第168話 新しいスキル
一応泊まりという事で、食事など買いに行くと言うと皆着いてくる。ついでに靴屋に寄ると靴が完成していた。それを見てみつ子もサンダルを欲しがるので再び注文する。
ある程度準備を終えると、ついでということで夕食も4人で行く。始めはクレイジーミートに行ったのだが、少し混んでいて待っている客も居たので久しぶりにあすなろ亭で食事をとった。
食後にみつ子もそろそろ1人で宿に帰れると言うのでそのまま帰宅する。サクラにどっぷりと座りようやくゆっくりとした気分に浸る。
そう言えばレベルは上がったけど、ボス級の魔物を殺ると高確率でスキル来たよな。なんか良いの来てないかな。
ウキウキしながら目を閉じ、頭の中を探っていく。目的の物はすぐに見つかった。かなりのデカいスキルだ。おいおい、統合スキルの予感じゃね?
……
……
え?
コレってスキルなのか? 職業じゃね?
……うん
なんかヤバい気がする。
てか……。
<勇者>かよ!
マジかぁ。すごそうじゃね?
効果は?
……お、分かる分かる。ふむ。
ついた<勇者>スキルの中身はこうだ。<精神異常耐性><直感><逆境><筋力増加><魔力増加>の5つだ。今まで持っていた<直感>と<逆境>はその代わりに消えているようだ、探しても見つからない。
うん。良いっちゃ良いが、2つも被ってたか。効果的に3つ分増えた感じか。<直感>は持ってない人だと効果がデカそうだが。なんか嬉しさ微減だな。<逆境>はダメージを受けてHP的なのが減れば減るほど身体能力があがるものだから、たしかに勇者っぽい。だが既に持っていた。モーザが覚えたのも<魔力増加>だったな。まあ、<剛力>使える量が増えるのは実際嬉しいし、筋力の方も地味に嬉しいんだけどね。勇者ってくらいだしもっとオシャレなスキル有ってもいいのになあ。
うんでもそうだよな。なんかみつ子の力が強くなるバフが切れた記憶が無いかも。帰り道もまだバフがかかってる気分で居たかも。やっぱ倒した時のレベルアップ時に生えたか。
しかしこれは人に言って良いものなのか……
過去の勇者がこの<勇者>のスキルを覚えていたから勇者として扱われたとしたら、国として黒目黒髪に対して緩くなるとはいえ、なんとなく黙っていたほうが良い気がするな。黒目黒髪の俺が<勇者>スキルを持っている。トラブルの気配しかしねえよ。
ただ……くどいようだが、正直、<勇者>って言うくらいだからもっと大盤振る舞いしてくれても良い気がするが。贅沢言ってるか? 俺。
次の日、日の出の時間に事務所に集合する。
「省吾君、なんかニヤニヤして、嬉しそう~」
「お、そう? う~ん新しいスキルが生えててね、泊りがけの訓練も楽しみかなって」
「へえ、その言い方だとまだ言わない感じ?」
「にひひ。後でね」
なるべく奥に行きたいと言うことで、スティーブにも全力で走ってもらう。みつ子の回復を途中で入れることでスティーブの体力の欠点を補う形で普段以上のハイペースで森の中を進む。モーザも途中で回復を求めるくらいだ。
モーザもきっといろんな戦い方を模索しているのだろう、一度は<硬皮>と<剛力>を使い素手でレッドベアとやりあっていた。ちょっとアホだろって感じだが。
拳に<硬皮>を纏いものすごい勢いで殴っている。なんでも槍の間合いの中に入られた時の対処のシミュレーションらしい。時間はかかっていたがCランク相当と言われるレッドベアを素手で殴り殺す様は凄まじい。スティーブも顔をひきつらせている。でもかなり燃費は悪そうだ。2つのアクティブスキル全開だからな、当然だろうが。
スティーブは、始めはモーザとみつ子からバフを貰って1人でレッドベアと戦う。やがてバフ無しも試すがなんとか倒していた。スティーブも<魔力操作>を持っているのでちゃんと当たれば十分ダメージを与えられるんだ。自分の倍位の魔物だしビビるのは当然なわけで、その分踏み込みがどうしても甘く成ってしまうのが時間のかかる理由だろう、後は慣れかな。
みつ子にも戦ってもらったが……オーク戦で見せたファイヤーランスはファイヤーボールに物理的な攻撃力が混じっているようなものらしい。確かに見た目が違っても火の燃焼による攻撃ならあまり大差が無いように感じてしまうが、魔物の土手っ腹に穴を開けて後ろの木にまで飛んでいく。これをあのオークは少し肉をえぐらせて火傷だけで済ませた事を考えると、あの時の魔力の濃度の濃さを考えてしまうが、もしかしたら防御系のスキルとかだったのだろうか。
しかしみつ子。多分まだ全力じゃなかったんだろう。
2泊目の深夜。アサルトスパイダーと呼ばれる30cmくらいの毛むくじゃらの蜘蛛の魔物が大量に現れた時。その気味の悪さに半泣きのみつ子があたり一面に広大な焼け野原を作った。火炎放射に風魔法を交え、太さが直径1mもあろうかという巨大なバーナーの様な青い火で辺り一面を焼き払う。その火は多分25mプールの端から端まで届くくらいの長さがあったと思う。キャーキャー言いながら周囲の蜘蛛から樹木までを炭にしていった。
俺達は必死に、みつ子の火炎に焼かれないように逃げ惑った。
「ごめんなさい……」
「い、いや仕方ないよ」
「虫系無理過ぎて……」
モーザがやけどの治療をしてもらいながらビビりまくっている。なんか敬語で「大丈夫ッス」とか言ってるし。ていうかあれ、接近戦最強なんじゃね? ちょっと対抗手段が思いつかねえ。
しばらくしてようやく落ち着き、日も昇りだしたので寝るのを諦めて朝食の用意を始める。するとモーザが恐る恐る聞いてきた。
「で、たぶんこいつら、アサルトスパイダーだと思うんだけどさ、そうするとこれは幼生だと思うんだ……たぶん近くに母親が居るはずなんだ……」
「えー。ヤダよー。モーザ君止めてよお」
「だっだよなあ。止めようか」
と言いつつ、ちょっとモーザは行きたいんだろうな。話によると親はかなり強い魔物らしい。レッドベアじゃいまいち消化不良か。
「じゃあ、モーザとオレで探してこよう。みっちゃんとスティーブはちょっと待っててもらっていいか?」
そう言うと2人で探し始める。モーザの気配察知頼りですぐに見つかると思っていたが、蜘蛛は気配を消すのが得意らしいので察知範囲には今の所引っかからないという。しかし子供が居たんだ、そんな離れてるはずは無いだろうと近場をくまなく探していると。オレの感知に引っかかる。
手でモーザに場所を示すとモーザもようやく場所を確認する。
……ああ。俺もこれ無理だ。
2mくらいある毛長の蜘蛛が木が密集している間ににジッとしているのが見えた。よくある蜘蛛の巣の様な物はなかったが、糸に巻かれたレッドベアか何かの死体が横に転がっている。胴体辺りは食い荒らされたのかボッコリと穴が空きエゲツない。
(ショーゴ、俺が行っていいか?)
(もちろん! どうぞどうぞ)
(よし、悪いな)
この世界の住人は虫に対して生理的に受け付けないとか無いのかな。モーザは自分にバフを掛けると嬉しそうに槍を構えソロリソロリと近づいていく。蜘蛛もそれに気がつくと鋏角をギラリとモーザに向けた。
……
……
「ちょっと! ちゃんと洗ってよ!」
恐らくモーザの<毒耐性>はアサルトスパイダーに有効だったんだろう。こいつの毒もモーザには効かなかったためスパイダーは有効な攻撃を与えることが出来ず、苦戦の中モーザが見事とどめをさした。
蜘蛛の体液でベトベトのモーザにみつ子が卒倒しそうな顔で回復魔法をかけ、皆で水筒の水をじゃぶじゃぶモーザに掛けながら洗い流す。当のモーザはビジョビジョになりながらもやっと喉のつかえが取れたような満足気な顔をしている。レベルも上がったし。なによりパワーレベリングが続いてストレス溜まってそうだもんな。
そして頃合いと言うことで皆でゲネブに向かって走った。
あ。俺? 普通に強くなってたよ。力が強くなったぶん。でも特筆するような特殊な技とか身についたわけでもないんで。
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