第165話 パワーレベリング 3

 みつ子が司祭にこまめに回復魔法を使ってあげることで、なんとか溜まり場の辺りまでたどり着く。そこからいつものパワーレベリングが始まった。


「ほっほう! 確かこれはレベルが上った印だな」


 2匹目のフォレストウルフでいきなり変な叫び声を上げ、太っちょ司祭は喜んでいる。


「おめでとうございます。今コレでいくつに?」

「ん? 3だな。昨日調べたら2だったから」

「さっ3ですか。今日は3つ4つ上げたいですね……」


 まじかよ、生まれてこの方ほとんどレベル上げしてねえんじゃねえか。チラッとみつ子の方を見ると、みつ子も苦笑いをしてる。うん。可愛い。癒されるぜ。




 昼ぐらいにようやくもう1つレベルを上げ、そろそろお昼でもと休憩をしようとした時。みつ子が警戒したように森の奥の方を見つめる。


 なんだ?


 俺も少し身構えながら奥をじっと見ていると、1人の警備団員が息を切らしながら走ってくるのが見えた。装備が軽装なので伝令役なのか?


「どうしました?」


 警備団員に声をかけると、気がついた警備団員は少し足を緩めコチラに大声で叫んだ。


「奥の方でオークが出た。ハイオークかもしれん。お前たちも街まで戻れっ!」

「なっ。他の団員の方は?」

「かなりやられた。小隊長が踏ん張っては居るが……俺は増援を呼んでくるが……間に合うか……」


 まじか……伝令付きだと小隊レベルだよな。そんなオーク……まさか。あいつか!


「みっちゃん。団員さんに回復魔法を! 団員さん少し北にずれています、ゲネブはあっちの方です!」


 みつ子がすぐに団員に回復魔法をかける。団員はありがたいと礼を良い再びペースを上げて俺の指し示した街の方に向かって走っていった。


 ……ちょっとまて。団員の走ってきた方角、今日モーザが行く予定の溜まり場がある方じゃないか?


 振り向くと司祭はオークの話に怯えきっている。仕方ない。


「みっちゃん、司祭をお願いしていい?」

「え? 1人で行くつもり?」

「司祭を連れてはいけないだろ」

「だけど……私も行く」


 ぬう。確かにあいつが居るのなら、みつ子が居たほうが対処は出来そうか?


「しょうがないか。司祭さん、おぶりますので背中に捕まってください」

「お、おう。おう」


 ぐ……重い。

 軽く<剛力>使うか。


「みっちゃん。行くよ。モーザ達だけでも回収しよう」

「うん。わかった」


 声をかけると、団員がやってきた方に向かって走り出す。司祭は街に戻るのかと思っていたのか。方向が違うと騒ぐが、申し訳ない。1人にさせられないので連れて行かせてもらう。ビジネスマン失格だな俺。だけど危険な目には合わせませんからっ! 



 しばらく走っていくとスティーブの姿が見えた。担当の司祭は地面に横たわる団員に必死に回復魔法をかけていた。くっそ。モーザも異変に気がついちまったか。


「ショーゴさん! モーザさんがっ」

「どっちに行った?」

「この奥の方ですっ!」

「くそ……」


 みつ子もすぐに団員に駆け寄り、回復魔法をかける。司祭のそれとは違う濃縮された魔力が放出され、団員が一気に回復していくのが見えた。よし助かりそうだ。


「すっすまん。助かった」

「いえ、気にしないでください。スティーブ、司祭2人をゲネブまで連れてってくれ」

「え、だけど」

「時間がない。すぐにモーザを追わないと。今頼めるのはお前しか居ないんだ」

「……わかりました」

「団員さんもだいぶ出血したようですね。一緒に街まで戻ってください」

「しかし……いや……すまん。仲間を……頼む」

「約束は出来ませんが……」


 そう言うと、森の奥に向かう。全力ダッシュにもみつ子は着いてくる。頼りにするよ?



 やがて森の奥の方で濃厚な魔力の靄が見えてくる。やはりこの感じ見たことがある。

 人間より頭3つ4つデカイもっとか……見たことの有る赤黒いオークが戦闘をしていた。モーザは――いた。よし。間に合った。


 やはりあいつだ。以前オークの集落を攻めた時に、最後に出てきた親玉だ。1人で警備団の中隊を退け、あの副団長の腕を切り落としたやつだ。やばい。今回も逃げられるのか。少し不安が頭をもたげる。


 

 モーザはオークの親玉と正面で戦う団員の後ろからこまめに槍を突き出し牽制をするように戦っている。見る限り戦っているのは2人だけだ。他は……殺られたか。


 今やモーザも魔力操作を覚え槍先に濃い魔力を纏いながら戦っている。オークもモーザの突きを無視できずその度に対処に追われていた。おかげで最後の団員もなんとか戦えている感じか。少し年配だ……まさかボーンズさんか?


 しかし以前の副団長程の実力はない。劣勢に成りながら懸命に守りに徹している感じだ。


 ――まずい。


 正面で戦っていた団員がオークの剣での一撃を受ける。


「ぐあぁああ!」

「親父!!!」


 よろめく団員にオークが追撃をしようとする。必死にモーザが邪魔をするが、オークはモーザの槍を掴みモーザごと右に放り投げた。まずい。俺の手が届くまで、3秒ほど……


 ゴォオオオ!


 後ろから火の槍がオークに向かって飛ぶ。俺の横髪がチラチラと燃えるが気にしない。俺も必死に<魔弾>を飛ばす。


 オークは流石にみつ子のファイヤーランスを無視できなかったのか追撃の手を止め避ける。そこに俺の<魔弾>がぶつかるが少し顔をしかめるだけ。ちっ。


 だが。間に合った。


「うおおおおおおおおおお」


 <ラウドボイス>に<咆哮>を乗せ叫びながら魔力を込めた全力の一撃をオークに叩き込む。咆哮はほぼ効いていないか。俺の一撃は防がれるが構わない。<剛力>を常時発動させたまま2撃3撃と叩き込む。その間に、みつ子が倒れている団員――ボーンズさんを抱きかかえ距離をとる。


『貴様! ヨウヤク見ツケタゾ!』

「は? まさかの俺狙いかよ。勘弁してくれっ」


 オークと切り結びながらみつ子に声をかける。


「ボーンズさんはどうだっ!」

「意識は戻らないけど傷はなんとか間に合ったわ!」

「よしっ! 少し遠くまで避難してくれ!」


 オークは俺とみつ子のやり取りを聞きながらニヤリと笑う。


『ヤハリ、オマエノ言葉ハ、ワカルゾ。何者ダ?』

「知るかっ! オークの楽園に帰れ馬鹿野郎!」

『オマエヲ殺シタラソウスル』


 くっそ。あの時にやりすぎたか。しかし、お前の弱点は覚えてるっ! 剣撃の隙間にローキックを混ぜる。


 スカッ


 俺のキックに合わせオークは脚をスッと上げる。うぉお。避けやがった。焦りで体勢が崩れたところを上げた脚をそのまま俺の胸めがけて蹴りつけてきた。<直感>が働きとっさに後ろに飛ぶが全然威力を減らせてねえ。


 ゴォオン!


 オークの蹴りを胸に受け、吹っ飛ぶ。痛え!超痛え! 間髪入れずオークは高く飛び跳ね上空から倒れている俺を斬りつけようとする。厳しい。


「省吾君!!!」

「ショーゴ!」


 ボーンズさんを連れて現場から離れようとしたみつ子が再び火の槍を飛ばし。モーザも槍投げの様に槍をオークに向かって投げつける。


『グオオオオオオ!!!!』

 

  空中でオークから更に濃い魔力が滲み出てくる。


 ドォオン!!


 オークはみつ子の火の槍もそのまま受ける。オークは火に包まれたままギラギラした目を俺から離さない。怖え!!! 濃い魔力でモーザの槍も鎧に跳ね返される。まずい。


 <魔弾><魔弾><魔弾><魔弾><魔弾>!!!


 俺は必死に魔弾を連発させながら必死にジリジリとあとすざりをする。たとえダメージを与えられなくても空中に居れば作用反作用の法則に従い……。


 ドゴォオオン!


 オークの渾身の一撃が俺の目の前で土にめり込んでいく。


「危ねえ!!!」


 後ろにでんぐり返りをしながら必死に立ち上がる。あと数ミリで俺のイチモツが二股に分かれるところだった。すぐさま立ち上がり剣を土にのめり込ませているオークに向けて剣を振る。 


 ボッフゥアア!


 オークは土に刺さった剣をそのまま振り上げ、俺の一撃を防ぐ。飛び散った土が口に入る。ぺっぺっぺ。コノヤロウ。


 改めてオークを見る。みつ子の攻撃でダメージを受けたのか左半身が少しえぐれ火傷を負っている。それでもギラギラとした眼光は俺を見据えている。戦闘民族過ぎるぞこいつ。


「モーザ! 魔力は?」

「剛力を使い続けたんだ。厳しい」

「くっそ。剛力は燃費悪いかなら」


『ソノ体デ、ソノ力、大シタモノダ……ナルホド、剛力カ』

「うるせい。ナチュラルパワーだ!」

『我ニモ有ル、ト言ッタラ?』

「は???」


 ニヤリとオークが笑う。


 ゾクリ。


 嫌過ぎる<直感>

 こいつ……マジだ。

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