第289話 スラバ教団 2

 ドスンッ



 落ちたのは高さ2m程のしょぼい落とし穴だ。下にはナイフやら刃物のような物が沢山埋められていた。たが魔力も通ってない刃物だ。戦闘モードで体に魔力をみなぎらせている俺の皮膚を貫くことなど出来ない。そう。切れてなーい。んだ。


「省吾君!」

「旦那!」

「ショーゴさん!」


 心配した仲間達の声が聞こえる。ふん。こんな落とし穴で俺をどうこう出来るとか本気で思っていたのだろうか。心配ご無用ってやつだぜ。

 俺は飛び上がりつつ落とし穴の縁に手をかけクルンと一回転して穴から出てくる。「大丈夫?」と仲間たちは聞いて来るが、全然平気なので聞かなくたって良いのにと思う。


「ふぅ……」


 俺は軽く息を吐きだし、ポンポンとホコリを払う。


「大丈夫だ。俺だったから良かったよな……普通の奴らだったら大変なことになってたぜ」

「……お前、何カッコつけてるんだ?」

「なっ! なな何を言ってるモーザ。べべべつにカッコつけてねえよっ」

「落とし穴なんて、落ちるか普通?」

「ぐっ……」


 チクショー。モーザの野郎。空気を読めっていうんだ。俺は顔が真っ赤にほてるのを感じ、見られまいと仲間に背中を向けた。そしてそこには。すでにスラバ教団の人間が敵意満々でこちらを見ていた。その中でも一際偉そうにしてる男が俺を見下ろすように話しかけてきた。



「こんなマヌケに苦労して集めた兵隊たちがやられたとはな」

「けっ。穴があったら入るのは普通だろ?」

「永遠に穴に入っていれば良いものを……」

「それに、どいつも望んでアンデッドになったわけじゃねえだろ? 人権侵害も甚だしいわ」

「人権??? なんだそれは」

「知るか……で。お前は何なんだ? スラバ教団とやらの親玉か?」

「ほう、スラバを知るか……そこの司祭か」

 

 そいつは憎々しげに俺たちの後ろにいるプレジウソの方を見る。オレたちの情報が流れていると成れば、司祭が遺跡の封印で頑張ってくれるというようにコイツ等も考えているだろう。俺たちもミドーとフルリエの2人にきっちり守るように指示は出してある。


 ん? そうか。コイツはどうやらシュトルム連邦の言葉で話しているのか。ゾディアックが闇に紛れている今、言っていることが理解できるのは俺とみつ子だけだ。しかも、俺は普通に共通語を喋っているかのごとく、仲間たちには聞こえている。すげえ不思議な感じになってそうだ。


「まあいい。お前たちも我らの兵隊として働いてもらうだけだ」

「おいおい。ちょっと待てよ。お前らは一体何なんだ? スラバ教団とか言ってるけど、当のヨグ神は死んだんだろ? 死んだ神より生きてる神を信奉したほうが現実的じゃねえのか???」

「貴様……」

「しかもヨグ神を信奉したって、死んでもアンデッドになって永遠に生きられるとか考えているんじゃないのか? そんな自分の意志が無いような人生に何の意味があるんだ?」

「……分かったつもりの無知程、哀れな人間は居ないな」

「どういうことだ?」

「お前に言ったって意味のないことだ」

「……」


 たまにいるんだよな。「お前は知らないから」みたいな事を言いながら、上から目線で何を知らないかの説明もしないやつ。ちょっとイラッっとするけどな。

 でもまあ、こいつらが何を目的にしているのか興味が無いわけじゃないんだ。


「意味ないって、そう思うのが意味ないんじゃないのか? ん? お前はスラバ教団の人間だろ? 信徒を集めるなら説明をしなくちゃいけない。違うか?」

「……口から産まれたような男だな。何が知りたい」

「お前は何者なんだ? その白いのは民族的な特徴なのか?」

「……良いだろう。相手をしてやる。私の名はボストークだ。我らのこの色は生まれつきではない。ヨグ神の祝福を得ての結果だ」

「祝福って、ヨグ神は死んでるんだろ?」

「ヨグ神は生きておられる。卑劣な神共にその力を削られただけだ」

「削られたって、そんなの証拠とかあるの? 説明できるの?」

「そんな事は我ら信徒には分かることだ」

「ほら。そんなの狂信者の思い込みって言われてもおかしくないだろ? ちゃんと信徒意外にも証明出来ないものなら、それは信憑性が薄いですよね?」

「事実は事実だ、信憑性なんて関係ない」

「いやいやいや。だってそんなの信者を騙す嘘ですって言ってるようなもんだよね? 証明出来ないんでしょう? 出来るんですか? はい、か、いいえ。で答えてください。どうぞ」


 ふふふ。こういう時はどこかの巨大掲示板を立ち上げた某インフルエンサーのやり方を真似すれば良いんだ。細かいことは何も知らなくてもディベートで相手をぶっ潰すスキルさ。ボストークも白いおでこに青筋を――。


「はい。だ」

「でしょ? 無理でしょ? 死んだ人間と同じで神だって死ねば――ん?」

「証明してやろう」

「はい? いや。でもどうやって???」


 ゴゴゴゴ。


 ボストークが手を前に差し伸べると、物理的な音がするわけではないが、地面から一匹の巨人が浮かび上がってきた。巨大な1つ目をその巨人を俺は知っていた。そしてその巨人の目もアンデッド特有の意志の宿っていない空虚な色をしている。


「サイクロプス……?」

「そうだ。私は生まれ出たときより、ヨグ神の祝福を受けた男だ。死霊使いとして私個人でもアンデッドの使役が出来る。わかるか? 私こそがヨグ神が生きていることの証なのだ!」


 まじか……いや、たしかにネクロマンサーが居るということは、その祝福か加護を与える神が居るのかもしれないが……いや、しかし。そんな話聞いたこと無いぞ?


「じゃあ、今までいたアンデッドたちもすべてお前が? ヨグ神の遺跡関係なく?」

「残念ながら私の力にも限界は有るのでな。ほとんどのアンデッドたちはヨグ神の御力をおかりしておる。そしてその力は日々大きくなられておる」

「大きく……?」


 その時後ろからモーザが声を上げる。


「ショーゴ。駄目だ! ハーレーを抑えられねえっ!」

「は??? あ……もしかして巨人か???」


 そういえばドラゴンは巨人を倒すために生まれてきたような種だ。サイクロプスは厳密には巨人では無いかもしれないが、亜巨人と言っても良い存在なのだろう。そんなのが目の前で顕在すればハーレーの血が滾りまくる……のか?


 ゴゴゴゴ。


 後ろの方で小さくなっていたハーレーが元の大きさに戻っていく。いやいやいや。音がサイクロプスが現れるときと同じじゃねえか??? 対抗してんの???



『巨人は、オデが倒すデ!』


 俺たちが止める間もなく、ドーンとハーレーがサイクロプスに向かって飛びかかっていった。


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