第166話 パワーレベリング 4

「お前ら逃げろっ! やべえ!」

「はぁ? フザケルな!」


 くそっ。やはりモーザは下がらないとは思ったが……。ん。俺の言葉は分かっても、モーザの言葉は解らねえか???


 それなら。


「そういう事だっ! 3人でバラバラの方向に逃げるぞ」

「お前、何言って――」

「合図をしたら行くぞっ!」


『オ前を逃ガスト思ウノカ?』


 鬼の形相でオークが言う。怖い怖い怖い怖い。無視だ。今は相手しねえ。


「太! 陽! ――」

『無駄ダ……』

「拳 !!!」


『ングッ!!!』


 オークの目の前に全力最大光量の<光源>を発生させる。と言っても目が眩むほどの光量はまだ出せねえんだがな。だが目の前に出せばそれなりに目くらましにはなる。きっと以前コイツにやったレーザーがきっと脳裏に焼き付いてるはずだ。


「今だ!」


 合図とともにオークから逃げるように走り出す。感知圏内でモーザが戸惑いつつボーンズさんの方に向かうのだけは解った。やはりオークの狙いは俺だけのようだ。みつ子やモーザを無視してすぐにこっちに向かって走ってくる。よし。いい感じだ。……良いのか?


 気配感知の利点は後ろを向いていても感知圏内の敵の動きが分かることだ。やっこさん、すぐにこちらに向かっているのは分かる。だが。分かるのも怖いもんだ。どんどんと距離が近づいてくる。駄目だ。速すぎる。怖い怖い。やっぱ逃げるのは無理そうだ。


 逃げられねえなら……やるしかねえよな。


 俺に追いつく寸前でオークが剣を振りかぶるのが分かる。それに合わせて急制動。振り向きざまに横にずれながら胴を抜きにかかる。


 ガガガガクヴォン!


 ぐおお。オークの胴鎧に阻まれ刃が体まで届かない。魔力が足りなかったか。一瞬驚くオークだがすぐに切りつけてくる。


 ガコォン!


「やべえ、腕が吹っ飛ぶ!」


 確かにこいつは<剛力>を使っている。さっきとぜんぜん違う。完全に力負けしている。一撃一撃刃を合わすたびに腕が持ってかれそうになる。やばい。助けて。


 その時、体が仄かな光に覆われる。と同時にメキメキと力が湧いてくる。みつ子か。


 すぐに俺たちの後ろを着いてきていたみつ子が俺にバフを掛けてくれた。そうか、みつ子がバフを持ってるのを完全に忘れてたな。よし。これなら対抗できそうだ。

 おそらくオークは俺に夢中でみつ子の存在に気がついてない。このまま気づかれずにみつ子に必殺のスキを狙ってもらうのもありか……よし。


「お前なんてオレ一人で十分だぜ!」

『強ガリヲ!』


 だがオークは隙がない。以前もそうだったが危険な一撃にはスキル的なもので反応してくる。そして攻撃も素早く、力強い。いくらバフと<剛力>があっても、力をいなさないと捌ききれない。あれ? みつ子は何してるの? なんで木の陰で見てるの?


 少しずつ体に切り傷が増えていく。くそっ。何か……逆転の1手は……。


 ……ん? そうだ。


 オークと切り合いながら少しずつ俺の上に浮かぶ龍珠をオークの方に移動してみる。気づかれないよう少しづつだ。そして……オークが剣を振り下ろす瞬間に合わせ体をオークにぶつけるように近づく。怖えよおい。


 オークの剣筋上に龍珠が漂う。


 ――壊れねえよな?



 ガキン! バリッ!バリバリバリ!


『グガガガガガッガ!!!』


 龍珠に思い切り切りつけたオークが白目をむき、雷に打たれたように全身を痙攣させる。龍珠は……元気に浮いてる。やるなガル!



 グザリ


 こんな隙を俺が見逃すわけは無い。全力で魔力を込め。俺は一気にその心臓のあたりに根本まで剣を突き刺す。


 ガハッ。


 オークは血反吐を吐きながら胸に突き刺さる剣を眺めている。


『ワ……我ガ……コンナ……人間ゴトキニ……』


 そうして、オークの目から光が消えていった。


 ハア、ハア、ハア。


 い……行けたぜ。





「やったね、省吾くん!」


 木の陰からみつ子が嬉しそうに近づく、手を上げて応えようとした時、強烈な目眩に襲われる。 若干の吐き気まで感じ思わず座り込む。それを見て心配そうにみつ子が走ってくる。


「おおおうっっぷ」



「大丈夫???」

「なんか、すげえレベルが上ったかも、今までで最高に目眩が」

「ああ、レベルアップ酔いか。びっくりしたよ」


 みつ子はにこやかに俺の切り傷を魔法で治していく。本当は<強回復>でちょっとした切り傷なんて既に治って血の跡が着いているだけなんだが。あえて受け入れる。


「あまり無茶しないでね。オレ一人でやる! なんて言ってるから手を出さないようにしていたんだけど、もうハラハラして魔法撃っちゃおうか悩んだよ」

「え?」

「ん?」

「い、いや……みつ子がついて来ているのを悟られないように、言っただけだったんだけど……後ろから強力なのやってくれるかなって……」


 みつ子が驚愕に染まった顔のまま固まる。


「……まじですか?」

「……うん」

「……テヘペロ♪」

「お、おう」


 おいおい。テヘペロって、かなり古い言葉じゃね? みつ子ホントに20代で死んだのか? でもまあ……かっ可愛いから許しちゃうぜ。


 うん。だって……人間だもの。



 オークの死体を引きずりモーザ達の所まで戻る。


「お、おい。あれを殺ったのか?」

「おーモーザ。なんとか成った。もう死ぬかと思ったけどな」

「……くっそ。オークの集落に居たっていう化け物だろ?」

「ああ……まさに化け物だったな」

「その化け物をお前らは殺ったんだぞ」

「ふう、ちょっとは強くなってるな」


 とりあえずモーザ達のところまでオークの死体を運こび座り込む。伝令役が助けを呼びに街まで行ったということで、しばらくここで待つことにする。道のない森の中だ、行き違いに成ることもあるだろしな。


 ようやく意識を戻したボーンズさんも、モーザの生存にホッとしたものの仲間たちの亡骸をみて、改めてショックを受けていた。当然だな。俺達もあまり喜んではいられない。


 団員たちの亡骸を集め、ならべる。4人も犠牲になった。いや、カポの集落に居た団員や行方不明の狩人達を考えると犠牲者はもっと多い。


 みつ子と2人で手を合わせる。そんな日本のやり方を不思議そうに見ていたボーンズさんが話しかけてきた。


「ショーゴ君に預けて正解だったようだな。礼を言うよ」

「え? いや。とんでもないです。いつもモーザには助けてもらってます」

「サクラ商事に入って、こいつもなんだか毎日が楽しそうでね」

「お、おい親父止めろ」

「仲間が居ると居ないとじゃ、人生の豊かさが変わってくるからな」

「あとは嫁さんでも探しましょうか」

「はっはっは。いい娘が居たら紹介してやってくれ」

「バッバカヤロー!」

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