第293話 遺跡封印 2

「もう良いのかしら?」


 外で料理を作ってくれていたフルリエが、食べ物を差し出しながら俺に聞いてくる。


「ああ、悪いな心配かけちゃって。後始末も任しちゃったし」

「気にしないでください。ギーガマウスでしたっけ? だいぶ強い魔物でしたからね」

「そうだね……あ。爺さんは戻ってきた?」

「いえ、まだですわ……あら?」


 噂をすればだ。今度はちゃんと気配を殺さないでゾディアックはやってきた。かなりバシバシとサポートで遠距離攻撃を続けていたと思うが、ジイさんは飄々とした感じで現れる。


「お疲れさん。助かったよ」

「ああ。まあ、お前さんにはワシの手出しなんて必要なさそうじゃったな? それにしてもなんじゃ? あれは」

「あれねえ……」


 まあ、この際だ。皆で食事もするんだ。軽く話をする。ただ、プレジウソは龍珠の話に魂が飛びそうになっている。それはそうだ。龍や龍神だってプレジウソたちのサイドの神話の話だ。崇めそうな勢いで俺……じゃなくて、その上に浮かぶ龍珠を眺めている。


「話を聞くと人の体で受けるには、少々厳しそうじゃの」

「だなあ。ちょっともう勘弁って感じ」

「ふぉっふぉっふぉ。じゃが龍の寿命は千年に及ぶもの。その後見人たるお主もそれなりに長生きする頑丈な身体になってたりするんじゃないのか?」

「ん? う~ん……まあ。どうなんだろうな……」


 そう。そこなんだよな。俺が龍を背負うことで心配してるのは。


 みつ子や、周りの仲間が死んでいく中で1人でいつまでも永遠みたいな人生を歩むのはちょっと怖い。人に譲渡出来るのか? とか、龍珠を得てからここ5年ほど、たまに考えては少し悩んだりしていた。

 みつ子なんかは「永遠の若さは憧れよ」なんて鼻で笑っているが、夫と妻の見た目年齢の差は来るのかもしれない。島の村長と奥さんを見たときも、エルフと人間種の寿命の差を目の前にして少し感じるところも合ったんじゃないかな。

 とりあえずこの5年でのなんかしらの差は生じてきては居ないが。地球に居た頃の感覚だと人間は20歳くらいまでは成長して、後は老化の一途をたどるイメージ。ここから何かが変わっていくのかもしれないなあ。




 まあ、わからないことを悩んでもしょうが無い。とりあえず今後の流れを決めていく。


 集落には過去の勇者の封印を掘り出しした時の、道具のような物も多数残っていた。自分たちで掘り出したのか、アンデッドを使って行ったのかは分からないが使えるものは使うことにする。


「じゃあ、まずは石を集めてくるか……。で、ハーレーの土魔法をどう使うか。あれ? 爺さんも土魔法は使えるのか?」

「使えるぞ。まあ、ある程度じゃがな」

「まあ、期待しておくよ」


 イメージ的にはゴブリンの巣穴埋めに近い。みつ子とプレジウソがひたすら<聖刻>を刻んだ石を順に中に運び、それで埋めていく。ある程度遺跡がある部屋を埋められたら、あとは土魔法などでガッチガチに埋めてしまおうと。


「でも、私がレベル100くらいまで上がったらまた封印に来るんでしょ?」

「ええ? まあ。気が向いたら来てもいいけど……」

「だったら、掘り起こしやすいようにしたほうが良いんじゃないの?」

「ん~。まあ、そのときは結構乱暴に爆破とかで掘り起こせば?」

「そうねえ……」


 うん。その時はその時だ。レベル100なんて到達するかも分からないしなあ。かなり真剣にレベル上げしないといけないが。俺もみつ子もそこまでガッツリチートを楽しもうと言ったタイプではない。現状でもそれなりに強いしなあ。


 それにしても、スラバ教団の人たちの扱いが悩む。こちらの世界の生まれのモーザ達は普通に「殺しちゃおうか」くらいな感じも在るのだけど……この世界に5年以上住んでいても今だに躊躇をしてしまう。殺しに来ている戦闘での殺人には特に抵抗は無いんだけどなあ。捕まえて無抵抗な人間だぜ? あの時戦いながら殺しちゃえばこんな悩みは発生しなかったのかもしれないが。


「でも、捕獲したのは……5人だけか。食事とかの補給も兼ねて1人ずつ村に運んでもらうか」


 捕虜の問題もなかなか頭を悩ませる。俺は1人だけ<ノイズ>で気絶をさせたりしたが、あとはギーガーマウス等との戦闘にかかりっきりだった。他の仲間達はアンデッドと教団員が混じっているためにそこまで手心を加えられなかったようだし、ゾディアックが狙撃したりしたので死んだ人間のほうが多い。

 みつ子も割と自分より弱いものを気軽に殺していくのに抵抗はあるんだろう、気絶させていたっぽいので殆どが俺とみつ子の産物というわけか……。現地人には甘い2人だなあなんて思われているんだろうな。


「運ぶって……ハーレー?」

「そそ、モーザだけの状態のハーレーの脚なら1日で着きそうだしな、行きは背中に1人くくりつけて気持ちペースは落ちるかもしれないけど、まあ大事に運ぶ必要もないしな。それで向こうで管理してもらおう」

「……行くのは良いが。村の人間はモルニア商会の事を信用してるんだろ?」

「そこでモーザの英雄性に期待だ。頼んだぞ」

「適当だなオイ」



 話が決まれば動き始める。1人を選びハーレーの背中の二筋在るヒレの間にセットしロープで固定する。


「気をつけていけよ」

「ああ、暴れたらノイズ使うだけだ」


 ま、問題はないだろう。一応魔法使いのようだから魔力封じのブレスレッドも付けた。容赦のないハーレーが全力で走れるのが嬉しいのか「ぶっ飛ばすどー」と鼻息を荒くする。



 残ったメンバーのうち、フルリエとゾディアックは捕虜の監視と雑務。みつ子とプレジウソが<聖刻>係。残りが石集めだ。

 山の方に登っていくと、ゴロゴロと石がある。荷車も使ってピストンの様に洞窟前に運んでいった。


 運ばれた石と、<聖刻>を刻まれた石が少しづつ増え始める。

 二人が言うには、そこら辺の山から取ってきた石にも呪いの力が染み付いているようだ。<ホーリー>で浄化してから、<聖刻>を刻んでいくと、より定着が強くなるらしい。

 だが1つ1つの石に魔法を2つ使うのは案外きついようだ。プレジウソがすぐに魔力切れを起こす。顔色を変えずに魔法を使い続けるみつ子に最初は対抗するように必死にやっていたプレジウソだが、やがて音を上げて手を止める。


「プレジウソさん、んと魔力切れでフラフラするの分かるんですが、気絶するまで使い切っちゃってください」

「な、なに?」

「かなり追い込んで魔力を消費したほうが<魔力増加>とかのスキルが発生しやすいんですよ。体がそれを必要だと感じるみたいで」

「……そうなのか?」

「はい、うちの社員は基本的にそうやって育てているんで。だから他所の冒険者たちよりずっとスキルも多いんです」

「なるほど……きついがやってみよう」.

「マナポーションもある程度は有るんで、無理やり使いまくりましょう」

「マ、マナポーション……」


 ああ……あんま美味いものじゃないからな。

 と言っても、プレジウソ自体も<聖刻>まで持っているエリートだ。おそらくこれを生やすためにだいぶ努力はしてきたと思うのだが……。スクロールで覚えたのなら勘違いだが。


 <聖刻>を刻まれた石のスピードの問題や、やはり遺跡の近くに行くリスクを考えてはじめは俺がこまめに埋め始める。こりゃあ……時間がかかりそうだ。人より力も強いから重機が有るごとく動けるが。まあしょうがない。


 そうして、遺跡封印作業は少しづつ進んでいった。



※明日は休むで~

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