第290話 スラバ教団 3
「なっ!!! 貴様ぁ。話の途中に仕掛けるとは何たる非道な!?」
「いやいやいや、ちょっとまってっ! 俺達がけしかけたんじゃねえよ。ドラゴンは巨人種が天敵だから勝手に戦っちまうんだ」
「ふざけるなっ! 自分たちがテイムした魔物くらい自分たちで抑えろっ」
「お前みたいな使役と違うんだ。ハーレーは仲間なんだから、命令なんて出来ねえんだよっ」
まあ戦うことにはなるだろうと思っていたが、もう少し奴らの話を聞いてみたかった所がある。だが、ハーレーとサイクロプスが戦い始めるとすぐに現場は戦場になっていく。
子供と言ってもハーレーもかなりのデカさだ。迫力満点すぎる。次々と石の槍を放っていくが、サイクロプスも棍棒をグルグルと回しそれを防いでいく。スラバ教団の連中も巨大怪獣決戦に唖然とし、動きが止まっていた。
「しかし、頼りの巨人がドラゴンと戦えばもうお前に手はないだろう。降参しろっ」
「舐めるな!」
先程ボストークが言っていたが、おそらくネクロマンサーとしてのボストークに使役が出来るアンデッドは数体じゃないかと思う。いきなり出したのが、かなりの大物と思われるサイクロプスだ。予想だとゾディアックが見たギーガマウスとやらもこいつが使役している気がする。どんな魔物か解らないが気をつけるべきだろう。
ボストークが俺に向けて手を伸ばす。サイクロプスの時と同じ様に魔法陣が浮かぶ、今度は3つだ。俺は余裕を持ってそれを受けるべく気持ちを集中させる。と。隣りにいた男が俺に向けて魔法を撃ってきた。
タイミングは良いじゃないか。
だが、もはやその魔力濃度を見ても危機感すら沸かない。俺はグーにした拳に魔力を込めて飛んできた火球を払いのける。
「なっ!」
傷一つ付けることが敵わず驚愕に目を見開く教団員にそのまま<ノイズ>を叩き込む。崩れ落ちていく男に気を向ける暇もなく、ボストークが魔物の呼び出しを完了させる。こいつは力技で負けを認めさせたい。<ノイズ>は無しだ。
なんだ?
ポン。ポン。ポン。
魔法陣からは3体の小型の魔物がでてくる。そいつらは狐のような、細い顔の獣で右肩から片翼のような触腕のようなよくわからない物がついている。こんなの見たこと無いぞ。
狐たちは俺めがけて突っ込んでくる。かなりのスピードだ。先頭の狐が真正面から突っ込んでくる。俺が避けようとした瞬間、首をぐっと下に向ける。同時に首の後ろから例の5本目の腕のような器官が真っ直ぐに俺に向かって伸びる。
ガン!
その腕を剣で受ける。小さめの体にそぐわない重い一撃に一瞬態勢が崩れる。くうっ! そこに2体の狐の触腕が襲いかかる。一方の一撃を躱しつつ、もう一匹の攻撃を剣で受け流す。んぐ。やっぱり重い。スピードか? 重さの理由は。
3匹の連携は完璧だ。なるほど。サイクロプスだけじゃないようだ。3匹は俺に攻撃の手を出させぬよう絶妙のタイミングで攻撃してくる。
「1匹俺がやってやるよ」
俺が三匹の連携に攻めあぐねていると、横から1匹にモーザが槍を突く。この魔物たちが連携でしか戦わないタイプだとどうなるかと思ったが、モーザに攻撃されたそいつはすぐにモーザに向かって攻撃をしかけていった。……やはりアンデッド化で少し思考が単純になっているのかもしれない。
だが、チラリとボストークの方を覗き見るが、その顔色は変わらない。周りではスラバ教団と思われる信徒達が撃つ魔法や弓が飛び交っている。少しづつ人を集めたのだろうか。思った以上の人数に驚く。アンデッドにはオークも混じり、人数的な戦況はかなり厳しい。ボストークもそれを見て負けることなど考えていないのだろう。
狐の魔物は3匹の連携が崩れ、2匹に変わると、攻撃のリズムを変えてくる。なるほど。2匹でも対応は出来るということか。ただまあ。コイツラの攻撃手法はもう理解した。予想以上に重い一撃が在るとわかれば、それ以上の力でコイツらのバランスを崩せば――。
スラッ。
狐の触腕を力いっぱい受けた瞬間、触腕はまるで抵抗が無いように力が抜ける。予想外の事態に俺は空振りをしたようにつんのめる。そこにもう1匹の触腕が伸びてくる。
ぬぐぐぐぐ。こなくそ!
いなされた力をそのままのベクトルで、剣を振り抜きながら回し蹴りの要領で触腕に蹴りをブツケル。だが俺もやや浴びせ蹴りに近い形になり、さらに態勢が崩れる。
ゾクリ。
俺の力をいなした狐が態勢の崩れた俺の死角から触腕パンチをぶつけてくる。だが……この寒気に近い嫌な感じはコイツじゃない。回転しながら、右手で地面に向け剣を突き、体の回転に勢いをつけワンバンド。
ボンッ!
俺に触腕を向けた狐の眼窩が弾ける。ゾディアックだ。俺は更に回転しながら地面を蹴りアクロバティックにその場を逃れる。
半秒前に俺が蹴った地面が、ボコッと盛り上がったかと思った瞬間、バチィンと地面から1m近い範囲がトラバサミでも仕掛けられていたかのように閉じられる。2匹の狐もそれに巻き込まれ、1匹の半身が鋭利な刃物で切られたように転がった。
来やがったか。
そのまま口を閉じたまま土が盛り上がり一匹の魔獣が姿を表す。やっぱやべえよコイツは。テイムとか考えていたが殺してアンデッド化したのだろう。物を映すだけの虚無を感じさせる瞳が俺を見据える。
「コイツは手を出すなっ! 俺がやる!」
きっとやばい。モーザやみつ子なら、とも思うが危険なリスクは負わせたくない。仲間に手を出さないように指示をしながら、<ウォーターボール>を作り魔力を濃縮して練り上げていく。
「フハハハ! 1人でコイツと戦うだと??? 多くの信徒と私の使役するアンデッドでようやく捕まえることが出来た伝説級のギーガマウスだ。……お前はアンデッドにして使いたかったがな。しょうがない。形も残らず死ぬが良い」
ギーガマウスの後ろからボストークの高笑いが聞こえる。ムカつくぜ。自信満々な顔を愕然とさせてやるのが今の俺の目的としてやるっ。
俺は横に走りながら練り上げた<ウォーターボール>をギーガマウスに飛ばす。そのまま口の上の方に見える小さめの目に向けて<光矢>を飛ばしていく、ギーガマウスを取り巻く魔力の渦が一気に濃くなり先に着弾する<光矢>は全く体に届かない。そのまま一瞬遅れて<ウォーターボール>がギーガマウスに肉薄する。
シュルン。
……へ?
ギーガマウスが口を開けたかと思うと、<ウォーターボール>はその口の中に吸い込まれた。ギーガマウスに何らダメージのようなものは見受けられない。そのままつぶらな瞳が俺の方を向く。
……ん?
再びギーガマウスが口を開けた瞬間、中から<ウォーターボール>が俺に向かって飛び出してきた。
「ぅおおおお! マジか!!!」
俺は必死に剣に魔力を集め自分の練り上げた<ウォーターボール>を弾く。ガツンと、異様な重さに一瞬動きが止まる。
あれ?
感知で捉えていたはずのギーガマウスの気配が消えていた。嫌な予感が体中を駆け巡る。俺は前につんのめりながら必死に前に飛ぶ。
バチンッ!!!
俺の今まで居た場所に再びトラバサミのような口腔が空間をえぐる。めちゃくちゃ怖えええ!!!! 俺は転がりながらも<光矢>を連打する。再び<光矢>はギーガマウスの表層で霧散させられる。それでも効かないながらも追い打ちをかけられないように俺は<光矢>を連射しながら、ゴロンと着地し、ギーガマウスに向けてクラウチングスタートのような態勢を取る。
今度は<ウォーターボール>が駄目ならと縦に<ウォータースラッシュ>を飛ばす。水魔法の斬撃だ。<ウォーターボール>程魔力を込めることは出来ないが中級魔法だけありそれなりの威力は在るはずだ。それを縦に飛ばせば……少しは嫌かな?
さらに、剣に魔力をまといながらギーガマウスに向けて地面を蹴る。
だが、ギーガマウスの口のデカさは俺の予想を遥かに超える。口をあんぐりと開けると水の斬撃はそのまま口腔内に消えていく。やばい。壁のように目の前に出現した異空間の口を前に、必死にスピードを殺しながらなんとか横にぶっ飛ぶ。
バチィイン!!!
あれを食らったら一発で終わりそうだ。冷たい汗が流れる。口を閉じたギーガマウスは、不思議そうな顔で俺の動きを目で追い。口を開く。
ヒュルルルルル。
くっそ。嫌になるぜ。
後ろにはモーザが狐と戦っている。避けれない俺は再び水の斬撃を作り出す。<ウォータースラッシュ>を<ウォータースラッシュ>で対消滅させる。バシャン! と水しぶきが舞い上がる中視界からギーガマウスが消える。
「またかよっ!」
先ほどと同じタイミングで再び消えたギーガマウスが、俺を喰わんとその腭を閉じる。
バチィン!!!
「ぅぉおおい。これ無理ゲーじゃねえの???」
転がりながら逃れた俺は、必死に攻略を考える。しかし……。どう崩せば良いのか……。
『情けない。手を貸そうか?』
ぼそっと、やる気の無さそうなガルが俺に話しかけてきた。
※超長くなっちゃいました。気持ちを切らないように明日にはギーガマウス戦の後半をアップしたいと思ってマッスル! PV激下がり! もっと頑張れ俺!
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