第164話 パワーレベリング 2

 1日休日を挟みまたパワーレベリングが始まる。


 朝、東門を出ようとすると門番から声がかかる。


「2日3日前から狩人が1人帰ってこないらしいんだが、森の中でなにか見たか?」

「いや、特に気がついたことは無いですが」

「そうか、まあ死体とか見かけたら教えてくれ」

「はい……」


 狩人が森の中で事故る話は別に珍しくないと思うが。依頼人はビビるよな。こういうの。こういう時は何でも無いような顔で安心させるのも必要だな。


 溜まり場は、前回と比べ遭遇率は下がる気はするが、3日置いたせいかそれでもレベリングは何事もなく進んでいく。3日やったら、休みの日はモーザとスティーブを誘って森の中で練習とかするのもありかもな。対人と対魔物は違うがお互いに乱取り的に稽古をつけたりしてみよう。



 次の日には二人の司祭はレベルが10に成った。初めの5日連日予定だとこれで5日なので終了となるのだが、3日毎に1日休みを入れるようにしたため、そのまま6日セットでとお願いされる。本来は本部からレベル15くらいをと言われているようなのでそういう話になったのだが。レベルが上がるごとに次のレベルアップまでの必要な経験値的なものが増えていく、レベル15を目指すとなるとフォレストウルフメインでは時間がかかりすぎるんだよな。




 1組目の最終日、朝起きて事務所に行くとモーザが深刻そうな顔で話しかけてくる。


「一昨日門番に言われた話覚えてるか?」

「ん? 狩人が帰ってこないって話か?」

「ああ、昨日の夜親父から聞いたんだが、他にも2組ほど連絡取れなくなった狩人がいるらしい」

「……なにか近くに高ランクの魔物でも近寄ってきてるのか? 狩人ってのは冒険者と比べて戦力的にはどうなんだ?」

「ここら辺で狩人をやっているのは、主にフォレストボアか鳥系の魔物を狙うくらいだからな、そこまで奥に行く訳じゃねえから単純に戦闘力で言えばEランク、よくてDランクってところだな」

「そんなものか……だけど今日のレベル上げ中止したほうが良いかな」

「一応、今日第三警備団の小隊を2つ編成して森の中を調べると言うから大丈夫だとは思うが……」

「そっか。一応は安心だな。ただ何かあったらお客様第一で逃げろよ」

「わかってる」


 ううむ、割と簡単な依頼だと思っていたが、たまに強い魔物が近隣に出没すると厳しくなるなあ。今の4人だと大抵の魔物なら問題ない気がするんだが、二手に分かれるのもあまりうれしくないな。


 話を聞いていたみつ子が、「私、スティーブ君と交代してモーザ君の方に行く?」と提案してくる。確かにBランクの冒険者のみつ子がそっちに行ってもらうと少し安心はあるが。モーザは顔を真赤にしながら大丈夫だと突っぱねる。


 おや? 案外女性耐性無さそうだな。モーザ。



 その日の夜は仕事明けの4人でジローを啜っている。祭りの宣伝効果が出たのか最近少し客が増えている気がする。まあ、いい傾向だな。ベルも必死に働いているぜ。


「結局何もなかったな」

「ああ、でも不安を抱えたままレベリング続けるのも嫌じゃね?」

「明日4人で少し森の中を見て回るか」

「わかった。明日な。日の出から出るか?」

「うわ。モーザ分かりやすいな。ストレス溜まってるだろ?」


 フリーで森の中に入れるとなると少しモーザが嬉しそうになる。逆にみつ子は、日の出かあ。とげんなりした顔になっていた。休日のつもりでゆっくり寝たかったんだろうな。




 みつ子は問題無いよと言うことで、ペースはスティーブに合わせる。索敵はモーザの<気配察知>とみつ子の<魔力察知>を頼りに走る。みつ子は<ウィンド>を身にまとうように、いや追い風になる感じになるようにか? 練習しながら森を走っている。負けじと俺も<光源>を龍珠の横に一緒に漂わせるような感じで出現させ走る。


 目ぼしい魔物が出ないまま昼を迎え、不満げにモーザが呟く。


「なんもいねえな」

「まあ、やばいのが出てこないほうがいいんじゃね?」

「そうなんだがな……」

「いや分かるよ? 戦いたいもんな。ある程度今の仕事が落ち着いたらまたダンジョンとか行こうぜ」


 モーザはちょっとつまらなそうだ。でもパワーレベリングをしている場所からかなり奥には来ている。ここら辺で問題なければ大丈夫な気もするが。

 そこから北の方に回りながら、特に何もないままゲネブに戻った。とりあえず明日からまた普通に行けるかね。




 新しい組のパワーレベリングが始まる日だ。また低レベルからなので少し歩くスピードは遅めのほうが良いか、なんてことを考えながら事務所に寄ると、モーザが近づいてくる。


「カポの集落に詰めていた警備団が2人連絡が取れなく成ったらしい。今日も数小隊が森を探すということだ」

「まじか……でも龍脈の中の集落だろ? 魔物じゃなくて盗賊って事か?」

「それは分からん。1日に何回かは砦から出て辺りをチェックして歩くからな、その時に狙われたかもしれねえし」

「親父さんは大丈夫か?」

「ああ、親父は今日森の散策をする小隊に入ると言ってたが……」


 うわあ。なんかスッキリしねえな。今日は小隊が森の中に入るなら安心ではあるかもしれないけど。落ち着くまでレベリング断ったほうが良いような気がしてきた。


 東門で司祭たちと落ち合う。今日初めての人たちなので自己紹介と簡単にパワーレベリングの説明をして森の中に入っていく。今日の俺の担当する司祭はやや太り気味だ。ちょっと速歩きすら怪しい気がする。もう1人の方を選ぼうとしたら先にモーザに取られたんだ。


「フー。フー。フー。きっ君たち。もうちょっとゆっくり歩けないかね」

「厳しいっすか。魔物が出やすい場所がもうちょっと奥になるので少し急ぎ目に行かないと時間内であまり狩り出来ないんですよ」

「フー。なんでも。君たちは。魔物を。気絶させられる。らしいじゃないか」

「はい、そうですね」

「だったら。フー。気絶した。魔物を。ゲネブまで。フー。持ってくれば。良いじゃないか」


 おいおい。太っちょ司祭はダメダメだなあ。そんな面倒なこと勘弁してくれよ。ていうか自分に回復魔法使うの早くね? もうちょっと体力残ってるだろ。


 自分に回復魔法を掛けてやっとこ着いてきた司祭だが、数回魔法を使うと魔力が尽きたのか、やがて疲れて座り込む。やっぱちょっと魔法使いすぎじゃね? 魔力足りないからのレベル上げなんだから、自分の魔力量考えて使えよ。


 そんな司祭を眺めながら、ちょっと困ってしまう。みつ子に合図をすると、みつ子が司祭に回復魔法をかけてやる。


「なっ君は回復魔法が使えるのか?」

「一応、ちょっとだけ」

「まだ何回か使えるか?」

「初期魔法なんでいくらでも使えますよ」

「なっ!!!」

「私はレベルが40超えていますから、司祭も頑張ってレベル上げればそれだけ魔法を使えるようになりますよ。頑張ってくださいね」

「ぬ。ぬう」


 ……なにっ! みつ子40超えてるのか??? まずい。確かにアルストロメリアで高レベルの魔物をいっぱい狩るような依頼をやっていればレベルはグングンあがりそうだ。俺なんてあまり高レベルの狩りの機会が無いからレベルが微妙じゃないか。


 そんな俺の内心を知ってかみつ子が俺の方にも話を振る。


「ね、省吾君」

「お、おう。そうだな」

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