さな滝があるだろ? そしてこの境をよく見てくれ」
「……岩……だな」
「そうだ、まさに犯人はこの池の中に……そう。この岩が犯人だ!」
「……そうか。落石がここをせき止めて池に?」
「そういうことだ。こんな断崖絶壁だが恐らくたまに水などで侵食されて岩などが落ちてくるんだろう。まさにここに落ちた岩が小川を堰き止め、池を作った」
「なるほど……」
「そもそもここの滝の水量なんてチョロチョロだ。だが、ここから流れる水量はもっとある。そのちょっとした違和感が俺をここまで導いた」
俺のドヤ顔に皆息を呑む。気持ちいいぜ。
「……でもこの演出必要?」
「それを言われると身もふたもないぜ……」
しかし、その岩をどかすのがかなりの難題だった。かなりの大きさのようでいくらやっても動かせない。結局岩の上に乗り裕也の剣で少しずつ砕いていった。裕也に見られたら怒られそうだが、その度に水が流れ出て水位が落ちていくのでそのまま続けていくとようやく洞窟の入り口が現れる。たしかに洞窟からの水量の方がだいぶ多い。
入る前に昼飯を取り、洞窟に入っていく。革製の靴が濡れるのが少し嫌だがこの際仕方ない。ビムラーの靴は濡れた岩場でもグリップを生かして滑らずに歩ける。だが合流したばかりのフォルとショアラ、トゥルはかなり歩きにくそうだ。
ショアラをみつ子にサポートしてもらい、俺はトゥルをサポートしていく、フォルはスティーブだな。モーザは<気配察知>があるので初期対応をしてもらう。
しばらく上り坂が続くが、やがて傾斜はだいぶ落ち着いてくる。入り口が水没していたせいか、魔物の気配も無いまま俺たちは洞窟の中を進んでいった。
ポタッ。ポタッ。ポタッ。
ジメジメとした洞窟の中は狭いところもあるが、基本的に屈むこと無く進めるのは助かる。周りの壁からチョロチョロと水が染み出すところがいくつもあり、それが集まり外に流れ出ているようだ。やがてそんな湧き水も減り、洞窟内は川の中を歩くような感じではなくゴツゴツした岩の上を歩いていく感じでになっていき、そこまで滑ら無く成っていく。
<光源>である程度の明るさはキープしながらも時間の感覚は段々とあやふやになっていく。時計のない世界で体内時計が割と発達してきているような感覚があったのだが、やはり太陽の動きが見れないとそうなってしまうんだろう。
「この感じだと、洞窟内で野営しないと駄目だな」
「なんかジメジメしてて早く出たいよ、岩の上で寝るのも体が痛くなりそう」
「まる2日くらいかかるみたいだから、しばらくの辛抱だね」
「山の集落に温泉でもあると良いなあ」
「ほんとそれ」
幸い光量を絞らなければ、俺の龍珠の明るさで俺が寝て<光源>が無くなってもなんとか物は見えそうだ。久々に頼りにさせてもらうぜ。
魔物の気配は無いと言っても、一応順番に夜番は立てて野営をする。そのまま下に座るとどうしてもゴツゴツしているしなんとなくお尻がジワッと湿っぽくなる。コレがなかなか厳しい。タープやテントの布を工夫して壁に寄りかかって寝る感じで一晩過ごす。火は起こさない。洞窟でのガスなどの問題は分からないが、少なくとも二酸化炭素中毒になったらシャレにならない。地図に残されている正規のルートとして毒ガスなどは無いと信じるしか無い。
トゥルによると、シュザイハンの手記でも洞窟の記述は無いようだ。ぶっちゃけそこさえ省けば山の集落にたどり着くのはかなりの難関になるだろうし、実際何人もの冒険者が山の集落を探そうとして失敗しているようで、今では完全におとぎ話としてとらえられているようだ。
洞窟の中には色んな所に鍾乳石が出来ていて、幻想的だ。日本でコレを壊したら大問題になるだろうが、この世界だと1本くらい折ってお土産にしても怒られないんじゃないかという気持ちになる……だが。良識のある大人としては我慢だな。
適当な間隔で夜番を交代してもらい、なんとなく朝かな? と言う時間で起きて再び歩き始める。
洞窟に入って2日目、ただひたすら前に進む。時折狭くなった場所など出てくるが、よくよく岩を見てみるとハンマーか何かで岩を砕いて道を広げたような跡も確認できる。それを見ると正解のコースを辿っている安心感はあるが、落盤的な事が起こったりしていつ道が途絶えているかも不明だ。
ジメジメした薄暗い洞窟を歩いていると流石に皆気が滅入ってくるのだろうか、口数が少なくなってくる。幻想的な洞窟の中でもひたすら同じ様な光景だと感動も薄れてくる。そして歩き続け腹が減ってきたら行動食を口にする。
「これで出口が無かったら泣けるな」
「やめて~。怖いからっ!」
「まあ空気が流れてくるから大丈夫だと思うけど」
そして大体一日経ったかな? と言うところで再び野営を準備する。昨日と同じ様に岩の壁により掛かるように寝るので、良いポジションを設定しているとトゥルが話しかけてくる。
「ずっと光源出しているけど、魔力は大丈夫なの?」
「え? ……ううむ。とりあえず魔力切れの感じもないし大丈夫じゃないかな」
「それってすごいよね」
「あ~。他の人がどうか分からないけど。魔力が増えるスキルもあるからなあ」
「なるほど」
この日も何事もなく朝まで穏やかに過ごせる。再び同じ様に準備をして進み始めた。数時間も歩いた頃か、突然開けた場所に出る。そこはデカイ湖のようになっていた。なんとなく景色が変わると気分転換になって良いかもしれない。
「地底湖ってやつか?」
「結構上り道だから地底じゃ無さそうだけど。やっぱり地底湖っていうのかな?」
「モーザ。なんか水に棲む魔物とかいねえか? 引きずり込まれたらやばそうだよな」
「ん? 大丈夫だ。なんの反応もない」
湖の周りの壁際に沿って歩けるような場所が有ったので、俺達は落ちないように慎重に進んでいった。
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