第163話 パワーレベリング 1

 次の日からパワーレベリングが始まる。俺とみつ子、モーザとスティーブの2班でやっていく。とりあえずは1組5日を目安にということだ。


 事務所は無人になってしまうので、入口のドアに「ご依頼などの用件は1階のジロー屋「カネシ」に言付けをお願いします」などとデカデカと貼っておく。依頼が有ればみつ子やスティーブに対応してもらおうかと考えている。


 ジロー屋のオヤジに頼んだ弁当を受け取り、待ち合わせの西門に向かう。西門には、年配の男性司祭が2人待っていた。


「ご依頼を受けましたサクラ商事です。よろしくおねがいします」


 多分俺達の話は聞いているとは思うが、やはり若いのが4人でやってくると少し大丈夫なのかと警戒する素振りは見せる。しかしそんなのにいちいち構っていられないので、俺の班とモーザの班に分けて早速森の方に向かった。


「失礼ですが、現在のレベルを伺っても?」

「あ、ああ。今は5だ」

「了解しました。それでは少しづつやっていきましょうか」


 モーザと地図で魔物の群れやすい場所を振り分けてあるのでまっすぐに向かっていく。やはり駆け足だと厳しそうなので少し速歩きくらいのスピードだ。


 それでも、途中で休憩などを挟んで行く。移動時間が一番多そうだな。




「え? なに? 今何したの???」


 出てきたフォレストウルフを昏倒させると、みつ子が驚いて聞いてくる。司祭さんが聞いているとちょっと話せない。自分たちで魔法を調達してレベリングを始めちゃったりしたら美味しい仕事が減るかも知れないからな。とりあえず後でねと、司祭にトドメをさしてもらう。


 一度これを見せると、途端に司祭さんの信用度が増すらしく。歩くのはキツイはずだが頑張って森の中を歩き回ってくれた。と言っても司祭さんは回復魔法を持っているのでどうしても厳しい時は自分を回復させたりしている。


 モーザと調べておいた場所はやはりちゃんと多めに魔物が出てくれるので計画的に進む。時間で言えば夕方の3時位になると再び街に向かって帰る。単純で地味な仕事だが個人的には森の案内をする自然公園の管理人の人たちみたいな気分になる。



 モーザとの打ち合わせで、次の日は同じ場所に行かないで違う溜まり場を使うことにしている。どのくらいで新しく魔物が湧くのか分からないが転生してすぐに裕也と森を歩いた時に日を追うごとに魔物の出現率が下がってきた記憶がある。今回7つの溜まり場をピックアップしているので、1箇所は予備として3日間は毎日違う場所に行って狩りをする予定だ。


 ただ、当初の予定は5日パワーレベリングをして2日休むと言う話だったので、帰りに司祭さんたちに3日やって1日休む感じに変えても良いか聞いてきてもらうことにした。溜まり場の都合を考えるとその方が少しは魔物の数が整うんじゃないかという話だ。



 次の日も同じ様にパワーレベリングを行う。3日やって1日休む案はめでたく受理された。前日に2つレベルを上げられたので歩くスピードを少しだけ早めたり、今後少しずつ丁度いいペースを探っていくつもりだ。


 この日は夕方に帰宅後、騎獣舎に行き商業ギルドでの口座振替の手続きなどを行う。みつ子は<ノイズ>と<ラウドボイス>が欲しくなったようで大聖堂に行こうと言うが、あそこは役所みたいな感じで店じまいも早いから夕方になれば多分空いていないだろう。休みの日にでも付き合うからと約束をする。


 モーザは2日目にして、早くも「退屈だなあ」なんて言っているが、本来仕事というものはこういうものだ。サクラ商事の為に身を粉にして働いてほしいものだ。こうして地味ながらも着実に仕事を得られるのは経営者としてはありがたいんだ。



 無事に3日目を終えると、みつ子に付き合い大聖堂に向かった。


「おお、これは王都の大聖堂にも負けてないですよ」

「みっちゃんまだゲネブを田舎だと思ってるだろ。王都が東京だとしたら、ゲネブは福岡みたいなものだからな。大都会さ」

「大阪じゃなくて福岡なんだ」

「位置的に南の端の方だからなあ。ゲネブ並に大きい街って他に行った?」

「ゲネブくらいの街だと王都くらいかなあ、あでも北のルブラの街は大きかったよ」

「聞いたこと無いなあ」


 ルブラの街は、パテック王国とリシャール公国との国境に近い所にあり、防御の要として国費を投入しかなりデカイ要塞都市となっているらしい。リシャール公国は過去の勇者に肩入れをして逃亡を助けたとしてしばらくの間小さな衝突が続き、国交も途絶えていたらしいが、前王の時期に再び国交を開き、今ではそれなりに友好を保っているという。そのおかげで商業の方も交易都市として賑わいを見せているようだ。


 ゲネブで一年弱暮らしている中で勝手にパテック王国の隣は帝国があるものだと思っていたが話を聞くと少しイメージが間違っていたのに気がつく。ただ、リシャール公国は帝国から分離した小国で、内陸の山の方は帝国領となり、その部分は王国と接しているようだ。




 大聖堂に着くと、そのままスクロールの売店に向かう。確かにみつ子も祝福持ちでスキル容量はかなりデカイのだろう。<ノイズ>と<ラウドボイス>があれば3班でのパワーレベリングも考えられる。


「申し訳有りません、ラウドボイスは1つありますが、ノイズのほうが今切れていまして……」


 ぬ。そう言えば俺たちで買い漁ったからな、まだ入荷してなかったか。話を聞くとスクロール自体は本拠、ヴァシュロニア教国で作られ各国の本部大聖堂に送られ、さらにそれを振り分けて各地の教会などに振り分けられるようだ。そのためある程度のバランスは取っているとは言え、ランダムに届くもので次いつノイズが来るのかは不明だという。


「ただ、もしどうしても入り用でしたら、近隣の村々で余ってる物を送るように言付けできます。それでも一ヶ月はかかるかもしれませんが、ノイズでしたら余っているところがいくらでもあると思いますので……」


 なるほど、一応ダメ元で頼んで見る。みつ子はちょっと悔しかったのか、何か良い魔法が有れば買っていくと在庫確認を初めた。Bランクの冒険者証を見せていたので聞くと、Bランクの冒険者も貴族特権のようにある程度レアな魔法も融通してもらえると言う。


 何個かの基礎魔法を前にみつ子がどうしようかと唸っている。

 新しい魔法かあ。


「メインが火なんでしょ? だったら風じゃない?」

「え? なんで?」

「なんでって。火が燃えるのに酸素が必要でしょ?」

「うーん。理科の話ね」

「いやいや、理科とかじゃなくてさ。ガスバーナーだって空気の流れを作ることで火力上げるでしょ? 炭を起こすときもうちわで扇いだりするでしょ?」

「おおお。省吾先生! 良さそうですねっ!」


 無事に<ウィンド>があったのでみつ子はそれを購入する。俺も何か欲しかったが……今度だな。パワーレベリングのお礼でまた良いのを入手するとしよう。


 その日はずっとみつ子の相手をしながら、ハヤトがやっていた風魔法を体に纏ってクッション的に防御する使い方や、空中で体勢を変えたりといった使い方の話をした。ただ、アルストロメリアにも風魔法の使い手は居るようで、イメージは出来ているようだったが。


 みつ子は<ファイヤーボール>から火魔法を発展させていったんだと言う。話を聞くに基礎魔法の<ファイヤー>じゃなくても発展はさせていけるのか。まあ、攻撃魔法は値段が跳ね上がるから俺が買うときはやっぱ基礎魔法を買いそうだけど。

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