第212話 トゥルの依頼 14 ~パン爺さん~
湖沿いにしばらく歩いていくと、みつ子が声をかけてくる。
「省吾君、ちょっと光源一度落とせる?」
「え? 良いけどじゃあ一度止まるか」
流石に歩きながら消すのは怖いからな。皆に止まるように言い、<光源>を消す。
……
お?
光源を消すと先の方に薄っすらと明かりのようなものが見えた。
「お? あれって出口じゃね?」
「おお~。みっちゃんよく気がついたな」
「ふふふん」
と言っても、まだ足元がしっかり見えるほどの明るさが無いため再び<光源>を出す。やはり先が見えると元気は出てくるな。皆の歩き方も心なしか軽くなる。と。道がどんどん低くなって水辺に近づいてくる。
先の方に洞窟の入り口が見え始めた頃とうとう、道の先が水の中に沈んでしまっていた。
「……あれ。この先泳げってか?」
「あとちょっとだから、まあ行けるか」
「でも入り口の所、ちょっと高く成ってるな。登れそうか?」
『すまんのう。恐らくワシが削ってしもうたわ』
!!!
「うぉおお! なんだ? え?」
声のした方を見ると、一匹のデカイ亀が水から顔を出してこちらを見ていた。マジか。感知にも引っかからなかったぞ? モーザも察知に全く引っかからなかったようで慌てたように槍を向ける。
ていうか、今喋ったな。しかもなんとなく温厚そうな感じだ。
「ちょっ! 攻撃するなっ!」
魔法を撃とうとしていたフォルとショアラの魔法を慌てて<ノイズ>で散らす。ていうか、そうか。皆は声が理解できないのか。魔法が不発になり2人は慌てて再び魔法を練ろうとするのを制止していると、みつ子が亀に向かって話しかける。
「こんにちは。私はみつ子って言うの。あなたは?」
『おおう。なんか驚かせてしまったようじゃの。ワシは……パンと呼ばれておる』
「パンさん。可愛い名前ね」
『フォッフォッフォ。可愛いか。みつ子も可愛いぞ~』
「ふふふ。ありがとう」
うん。やはりみつ子はわかるようだ。みつ子が語りかけているのを見て他の皆も少し警戒を緩めるが……かなり戸惑っているのがわかる。
「あーなんていうかさ。俺とみつ子は色んな言葉を理解して相手に伝えられるようなスキルがあるんだ。今この亀がさ、ここの道を削っちゃったのが自分だからごめんねって話しかけてきたんだ」
「え?」
「はい?」
「魔物の言葉全部が分かるわけじゃなくてさ、知性ある生命の言葉が分かるってかんじ?」
するとモーザが何か思い当たるような顔になる。
「そう言えば、前にオークの言葉も分かるって言ってたな……どういうことだ?」
「んと。まあ隠していたわけじゃないんだけさ。俺とみつ子って別の世界から転生してきてるんだわ。だからこっちに来る時に、この世界の神に<言語理解>ってスキルを貰ってこっちの言葉が分かるようにしてもらったんだ。まあそれだけっちゃそれだけの話しだけど」
「……へ?」
「……」
「お前……それだけって……マジか」
あ~。いいタイミングだと思ったけど、ちょっとぶっちゃけすぎたか。まあ王家とかそれに近いような人たちにしかこの世界に転生者が居るんだなんて情報は無いんだろうしな。今ここで詳しい話をしている場じゃないんで、時間があるときにでもちゃんと説明しないとな。
『ふぉっふぉっっふぉ。転生者か。ワシも前に何人か会ったことがあるぞお』
「お、やっぱり? 500年くらい前に川口剛とか言う冒険者が来たらしいけど、多分そいつも同じ転生者だと思うんだよね」
『カワグチツヨシ……居たかもなあ。居なかったかもなあ』
「うん。まあ昔の話だし。無理して思い出さなくてもいいさ」
パンの言葉は俺とみつ子しか理解できないが、パンの方は人間の言葉を理解できているようだ。こんな人と合わないような所に住んでいて、何人か会ったことがあるっていうのもすげえ確率だと思うが。恐らくツヨシは転生者でパンと会話したことあるんだろうな。
「ん? なにか近づいてくる」
モーザが<気配察知>で何かを感じ取ったのか伝えてくる。
『んあ? ああ。デザートの時間じゃな』
「デザート?」
そうこうしている間に俺の感知にもひっかかり、入り口から1人の女性が大きな籠を持って洞窟内に入ってきた。なんとなく民族衣装っぽい見たことのない感じの服を着ている。
7人で女性を凝視していると、入ってきた女性はすぐに俺たちに気がついた。
「きゃっ! え?」
「あ、えーと。こんにちわ?」
まあとりあえず挨拶だな。かなり驚いていたがすぐに俺たちが洞窟の奥からやってきたのに思い立ったようだ。
「え? まかさ、端の村から……ですか?」
「はい。端の村からです」
「あ、冥加の方ですね! よくご無事で」
「あ、ありがとうございます」
『そんなことより、ワシのデザートを頼むわ』
とうとう山の集落にたどり着いたんだという感慨も、パン爺の一言でぶち壊れる。
「あのう。パンさんが早くデザートを欲しがっているようで……」
「あ! そうですね。申し訳有りません」
そう言うと、女性は湖の中に向かって籠の中のものをザザッとぶちまける。意外と荒っぽいな。ぶちまけられた物を見ると湖に浮いているのは果物だった。
『ふぉっっふぉっふぉ』
パン爺さんは、嬉しそうに果物に近づくと一つ一つパクパクと食べていく。巨体でもって近づいていきゴリゴリと周りの石に体を擦っている感じがあるな。うん。なるほど。コレで道が削れちまったのか。
「ショーゴ!!!」
「どうした? トゥル。鼻息荒いぞ」
「見てよあの果物っ! あんなの見たこと無いよっ!」
ん~と。正直この世界にどんな果物が市場にあるかなんてあまり知らないからな。俺が言われても良くわからないんだが。まあ。この興奮具合を見ればそうなんだろう。そうか。あったか。
うん。でもまあ、ここまで頑張ったかいが有ったということだな。
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