第291話 スラバ教団 4

 ガル……起きていたのか。いや。これだけ戦闘になれば当然魔力も動きまくるしあたりまえか。むしろ今まで黙って見ていた事がむかちゅく。


「出来るのか?」

『出来るぞ。雷魔法の一発でもぶっ放してやるぞ』


 マジか……それは……願ったり叶ったりかもしれない。ただ無駄に俺の上に浮遊しているだけじゃ意味なさすぎだもんな。よし。働いてもらおう。


「すげえの行けるか?」

『任せろ……ゲネブダンジョンのタコ人間のあれはどうだ?』

「おおおお。イリジウムのやつか。良いねえ~」


 俄然気持ちに余裕が出てくる。確か<ニョルニム>といったな。あれだけの魔法だ。タメは必要だろう。俺はスピードを殺さずに体術でギーガマウスの意識を散らそうとする。俺の接近に合わせて口を開くギーガマウスは攻撃手法もかなりシンプルだ。だがシンプルながらに最高に嫌な攻撃となる。近寄っては逃げ、近寄っては逃げるという行動を続ける。唇辺りでも斬れればと思うのだが俺のスピードだと微妙に開口スピードに追いつかない。


「まだか?」

『ん? 良いのか?』

「いや、お前の準備を待っていたんだよ」

『準備なんていらないぞ、すぐに行ける』

「くっ!!!」


 なんだ、5年も一緒に生活をしながら全く意思の疎通が出来ていない感じは。相棒感も全くねえ……。コイツ等が喋れると分かった時点で少し連携を練習するべきだったのかもしれない。


 俺は後ろに飛びすざりながら、叫ぶ。


「撃て!」


 俺の号令とともに頭上の龍珠から魔力が膨れ上がってくる。おおお。すげえ。辺りの空気にまで電気が帯電しているように、バチッバチッっと髪の毛が逆立つ。ギーガマウスも一瞬動きを止め警戒感を示す。


 そして龍珠が分裂するかのように雷球がゆっくりと龍珠から出てくる。


 一瞬の静寂の後にバチバチと雷球が膨れ上がり巨大な人形を形成していく。


「なっ。こっこれは!!!」


 ギーガマウスの後ろの方でボストークが焦りの姿を見せる。


「ふふふ。光栄に思え。雷魔法の最上位だ!」


 俺はまるで自分がこの魔法を発したかのようにドヤ顔で答える。現れた雷の巨人<ニョルニム>がギーガマウスに向かい歩き出す。そのギーガマウスは<ニョルニム>をじっと見ていたが、ふとブルブルっと身体を震わす。


 ん?


 そのままグググっとギーガマウスの身体が巨大化し始める。


「へ?」


 巨大化した口をがばっと開くとそのまま<ニョルニム>を飲み込む。バチッバチッとギーガマウスの体が痙攣をしながら体毛が逆立つ。


 ……。


 やがて雷撃的な反応が静まると、つぶらな瞳を俺に向ける。


「ま……まさか……」

『むっ。なかなかやるではないか』

「ばっばっばっば、バカヤロー!!!」


 ギーガマウスが口を開くと巨大な雷球が飛び出してくる。人の形は完全に崩れていたが十分過ぎる驚異だ。まずい。これはもう逃げの1手だ。完全な及び腰の俺にガルが答える。


『問題ない』


 お?


 ガルが雷球に向かうと今度はギーガマウスが吐き出した雷球をゴーーという轟音と共に、吸い尽くす。


 ……


『さあ、どうするかだ』

「振り出しかよっ!」

『む……それではエンチャントでもするか?』

「はい?」


 なんか、投げやりになってきてねえか? そんな事を考えていると、メラが声をかけてくる。やはりコイツも見ていたか。


『エンチャントって、あれ?』

『うむ、そうだ』

『だって、そんなのしたらこの子壊れちゃわない?』

『大丈夫だろ? 軽くだ軽く。それにコイツも龍神様の祝福をもってるんだ。耐えられるだろう?』

『でも、そもそもこの子、そんなレベル高くないわよ?』


 ……な、なんだこの会話。妙に剣呑な……。


「ちょっと、待てよ。何だその危険な匂いがムンムンじゃねえか」

『我ら龍はそれぞれが、お前らの言うユニークスキルの様な物を持っている。主に自分に使うものだがな。それをお前に使ってみようかという話だ』

『だから、それは龍の身体に適した魔法でしょ? 人間の体で耐えられるのかしら?』

『だからやってみれば良いと言っている。この魔物に食われるよりはマシだろう』


 うん。やっぱ駄目な感じだ。


「……いや、違う方法をお願いしますっと。うぉおお」


 龍珠等と話していると、ギーガマウスが俺を喰わんと次元を超えてやってくる。俺は必死に逃げながら剣を振るい、牽制に魔弾を飛ばす。マジ死にそうなんだが、コイツ等と来たら……。


『纏雷だ。問題なく我の力を体現できるだろう』

「いや、だから別の方向でっていって――ぅ」


 お?……あ、が……あ……ががががががががが……。


 ガルは俺の意などまるで無視だ。俺とガルとの間にある意識のバイパスを通し、何かが勢いよく流れ込んできた。その何かは、雷龍のガルらしくビリビリと身体の芯まで電気が走るように痺れる。脳細胞も焼き切れそうだ。


「ガ……ガル……ギブギブ……無理っ!」

『ギブ? 何だそれ』

『ほら駄目なんじゃない? 止めときなさいよ』

『いや、拒絶はされておらんぞ。うむ。少しずつ馴染んてる』

「おおおおお、馴染んでねえ!!!」

『ほら、言葉が少し流暢になってきたぞ』

『あら? 意外といけるのね』

「ゴォラアア!!! 殺す気か!!!」


 ゴタゴタやってるとギーガマウスのでかい口が目の前に開かれる。ん? あれ? 妙に口を閉じるスピートが遅く感じる。ノンビリと口の閉じるのを眺めながら避ける。そのまま反射的に閉じた瞬間の口の外皮に向けて剣を振るう。


 ブシャッ。


 今回は完全にいけた。今までの後の続かないギリギリの避けじゃない。余裕を持っていけた。


 なんだ? まさか?


 俺は以前、雷魔法を教会で選んだ時に、裕也と話した会話を思い出した。神経細胞は微弱電流でスピードアップさせる。そんな事だったと思うが……あれか? <纏雷>って。脳細胞から神経細胞まで、全てを加速させるのかもしれない。


 次元に身体を沈ませ存在が薄くなっていくギーガマウスに再び斬撃を振るう。一瞬軽く抵抗感があった。まにあったか? そして頭上に再び気配が産まれる。俺は開かられる口腔を見ながら横に飛び口角の辺りを斬る。そして軽く跳ねつぶらな瞳に剣を突き刺す。ヒネる。切り上げる。

 まるで停止物を斬るかのように、斬撃を打ち込む。存在する時間軸がまるで違うような感覚だ。ああ。加速装置っぽいのかもしれないな。


『急げよ。あまり長くなると脳が溶けるぞ』

「マジかよ!」


 これは余裕と若干気を緩めたが、慌てて急ぎ始める。


「ギッギギギッ!!!」


 突然俺のスピードが上がり、全くついていけないギーガマウスにも戸惑いが見られる。今までパッと消えるように次元を移動していたのだが、今の俺にはスウッと消えていくが見える程だ。そして俺の剣の切れ味もヤバいことになっていた。スピードは力と言うがまさにそれなのだろ。ギーガの巨体を斬るためにほぼ剣の根本までめり込ますように斬るのだが、全然問題なく刃がめり込んでいく。豆腐でも斬るがごとくだ。


 あれほど攻めあぐねた敵だったが、すでに一方的な戦いになっていた。

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