第209話 トゥルの依頼 11 ~山の集落へ~

「我々取材班は、道なき道を突き進み、幾多の困難を乗り越え湖に向かって足早に向かっていた。大自然は文明の関与を決して許さない。自らが持つ力だけで森に分け入り、切り開いていく。だが大自然は時として牙をむき探検隊に襲いかかってくる!」


 オーナーのトゥルは本日何度目かの回復をみつ子にしてもらっていた。先日のワーウルフ戦で瀕死の魔物にトドメをさしまくっていたお陰でレベルも上がったらしいが、連日の猛暑にやられ体調を崩していた。


「どうしたトゥル! もうちょっとで湖にたどり着くぞ!」


 隊長の省吾が声をかけるが、その目から生気が少しづつ失われていっていた。


「がんばれ! お前アイツと結婚するんだろ? 負けるんじゃない!」


 結婚の言葉に、切れかかっていた気持ちが再び引き締められる。目にも力が戻ってくる。


「あ、うん。もう大丈夫 回復効いてきてるよ」

「おう。もちろんだ。あの林を抜ければ、その先には希望がある! 行こう! 父さんは帰ってきたよ!」



「……ねえ。省吾君」

「ん?」

「それまだ続くの?」

「あいや……ほら。盛り上がるかなって」

「私だってそのネタ知らないわよ。最後だけなんか聞いたことあるけど」


 ん? 一瞬太陽の光が弱まったか? 空を見上げる……


 ……


「太陽の中にいる……来る」

「それ、作品がごっちゃだから」

「いや。ホントにっ!」


 太陽を背にして何かがまっすぐこっちに向かって飛んできていた。やばい。俺はとっさに<ウォーターボール>を練る。流石に周りも俺がふざけてるわけじゃないことに気が付き太陽の方を見る。


 すでにそいつは太陽の大きさをはみ出すくらいには近づいていた。鳥か? 真っ直ぐに急降下してくる。みつ子もフォルも慌てて魔法の準備をする。


「モーザ! 止まらなかったらマジックシールドで止めてくれ」

「分かった」


 たまらずにフォルが<ウッドパイル>を飛ばすが早い。ギリギリまで引きつけながら俺は<ウォーターボール>に魔力を込めながら中の渦をグルグルと回す。みつ子は<ファイヤーランス>をチョイスしたようだ。


 ゴオオオオオオ!


 で、でかいぞ? その姿は一気に近づき、すでに太陽を隠すほどの大きさだ。<直感>に任せ惹きつけるだけひきつける。更にショアラが<ウィンドカッター>を飛ばすが、コレも早い。


 ――ここだ。


 タイミング的にはみつ子と同時だった。


 グゥオオン!


 二筋の魔法が、巨大な鳥の魔物に向かって伸びていく。魔物は流石にヤバいと感じたのか回避するような動きをするが、もう遅い。俺の<ウォーターボール>が右翼の羽を削り飛ばし、みつ子の<ファイヤーランス>が左胸を貫く。


 少し遠くの所に錐揉みをしながら落ちていく魔物に向かって、俺とモーザが走っていく。



 ギャアアア!!!


「マジか! ロック鳥だ!」


 鳥は片方の羽をやられながらも殺意の乗った瞳をこちらに向け威嚇してくる。かなりのデカさだ。羽根を広げると10m位ありそうな気がする。


「まだ飛べるかもしれない。飛ばすなよ」

「分かってる!」


 モーザが突っ込んでいくとロック鳥は嘴で突こうとする。しかし、モーザは巧みに<マジックシールド>を展開してそれを防ぎつつ槍を繰り出す。


「!!! 避けやがる?」


 ロック鳥もピョンピョンと跳ねながらモーザの槍を避けつつなんとか飛び立とうとしている。させねえよ。


 俺は横手から一気に近づきロック鳥の右の翼を半ばから完全に切り落とす。


 ギャアアア!


 ロック鳥は痛みにパニックになりながらも俺に嘴を向けてくる。しかし飛べない鳥はただの鶏だ。遅れてきたスティーブも混じり、3人で囲んで攻撃をしていくと徐々にダメージを負い、やがてロック鳥は動かなくなった。


「おお、レベルアップ来たぜ」

「俺も来た」

「僕も来ました」


 まじか、相当経験値の高い魔物なのか。胸を切り開くと、かなりのサイズの魔石が出てくる。確かに高ランクの魔物っぽい。


「ショーゴ」

「ん?」

「ロック鳥って、スゲー旨いらしいぞ」

「……まじか」


 しかしこの大きさだ。すべてを持っていくのは厳しい。個人的な趣味でもも肉を中心に氷室に入るだけ採取し、残りの肉は食べれるだけ今食べていこうという話になる。ちょうど昼くらいだしな。


 森の中では割と行動食的な簡易な食事を続けていたため、久しぶりにまともな食事を摂る気がする。匂いにつられて魔物がやってくるかもしれないが、今の所対処出来ない魔物は出ていない。少しづつ気も大きくなってきていた。


 ただ焼いて塩を振っただけだが、モーザの言う通り濃厚な鳥の旨みが俺たちを襲う。確かにヤバい。コレを持ち帰れたらすげえ値段で買ってもらえそうな予感。だがこんなゲネブから離れた奥地ではなかなか厳しいか。やはりいつかマジックバッグを買いたくなる。夜の分なら凍らせなくても保ちそうなのでやや多めに肉を切り取り、袋に入れて持ち歩くことにした。



 腹も気持ちも満足した一行がようやく湖にたどり着く。そこまでの広さがある感じでは無かったが湖底まで見通せるほど澄んだ綺麗な湖だった。


「すごい綺麗……」


 そういいながらみつ子が水の中に手を入れる。


「うん、そこまで冷たくは無いかな」

「おお。水浴びでもしたくなるな」

「そうねえ……うん。じゃあ男子は少し離れて」

「え?」

「乙女が二人で水浴びをすることにします」

「えー。全裸にならなきゃ皆で――」

「隊長。可憐な乙女二人がもう何日もお風呂にも入れてないんですよ。気を使ってください」

「そ、そうだな」


 抗えない雰囲気を読み取り、俺は野郎どもを集めて少し離れることにする。まあ、あまり離れると魔物に襲われたても対処できないからな。「覗き禁止。特にフォル君」そんな事を言われながら離れて――。


 ゴォオオオオオ!!!


 突然の音に振り向くとみつ子たちを遮るように炎の壁がそそり立っていた。


 ……マジか。ファイヤーウォールをこんな事に……。



 少し早いが今日はここら辺で休憩して野営でもしようか。そそり立つ炎のこちらで、野郎どもは枯れ木を集めたり野営の準備を始めた。


 乙女等がスッキリすると、今度は俺たちも湖に飛び込む。うん。超気持ちいいぜ!

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