第167話 パワーレベリング 5

 救援に来た部隊は、クルト団長の率いる精鋭たちだった。あの副団長でさえ勝てなかった相手だ、当然の選択だろう。到着した時には全て終わっていたため団長の戦いは見れなかったが、到着時のギラギラした闘気はヤバすぎだった。


「君は……以前トロールの?」

「はい、お久しぶりです」

「そうか、これは君が殺ったのか?」

「仲間に助けてもらえたのでなんとか」

「ふむ……まずは感謝しよう。たすかった」

「いえ。仲間の命もかかっていましたので」


 クルト団長は俺のことも覚えていたようだ。モーザの時も公爵がクルト団長に言っておくと言っていたので、その後も情報的なのはあったのだろうけど。


「それで、その上の玉は魔法かね?」

「え? いや。これは良くわからないのですが……ある日朝起きたら浮いていて……」

「濃密な魔力を感じるな。何か精霊的な物なのか」

「良くわからないのですが、以前教会で<放電>のスクロールを使った時、何も魔法を覚えられなかったんです、それからしばらくしてコレが出来たんでもしかしたら雷の玉? なのかなあとか」

「ふむ……そんな話初めて聞くが……」

「今回も、オークに切りつけられた時、剣がコレに当たってオークが感電したように動きが止まったんです。その時に心臓に剣を刺したんです」

「なるほど。謎の玉に助けられたというわけか」


 なんとなく、良い言い訳を思いついたが実際雷魔法のスクロールが吸い込まれたのは本当だからな。多分。確かに雷を纏っていると考えても不思議じゃないよな。ビリビリするし。でも上手く使えばいい武器になりそうだぜ。


 それにしても、団長の「精霊的なもの」というのはごまかしで使えるかも知れない。ふむ。あとづけの雷の精霊からの守護的な?



 オークの死体と団員の亡骸を皆で手分けしてゲネブまで運ぶ。サクラ商事の面々も手伝わせていただく。そう言えばなんかいっぱいいっぱいで魔石を抜くのを忘れた。


「オークも持っていくんですか?」

「ああ一応な。オークもハイオークも普通は緑色の皮膚をしているんだ。こんな赤褐色のやつは聞いたことがないからな、希少種かもしれないんだ。だからゲネブの魔物を研究している機関に持って行くんだ」

「そういえば魔石を抜くのを忘れたんですが……」

「ああ、こういうときは魔石が入っていたほうが死体の状態が良くなるからこのままでいいか? その代わり検体の引取時にある程度値段付くように伝えておく」

「全然かまいません」


 おお、魔物の検体として買取してくれるのか。よしよし。


 


 ゲネブに戻ると報告のために大聖堂に向かう。

 今回の説明と今後の話もしておかないといけない。警備団の人にはまた調査が終わり次第謝礼が出ると言われる。こちらは少し楽しみだ。


 今回の一連の事件は恐らくこれで終わるだろう。だが顧客の不安が残っては意味がない。大聖堂で担当のブラン司祭を呼んでもらい話をする。今回の司祭2人は無事にゲネブに戻れたようだ、ちゃんと帰ってきたのも確認できた。


「それでは、今回の様な問題はもう起こらないと言うことで?」

「まあ自然を相手にするので、次に何かまた危険な魔物がゲネブ近郊に来ないとは言い切れませんが、基本的に森の中は定期的に警備団の方が巡回しているので問題はないと思います」

「なるほど、そうですか。魔物を相手にしているのでこちらも間違いが起こらないとは思っていませんが、今回のように何か有ればすぐに知らせてください」

「はい、わかりました。それで続きなのですが、数日僕らで一応森の中を回ってみて再度問題ないかのチェックはしたいので、レベリングの再開は3日……いや4日後でもよろしいでしょうか」

「それはかまいません。そこまでやって頂き感謝です。今後とも宜しくお願いいたします」


 うん。フォローは出来たかな。



 事務所に戻る。ソファーに3人が座ってお茶を飲んでいた。所長の机に座ろうとも思ったが、なんとなく疲れてるしな、みつ子が座ってる2人がけソファーに腰をかける。すぐにみつ子は小部屋の方に行きお茶を入れてくれる。嬉しいねえ。


「スティーブありがとうな」

「いえ、僕も戦えればよかったんですが」

「そこはだんだんとな、そんな焦る必要は無いから。それに司祭たちを街まで連れて行かなければならないんだ。何れにしても誰かに頼むことだし」

「はい」


 モーザがどうやってあのオークを倒したか聞いてくる。まあ、見てた感じ俺1人で倒せそうには思えなかっただろうしな。龍珠を使って相手を痺れさせた話をすると、ううむと俺の上を漂う龍珠を見つめる。


「こないだ触った時はそこまで強い電撃が有った感じじゃないけどな」

「どうなんだろ。前より少し大きくなったかな? 毎日見てると分からねえが……あと与える刺激で電撃の強さにも差が出たりするのかもな、俺が剣でつついた時もそこまで痺れた感じじゃなかったしなあ」

「でもさ、浮いてるだけじゃなくて役に立ったっていうのは、良かったじゃねえか」

「まあ、それはな。命救ってもらった気分だわ」


 その後、教会の方にはパワーレベリングの仕事を再開する前に安全確認で森の中をチェックすると話した事を伝える。4日後に再開するって話だから明日から2泊くらいで森の中を散策しようと思ってると。モーザが聞いてくる。


「でも、あのオークが原因ならもうなんの問題も無いだろ?」

「ああ、もちろん問題ないと思うけどな、せっかく時間取ったんだから少し奥に行かないか?」

「お? 良いぜ、気が利くじゃねえか」

「まあ、2泊だから超奥までは行けねえぞ? 一応予備でもう1泊分休みは取ったけど。レッドベアとかの辺りまで行ければそれでもモーザも楽しめるだろ? スティーブも親御さんに許可取れるか?」

「はい、多分大丈夫だと思います。裕也さんの修行から帰ってきてからあまり色々言わなくなってきた感じはするので」

「よし、じゃあ決まりだな」


 みつ子も少し楽しみそうな感じかな? 大丈夫? と聞くと当然ついていくわという反応だ。みつ子は回復魔法が使えるからなあ。居ると居ないとじゃ大分安心感も違う。このメンツならまあ、問題ないだろうな。


 それにしてもフォルはいつ帰ってくるんだ? エルフの集落は途中で龍脈の無い道を進まなくちゃいけないから、1人じゃ帰ってこれなそうだしな。そのうち迎えに行ったほうがいいのかな?

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