第208話 トゥルの依頼 10 ~山の集落へ~
モーザが暴れている所に駆けつけると、モーザもスティーブも雄叫びを上げながらワーウルフをどんどんと仕留めていく。フォルもフォルでバシュバシュと<ウッドパイル>を飛ばし殲滅していた。その後ろで……トゥルは「ヒャッハー」と瀕死のワーウルフにトドメをさしていた。
……まあ、なんというか前線に出ていなくてよかった。バフがあっても弱いままだろうしな。
既に矢が切れていたので遠くの敵を<ウォーターボール>で攻撃しつつトゥルに近づく。
「おいトゥル危ないから――」
「ショーゴ! 大丈夫だ! 俺はやれるぜっ!」
「お、おう」
「ウオー! ウオー!」
マジかあ。なんだよあの魔法。バーサクでもかけたのか?
ただ、戦場ではこういった押せ押せのムードが相手の士気を挫き、一気に戦況を変えていくのは十分にあるのだろう。ワーウルフ達も自分たちのペースを作ることも出来ずジワジワと仲間を失っていく。
やがて怒りに燃えた一匹のワーウルフが俺の目の前にやってきた。体も1段階でかく、いかにもボスらしい佇まいだ。――コイツをやれば終わるか。
「悪いがそいつは俺の獲物だぜ!」
ボスに剣を向けた時、横からモーザが走り込みボスと戦闘を始める。
……うん。もうなんでもいいや。
振り向くとショアラは既に矢を使い果たしたのだろう。細身の剣を持ち<ウィンドカッター>を撃ちながら敵に突っ込んでいく。みつ子も慌ててそこら中に<ファイヤーボール>や<ファイヤーランス>を打ち込んでサポートしてる。まあ、あっちももうじき終わりそうだな。
……
……
「やっぱ俺たちは<精神異常耐性>あるから効かなかったのかな?」
「あ、そうか。なんで私達は普通なんだろうって思っていたのよ。そうかあ。そう考えると良いスキルだね」
勝利の雄叫びを上げてる子供たちを放置し、俺とみつ子で魔石や矢の回収をしている。しばらくすると少しづつ我を取り戻し始めていく。そして、素に戻った連中は一様に何か恥ずかしいことをしてしまったようにモジモジとしている。大人の俺はそっとしておいてやろうと思う。
ただ、フォルはなぜか自信満々でやってやったぜって顔をしてる。
「……フォル君?」
「なんすか兄貴! どうでした? 俺のバフ。すげー強くなったでしょ???」
「うん。あれはもう禁止です。使わないでください」
「へ??? なんでですか? ていうか丁寧な口調怖いっすよ」
「それと、後であの種の効果全部教えて下さいね。把握しておきます」
「ちょ。兄貴あれは我が流派の秘――」
「だまらっしゃい!」
「ヒィィィ!」
皆心も体も疲れ果ててるようなので、俺1人で夜番をして眠ってもらう。と言ってももう少ししたら日も昇りそうだけどな。俺は久しぶりに<光束>を出したりしながら日の出まで時間を潰した。
ワーウルフの集団が居たせいか、しばらくは魔物も出ることなく進んでいく。昨夜の事が原因なのか、皆口数も少なく黙々と歩いていく。歩きながらフォルを近くに呼び、例の種の種類を教えてもらう。思ったより種類が多いようだ。
眠りを誘う花。葉を食べると楽しい気分になる多肉植物。戦闘時の気持ちを高揚させる花――コレが昨日使ったやつか――。それから治癒力をアップさせる花。そこら辺が薬効を持った植物のようだ。後は、肉食植物と吸血植物と言う危険そうな種もあるという。それと敵を拘束したりするような蔦系の植物の種。
なんとも使いにくそうなのが多いが、治癒力アップはみつ子が回復出来ない時とかは有効そうかな……。でも様々な特殊な植物の種を無理やり成長させ使うというのは木魔法の独特な使い方のようで面白いな。
でも使うときは俺の許可制とした。
草木が殆ど無くなり岩と土で荒れた大地を進んでいくと先に小高い丘が見えてきた。すぐに着くかと思ったが、丘の登りに差し掛かる頃にはだいぶ日も傾いていた。
「ううん。登り切る頃には暗くなってるか、ここらで野営する?」
「そうだねえ。昨日はあまり寝てないし、早めに休憩したい」
この日の夜はそこまで問題となる襲撃はなかった。リザード系の魔物が割と出るためこっそり近づいてくるのが厭らしいが、まあ、起こされることもなく朝を迎える。
「おおおお。これは……」
丘を登りきると目の前には巨大な円状のくぼみが開いていた。半径も数キロあるんじゃないかという異様な光景に言葉をなくす。
「省吾君、これってクレーター?」
「そんな感じだよな。噴火口にしては山の上って感じじゃないし」
「どのくらいの隕石が落ちるとこんなふうになるんだろうね」
「よくあるメテオストライク的な魔法だったら脅威だよな」
「うん……」
巨人の皿は、ずばりコレだろう。ていうか隕石とかの知識がない世界ならコレが不可思議なものとして謎の遺跡扱いになりそうだよな。まあここまで来る冒険者なんてほとんど居ないんだろうけど。
皆も圧倒的な景色に魅入られていた。
クレーターの周り伝いに西側に回っていく。中心部を覗いてもなにかあるかは分からないがもしかしたら隕石とかが残ってたりしないか。隕鉄でも見つければなんとなく伝説の剣とか裕也に打ってもらえそうかなとか考えるのだが。まあそのうち時間があるときだな。
魔物にも遭遇しないまま西側の頂点と思える辺りまでたどり着き、今度は真西に向かって歩く。
「そういえばさ、さっきの巨人の皿? シュザイハンの冒険記には乗ってたのか?」
「うん、そう言えばあったよ。巨人の皿とは書いていなかったけど巨大な凹みの記述はあったかな。でも、今まで来たようなルートじゃ無かったからやっぱり山の集落までたどり着けるような道は内緒にしていたんだね」
「まあ、そこらへんはちゃんとボカしていたのか」
ていうか村でルート教えてもらえてほんと良かったわ。
巨人の皿からしばらくは荒れた土地が続いており、見通しも良かったため走りながら進む。少しでも時間は稼ぎたい。それでも魔物は出てくるためレベルも上がり修行旅行としても成り立ってるような気分になる。
1泊挟み、再び森の中に入っていく。道なき道を藪こきしながら進むため再び進むスピードは遅くなっていく。この先に湖があるということだが……森の中で2泊するがなかなか森も切れず不安になってくる。
「おお~。省吾君レベルアップ来ました~」
「ま、マジすか。くそお。ちょっとみっちゃんしばらく後衛ね」
「ふふふ。やばかったら助け求めてね」
「んぐっ」
ブレードタイガーの牙を引っこ抜いてるとみつ子が嬉しそうにレベルアップを告げる。他の皆も続々とレベルを上げ、いい感じで戦力は増強を続ける。結局3泊目をし、森の中で4日目にいよいよ木々がまばらになってきた。森も少しずつ上り坂になっているのか標高もそれなりに高くなっているのかもしれない。気温も少し涼しくなってきている。
「それにしても湖が無いな。そろそろ有ってもいいと思うんだけど」
「お前、水の魔法使えるなら水源とか解らねえのか?」
「え? いやあ。無茶言うなよ。それよりエルフって水の精霊が多い場所とかそういうのは感じ取れないの?」
ショアラに振るが、そういうのはハイエルフくらいに成らないと分からないと言われる。居るのか。ハイエルフ。
進んでいくと1本周りの木と比べかなり背の高そうな木を見つけ、登ってみることにする。今の身体能力ならそんな苦にならなそうだ。
……
西の遠くの方に断崖絶壁の岩山が連なって見える。地図にあった「終の壁」じゃないかな。てことは湖を飛ばしちまったのかな。だけど「終の壁」を抜けるには湖を見つけたほうが早そうだしな……。
注意深く周りを見ていくと南の方にキラリと光るものが見えるのに気がつく。
「ん……あれか?」
方角を忘れないように気をつけながらスルスルと木から降りる。下で待ち受けるモーザが聞いてくる。
「分かったか?」
「多分だいぶ南の方にある。かなり北にずれているっぽい」
「見つけただけ良いか。こんな所で迷ったらアウトだからな」
「まあ、終の壁も見えてきてるからなんとかなりそうだけどな、とりあえず湖目指すか」
俺たちは方向を修正して、湖を目指すことにした。
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