第292話 遺跡封印 1

 ギーガマウスが倒れるとあとは一方的な展開になる。ボストークも曲りなりにもレアなネクロマンサーという職業だ。自称だがヨグ神の祝福をもっているという。確かに<ノイズ>にも耐えるため、普通に殴って気絶させた。


 一応だが、みつ子とプレジウソがアンデッドたちの浄化も行っていく。

 集落の中で気絶させたスラバ教団の連中等を一纏めに数珠つなぎにし、アンデッドや死んだ教団員は火葬にしていく。




 そして、そんな中俺は。只今絶賛嘔吐中。


「うげげげげげげ」

『死ぬのかしら? やっぱり厳しかったんじゃないの?』

『まあ慣れだろう。初めてなんだ。このくらいのダメージは出る』


 他人事のような龍珠達の会話に突っ込む気力すらねえ。


 レロレロレロレロ……


「大丈夫? 省吾君……」


 後ろからはみつ子が心配そうに声を掛けてくる。俺の<強回復>の存在を知ってからは、あまり回復をくれなくなってきているのだが、マーライオン状態の俺にどうするか躊躇しているのだろうか。

 俺は、震える手を軽く振り、大丈夫アピールをしておく。


 ギーガマウスを目の前で潰され、愕然とするボストークを気絶させた所でガルが『そろそろ危険だな』と俺にかかっていたエンチャントを切った。ガルから流れてきた力が止まると、留まって残っていた力が行き場を失ったように俺の体の中をぐちゃぐちゃにして行く。そんな感じだ。

 ただ、ガルが言うには単に過剰な負荷でいろんな細胞が破壊されていて、エンチャントが失われたことで一気にダメージとして襲いかかってきたようだ。

 特に脳内のブレはひどい。最悪の二日酔いと、車酔いと船酔いが一気に襲いかかってきたような状態だ。めまいと吐き気と頭痛がごちゃまぜに押し寄せてきている。


 はぁ。はぁ。はぁ。きっつぅう。


 もう、胃液しか出ない。

 嘔吐物で汚れた地面からフラフラと離れ、草むらの中に倒れ込む。朝露なのかやや湿った草に服が濡れるのがわかるが気にはしていられない。グルングルンと回る頭で、ぼんやりと流れていく雲を見つめる。


 集落のチェックなどはすべて仲間たちに任せている。流石に遺跡の中に入っていくのは任せきりにはしないが。もうちょっとだけ休ませてもらおう。


 少しづつ脳の中が落ち着いてくるのが感じられる。外傷が無いくせに<強回復>が働きガンガンと魔力を消費しているのを見ると、相当な内傷を負っているのかもしれない。



「大丈夫か?」


 ある程度片付いたのだろう、モーザがやってくる。


「なんとか……少し落ち着いてきた……」

「そうか……」

「……ん? どうした?」

「……あの動きは、なんなんだ?」


 そうか、<纏雷>の事だな。今まであんなのを見せたことはなかったし、モーザは強さに対してのプライドというかエゴが強いからな。そりゃ気にはなるか……。


「龍珠が、雷の方の。そいつがなんていうか、力を貸してくれたんだ」

「龍の???」

「ああ……。それの揺り返しでこのザマだ……あれは人間向けの物じゃねえよ」

「かなりキツそうだな……」

「死にそう」


 それでもモーザは何かを言いたげに、寝ている俺の横に立ち尽くしている。


「ハーレーにもあるのかな?」

「え?」

「龍と竜の違いはあれど眷属だ。ハーレーの力を借りるやり方があってもおかしくないと思わないか?」

「えっと……まあ、そうだな。もっともっとハーレーとの繋がりを作れば、もしかしたら?」

「そうだな……見てろよ」


 むう。やはりモーザは悔しいらしい。俺としてはこんなのもう勘弁なのだが。単純な強さとしては相当だろう。あのエンチャントがかかった時の万能感はやばい。

 しかし出来るのか? ハーレーは。ちょっと知能があれだからな。無事にサイクロプスも仕留めているし強えんだけどなあ。でも、モーザとハーレーとの契約もスキルとして発生してる。俺の後見人のスキルを考えれば、何か一段階深いのが有ってもおかしくないのかもしれない。


 ゾディアックはまだ森の中にいる。元職業ゲリラの感覚なのだろうか、まだまだ警戒は解かないで有事を想定しているのだろう。



 集落の建物の内、大きめの建物はアンデッド達が居たようだ。アンデッドに家をというのも変な感じはするが、どうやら人間タイプのアンデッドと魔物タイプのアンデッドで扱いが違ったようだ。人間タイプのアンデッドには擬似的に人間のような生活を与えたかったのかもしれない。

 他の2軒は、教団員の居住スペースのようだ。一応確認するがかなりの量の食料なども蓄えられており、この村での継続的な生活を想定してあるようだった。面白いことに意識を取り戻した教団員に聞くと、俺達はそんな俗世の人間たちと違って食事もそんな食べなくていいんだ。というようなことを言っている。

 やっぱり、死骸をアンデッドに変える呪いの影響を近場で受けることで、生きながら少しづつアンデッド化をしていたのかもしれない。




 村の奥の崖になっているところに洞窟があり、その中に遺跡が安置してあるようだ。確かにそちらの方からはビンビンと嫌な気配を感じる。

 モーザやミドー、フルリエの3人は龍の加護を持つ黒目黒髪なのだが、ジンとゾディアック、そしてプレジウソは違う。呪いの効果は祝福や加護を持った人間は影響を受けにくいと言うのを考えると、少し躊躇する。

 ただ、自ら祝福持ちと言っていたボストークは真っ白だ。そう考えると祝福とかも関係ないレベルの呪いなのかもしれないが……呪いがなんとなく放射能汚染的に感じてしまい、考えれば考えるほど厄介な仕事だと感じる。

 

「とりあえずさ、私が皆に<聖刻>を刻んでいくよ~。そうすればある程度呪いの効果も防げるんじゃない?」

「お? そうか、そうだな。じゃあみっちゃん頼むよ」

「うん」


 確かにみつ子に<聖刻>でコーティングしてもらえればかなり安心感はあるな。


 とりあえず俺とみつ子とプレジウソが洞窟の中に入っていく。流石に縛ってあるとはいえ、ボストークたちも居る。モーザ等には外の警備をきっちりしてもらう。

 中に入るととたんにひんやりした空気が奥の方から流れてくる。これは、かなり奥が深いのかもしれない。


 それでも5分程か、<光源>の明かりを頼りに、湿った石で転ばないようにと洞窟の中を進んでいくとそれはあった。長方形の真っ黒なただの石の板なのだが、近づけば近づくほどリィィィンっといった耳鳴りを感じる。


「なんか……すげえモノリス感が……」

「モノリスって?」

「んと、オーパーツ的な? こんな物が地球の遺跡で見つかったんだよね、それにしても……石なのか? 金属なのか?」


 なんとなく、あまり近づくのも憚れる。プレジウソも只事じゃないと感じるのだろう。顔を真っ白にして胸から下げた教会のシンボルをぐっと握りしめている。


「あまり長く居るのも良くないかな。とりあえず一度外に出ようか」

「そうね……なんか気味が悪いわ」


 道中、洞窟の壁などにみつ子が気まぐれのように<聖刻>を与えていくが、なんとなく定着が弱い気がするという。外に出た俺達は、少し離れた山から石を持ってきて、そこに<聖刻>を刻んでどんどん洞窟の中に運んでいく事にした。


「結構重労働になりそうだなあ」

「まあしょうがないよ。<聖刻>刻めるのが二人いるし、あとは俺たちで頑張って労働するべ」


 おそらく過去の勇者も洞窟の中に同じ様に<聖刻>を刻んだ石などを突っ込んで封印したのだと思う。その時は過去の勇者と、その妻の聖女の2人で封印したことを考えれば人数的にも文句は言えないだろう。


 教団員達を1つの小屋に入れ、外から出られないように閉じ込める。教団員の小屋からは魔力封じのブレスレッドなども有ったためそれを一人一人に付けようやく安心感が生まれる。

 俺達は作業前に昼飯を取ることにした。

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